戦いは市立武蔵が丘図書館

 折葉は、窓際の空いている席に窓を背にして座った。その席からは図書館内の様子がよくわかる。机は半数ぐらい埋っているようだった。この時間帯にしては少ない方である。

 通常は空いている席を探し回るのに一苦労するところだが、この秋晴れの休日に好き好んで図書館に来る奴は少ないといったところだろうか。

 折葉自身、この図書館の常連というわけではないが、いつもはうるさく机の間を走り回る餓鬼どもの姿がほとんど見当たらなかった。子連れは観光地や公園に行っているのだろう。

 折葉は、閲覧机のタッチパネルを操作し、大学のコンピュータの自分の記憶エリアを呼び出し始めた。学生番号やパスワードの一連のやりとりを終わり、データを呼び出している間、折葉は見るとはなくあたりを見回した。

 あたりには、OL風の女性、主婦らしき女性、リタイヤ組と思われる老人、折葉と同じ様な学生、サラリーマン風の男性など、様々な風体の人々が折葉と同じ端末を操作していた。

 もちろん読書しているもののいるだろうが、その他にも映画を見ているもの、折葉のようにコンピュータを利用してレポートを作成しているものなど利用の仕方も人それぞれであろう。

 図書館にいる人々は皆どこか知的に見える。特に女性はなんとなく理知的に見える。自分もそう見えているのだろうか。ならば、その辺の女の子に声でもかけてみようか。

 折葉は図書館で何度も声をかけたくなるような女性に出会っていた。しかしそれは常に未遂に終わっていた。現実には、そのような出会いが図書館であるはずがないことは折葉もどこかで理解していた。

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