N教授のオリエンテーション

                          -修.

「ようこそ、私の研究室へ・・・」
 きっちり折り目の付いた白衣を着たN教授は、狭い研究室のテーブルに座った男女2人ずつの学生たちに話し始めた。学生たちは、卒業研究のため、N教授が主宰する凝固学研究室を選んでいた。そして、今日がその初日だった。

「今日は最初なので、研究テーマについて説明しよう。テーマを聞いて興味があるものを君たちの卒業研究としたら良いだろう。

 君たちは、大学が用意したパンフレットを読んでいるだろうから、ある程度知っていると思う。重複する部分もあると思うが、我慢して聞いてくれたまえ。気になる点があれば、いつでも質問していいから・・・

 まず、この研究室は「凝固」に関する様々な研究を行っている。

 言うまでもないが、凝固とはざっくり言うと液体が固体になることだ。水が氷になる相転移も凝固だが、食品で言えば、プリンなどの熱凝固や、豆腐などの凝集も凝固に含まれる。

 この研究所では物理的な凝固に限らず、「固まる」を研究することで、世間に貢献することを目的としている。」

 N教授はテーブルのペットボトルから水を一口飲み、話を続けた。

「まずは防災テーマだ。

 昨今、温暖化の影響で線状降水帯が発生し、土砂崩れや河川の氾濫が起きているだろう。今までは、崖をコンクリートで固めたり、護岸にコンクリートブロックを積んだりして対策してきた。

 しかし、コンクリートではアルカリ成分が溶け出したり、動植物が住めなかったりと環境負荷が大きい。さらに、国力が落ちているのに、メンテナンスコストも莫大となる。

 このため、当研究室では竹や笹を品種改良し、2mも3mも深く根を張ることでコンクリートの代わりをさせるという研究をしている。」

 学生たちは熱心にメモを取りながら聞いていたが、一人の学生が小さく手を挙げて質問した。

「N教授、竹や笹をコンクリート代わりするときの課題は何ですか。」
「・・うむ。そもそも深く根を張らせることも課題だが、何より竹や笹が増えすぎて他の植物を駆逐してしまうという大きな課題がある。この制御が難しいところだ。」
 学生は、なるほどといった顔でうなずいた。

「防災ではもう一つテーマがある。それは、洪水対策だ。具体的には、水害が起こると、吸水ポリマーが水を吸って瞬時に膨らんで、家を取り囲む1mほどの止水壁が立ち上がる、という仕組みだ」

 学生たちからは「すごい」という声が漏れていた。そして、また一人の学生が質問した。

「これも何か課題があるんですか。」
「そうだな。水害が収まった後が大変ということだな。1mの高さの吸水ポリマーの壁はすぐには低くならない。カンカン照りで乾燥させれば1ヶ月ほどで元に戻るが、そんなにいい天気は続かないからな。家に入りにくくて仕方ないということだな。」

 学生たちは、小さく「あ~」とつぶやき、顔を見合わせた。
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