戦いは市立武蔵が丘図書館

 折葉は、相手の言った言葉の意味を即座に理解することができなかった。そしてしばらくたって、どうやら自分は物理的攻撃とやらをもろにくらったらしいことに気づいた。そしてどうやら、この女が今まで戦っていた敵だと理解できたときには、腕を引かれて、走り出したところだった。

 「なに、ぼやぼや突っ立ているのよ。早く逃げなきゃ。あんたがやったってことはバレバレよ。なんで私のプログラムを潰した奴のことを心配しなきゃならないのか。私ってつくづくお人好しね。

 しかし、負けるとは思わなかったわ。かなり自信あったんだけどね。仕方ないわね。負けは負け。まさか、同じフロアで向かい合って座っていたなんて…。ばかみたい。」

 折葉は、ビルの外の非常階段を全速力で駆け降りながら、よくもこうも走りながらまくしたてられるものだと感心しながら、自分も必死で走っていた。

 こんなのが敵だったなんてまったく想像がつかなかった。敵は、黒縁眼鏡のちょっと小太りか、あるいは痩せぎすで長髪の、暗ーい男性のコンピュータマニアに違いないと思っていたのだ。

 まあ自分も人のことを言えたがらではないが、だいたいコンピュータのマニアにはそんな奴が多い気がする。それが、まあよくしゃべるとはいうものの、女だったとは…。

 折葉の足は全速力で駆けていたが、頭はほぼフリーズしていた。どうも折葉の常識が、現実の認識を拒絶しているのだった。
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