牛化

「昔は、『ご飯を食べてすぐ寝ると牛になる』なんて言われていたけど、今のストレス社会じゃ仕方ないよな。」
「そうですね。」

「でも、いつも思うんだが、普通、飯を食っても牛にはならないよな。」
「はぁ?」

「趣味で色々考察しているんだが、例えば、いつも食べてばかりで運動しない、小太りの宇さんという人、つまりは宇氏がいて、食べ過ぎると宇氏みたいになるよ、というのが語源だったりしないかな。」
「宇さんですか・・・」
 営業担当の男は、そんなことはなかろうと思いつつも、付き合いでうなずいた。

「他にも可能性がある。例えば、牛みたいな姿の異星人が居て、人間に擬態していたとする。そして、腹いっぱい食べて寝てしまうと、集中力が切れて牛の姿に戻ってしまった、それを誰かが見た、というのはどうだろう。」
「い、異星人ですか・・・」
 男の顔色が変わった。額には汗がにじみ出ている。

「どうかしたかな。何か調子が悪そうだが・・・」
「いえ、何でもありません。あっ・・」
 男は、スーツのポケットからスマホを取り出して画面を見た。

「す、すみません。会社から緊急の呼び出しが掛かりました。折角の機会なのにすみません。社に戻ります。」
「いや、仕事なら仕方ないよ。また日を改めて誘うから・・」
 男は、もう一人を残して、逃げ去るように中華料理屋から出ていった。


 男は10分程走ったところでようやく立ち止まった。

「さっきのは、いったい何だったんだろう。眠りを誘う料理屋、眠ると牛になるという言い伝え、牛が実は異星人だったという考察・・・

 彼は、俺が地球人に擬態した牛型の異星人であること、そして彼から軍事機密を盗み出そうとしていることを知って、軍事機密は流さないぞ、という警告を与えたということだろうか。

 擬態がばれるはずはないのだが・・・」

 男は、もう諜報活動は断念せざるを得ないと思い始めていた。

おしまい
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