坂道を登り切ったところに、市立武蔵が丘図書館はあった。市立武蔵が丘図書館は最近オープンしたばかりの地上１０建ての巨大図書館で、武蔵が丘市が多額の予算をつぎ込んで完成させた自慢の超近代文化施設だった。

　外観はつやのある漆黒の大理石張りで、窓も黒いスモークがかかっているため、巨大なモノリスの様にも見える。外観には賛否両論があったが、市長の無類の映画好きが好じて、このような荘厳な建物になってしまったらしい。

　しかし本当にすごいのは地下の方で、地下１０階相当あるいは２０階相当とも言われており、巨大な書庫や資料室、コンピュータ室などがある。

　折葉は、縦横ゆうに６メートルはあろうかという巨大な深いスモークガラスの自動扉を抜けて、エントランスへ足を踏み入れた。

　外観とはうってかわって、中は所詮市立図書館であり、ごく普通の司書や、腕に黒いカバーをしたちょっとアナクロの事務員が見受けられた。折葉はカウンターで簡単な受け付けを済ませ、荷物を預け、エレベータへと乗り込んだ。