N博士の観覧車

「まあ、百聞は一見に如かず、実験開始!」
 N博士は、いつもの通り、何のためらいもなく実験装置のスイッチを押した。

「毎分10回転、50、100・・・、順調に回転数が上がっているな。」
 観覧車は、ゆっくりと回り出した。最初は、ゴンドラは観覧車の右側では下にぶら下がって回り、左側ではゴンドラは外向きのままで上に上がって行き、一番上でくるっと下に動いていたが、だんだん遠心力が強くなってくると、すべての外向きの状態となった。

「やはり遊園地の観覧車を利用したのが正解だな。人が乗るものなので、安全率がかなり高く、丈夫に作ってある。まだまだ回転数が上がっても平気だろう。」
 回転が速くなるにつれて、1つ1つのゴンドラは見分けられなくなった。また、観覧車の回転のせいで土埃が立ち、観覧車自体が見えないほどになっていた。

「毎分1000回転、2000、5000・・・」
 そのとき突然、爆発音がし、大地が揺れた。

「N博士、今の振動は何ですか? 地震のような・・・」
 エージェントはトーチカの窓から辺りを見渡して、息を飲んだ。

「N博士、観覧車の左手の山が無くなっています・・・」
 エージェントが指さした先の、山の上部が吹き飛んでいた。
「ふむ、ゴンドラが外れて直撃したということだろうな・・・・。ということは、観覧車は・・・」
 土埃が収まり、視界が戻ってきたが、観覧車のあった場所には白いプレートだけしか残っていなかった。

「N博士、大変だ。観覧車がありませんよ・・・」
「うむ、ゴンドラが外れた反動で、観覧車自体もどこかへ飛んでいったということだな・・・。どこへ行ったことやら・・・。」
 N博士は、実験が失敗したことは全く気にしていない様子で、人ごとのようにつぶやいていた。

「いや、N博士・・・」
 エージェントは、想定される事態に青ざめていた。ゴンドラ1つで山が吹っ飛ぶほどの威力だ。もし、観覧車の残骸がどこかの町の建物を直撃していたり、死人が出ていたりしたら、投資家の損害賠償額は途方もない額になるだろうし、N博士の今後の発明活動にも少なからず影響が出るだろう。ここでN博士に告げるべきか・・・。

 しかし、N博士もエージェントも、たった今、新たな人工衛星が誕生したことに気付くことはなかった。

おしまい
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