戦いは市立武蔵が丘図書館

 「自分で使っているのか。それとも誰か閲覧者か。」
 今度は間髪を入れずに回答が来た。
 「閲覧者。」
 やはり誰かが引用文献を使っているようだ。折葉は矢継早に質問を入力した。

 「そいつは何をしているんだ。」
 「引用文献を使用中。」
 折葉は再び小さくずっこけた。それはわかってる。オルファ・バージョン1は、まだまだ改善の余地があるなと折葉は思った。折葉はやはりシミュレーションしてみないと判らないことはあるものだと妙に納得した。

 今度は、折葉は慎重に言葉を選んで質問を繰り返した。
 「引用文献を使用中の閲覧者は、引用文献を使用して何をしようとしているのか。」
 「不明。」

 折葉は今度はうなった。閲覧者が何をしようとしているか、図書館のコンピュータが判るはずもない。最初に気付くべきであった。では待つしかないか。しかし、レポートの締切は刻々と近づいており、できるだけ早く蹴りをつけたかった。

 「あとどのくらい使うのか閲覧者へ直接質問。質問者は市立武蔵が丘図書館名にしろ。」
 折葉は、ここからがオルファ・バージョン1の本性の見せ所だと思った。オルファ・バージョン1の制作に、だてに数か月も掛けた訳ではない。毎日バイトの後、夜中の2時、3時までプログラム作りに没頭したのは、このような状況を想定してのことだった。凝りに凝ったプログラムの真価はこういう時にこそ発揮される。

 質問は、図書館のコンピュータを通じて、引用文献を使用している閲覧者の端末に表示されるはずだ。閲覧者は、図書館からの質問と思い込み、返事をするはずである。

 市立武蔵が丘図書館の名前を出したのは、ちょっとやばいが、まあ実害はないので問題なかろう。折葉にとっては、このレポートを締切までに完成させることが最優先であった。
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