【バランシング・ダンジョン】いばら

【バランシング・ダンジョン】いばら
                      -修.

「バラか・・・・」
 長剣二刀流のキャラの俺は小さくつぶやいた。

 このRPGは、下のフロアに続く階段のある部屋にフロアボスが待ち構えている。リーダーの魔法使い、アーチャー、ヒーラーと剣士の俺の4人のパーティーが、地下31階フロアの攻略を始めてから約1時間、ようやくフロアボスの部屋にたどり着いた。

 この階のフロアボスは、バラがモチーフの魔物のようで、メインの茎の上部には大輪の花があり、その中央には上下にまぶたのついた大きな眼が半目で俺たちを見つめている。そして茎の回りには、トゲの付いた無数のつるが生えており、うねうねと動いている。金属光沢があるトゲはきっと刃になっていて、つるをムチのように振り回して攻撃してくるのだろう。

「バラというより、いばらだな・・・」
 俺はさらにつぶやいていた。

「どう攻めますかね・・・」
 リーダーも考えあぐねているようだ。
「おそらくムチ攻撃だろう。剣でつるを切れればいいが、切れないとやっかいだな。」
 俺は多くの時間を掛けて、この長剣二刀流のキャラを育ててきた。五月雨切りや火炎剣など、いくつかの強力な技を習得することができており、ムチの波状攻撃を受けても、少なくとも払いのけることはできるだろう。しかし、つるが切れないとなると、腕や足に巻き付かれる可能性もあり、かなり不利となる。

「水攻撃だと、たぶん向こうは喜ぶだけでしょうからね・・・」
 リーダーの攻撃魔法は水属性なので、単に植物に水を撒いてやっていることになりかねない。むしろ、俺の火炎剣で焼き払う方が理にかなっている。もちろん、十分に乾燥していればだが。

「雷属性の矢もどうかな~って感じですね。相手は地面に生えていますからね。まあ、アースが取れているというか・・・」
 アーチャーの言う通り、雷属性の矢が当たっても電気が地面に逃げてしまい、決定打は期待できない。さすがに地下31階となると、フロアボスはかなり手ごわい。

 この「バランシング・ダンジョン」にはいくつか特徴がある。まずは、すべての装備や持ち物、自分の筋肉にも重量の概念があり、重たいものは容赦なく体力を奪うというものだ。強力な技や魔法も同じだ。何度も続けて強力な技や魔法を使い続けることはできない。

 そして、もう一つの特徴。それは、一度死ぬと、コンティニューや復活の概念がなく、レベル0、持ち物0で地上からやり直しになるということだ。さらに、フロアボスの攻略には、戦力だけでは不十分で、階層が深くなるにつれ、十分に戦略を練ることが重要となってくる。慎重さ、経験、そして作戦実行の大胆さなどのバランスも求められる。このシビアさゆえ、このRPGは冒険シミュレーターと呼ばれている。

「完全武装のディフェンダーでもいれば、ムチをものともせず、歩いていって茎をぽきっと折っておしまいにできるんでしょうけどね・・・」
 と、ヒーラー。
「いや、そんなに簡単にいくだろうか・・・」
 自慢ではないが、俺はこのダンジョンで何度も死んでいる。慎重に慎重を重ね、細かいことにも十分注意し、着実に攻略しないと一瞬で死んでしまう。これが、このバランシング・ダンジョンだ。

「相手がどんな攻撃をするか、試しにじわじわ近づいてみようか。」
 俺はリーダーに提案した。フロアボスの攻撃範囲は赤いラインで示されている。俺のキャラの攻撃範囲の約2倍だ。つまりは、つるの攻撃を切り払うか、払いのけながら接近しないと、本体は倒せないということだ。もちろん、アーチャーや魔法使いは攻撃範囲がもっと広いため、遠隔攻撃が可能だが、よほど相性が良くないと致命傷を与えるのは難しい。相手の出方を見極めないと戦略が立てられない。
「じゃ、剣士さんお願いしてもいいですか。」
「わかった。」
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