戦いは市立武蔵が丘図書館

 折葉のレポートのテーマは、文化系の学問分野でその真価を発揮するように設計された調査ツールの構築であった。その調査ツールは、調査テーマを解析し、いくつかの質問に分解し、自動的に翻訳まで行い、各国のコンピュータに自動的にアクセスし、調査を実施するというインテリジェントツールであった。

 まあ市販のものでもそこそこの調査ツールはあるが、折葉の作った調査ツールはかなり強力にデータをサーチできる点が優れていた。折葉はあちらこちらから部品を集め、全体の設計と、細部のパーツを作成して、調査ツール自体をほぼ完成していた。

 折葉は、今日この市立武蔵が丘図書館で、引用文献の整理と、最後のシミュレーションを行う予定であった。どちらの作業も図書館のメインコンピュータを使えばさして困難なものではない。

 折葉は、机のパネルを操作して、調査ツールを立ち上げた。机の画面には大きく「オルファ・バージョン1」と表示された。折葉は、ほっと胸を撫で下ろした。完成しているとはいえ、オルファ・バージョン1はかなり大規模なプログラムになっており、市立武蔵が丘図書館で正常に動作するという保証はどこにもなかったのだ。

 折葉はキーワードを入力し、オルファ・バージョン1で使用しているプログラムの引用文献を検索し始めた。順調に行けば、10分程度で自動的に引用文献の作者や制作日などが、オルファ・バージョン1に記録されていき、調査ツールが完成するはずであった。
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