戦いは市立武蔵が丘図書館

 「いったいどこのどいつが…。」
 折葉は、ふとアイデアを思いついた。すでに自分のレポートの成果物でもある調査ツールはほとんど完成している。これを使わない手はない。

 どうせ今日はシミュレーションもやってみるつもりだったので、後でやるのも、今やるのも一緒である。折葉は端末を操作し、指示を入力した。

 「やい、市立武蔵が丘図書館。俺が調べたい引用文献を使用しているのはどこのどいつだ。」
 とんでもない会話調であったが、そこは折葉自身が作った調査ツールである。ちゃんと、現代会話の基礎知識のモジュールも組み込んである。ほとんどの会話文章は理解できるはずだ。折葉が調査開始の指示を出して、約30秒後に調査結果が返ってきた。

 「すべての引用文献を、市立武蔵が丘図書館が使用中。」
 折葉は小さくずっこけた。使っているのは市立武蔵が丘図書館などと、それはそうだろう、引用文献はすべてこの市立武蔵が丘図書館にあるのだから、当然のことだ。

 まあ、ここ以外の場所から市立武蔵が丘図書館にアクセスする者がいないとは言えないが、スピードが極端に遅くなるため現実的ではない。ということは、市立武蔵が丘図書館の閲覧者の誰かか、あるいはメインコンピュータ自身が使っているかどちらかである。

 折葉は反射的にあたりを見回した。しかしそこには、相変らず静かな図書館の風景が広がっているだけであった。もちろん周りをながめたからといって、何かこの事態を打破する策が見つかるわけでもない。折葉はすかさず、次の質問を入力した。
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