グリーンボール

 シュミット船長は漠然とした違和感を抱えていた。一面緑色なんて何かがおかしい。おそらく植物が繁殖しているのだろうが、一面に、一様に繁殖するなんてあり得るのだろうか・・・。

 ほどなく地表探査機の準備ができ、衛星軌道上のパスファインダー号を離艦した。

「船長、地上映像入ります。」
「うーん、これは・・・」
 ホバリング中の地表探査機のカメラは、風にそよぐ、見渡す限りの草原を映し出していた。
「船長、なんか気持ちよさそうでね。爽やかというか・・・」
「まあ、そうだが・・・」

 しかし、シュミット船長の違和感はぬぐえるどころか、さらに増していた。
「木はないのか・・・」
「はい、見渡す限り草だけですね。」
 カメラは周辺をパンしたが、草以外は何もなく、はるか彼方に緑色の地平線が丸く映っているだけだった。
「高低差もほとんどないようだな。そういえば、何か生物はいないか、虫食いの跡とか・・」
「高度がまだあるんで、もう少し降りないとはっきりは言えませんが、いまのところ痕跡なしです。」

 部下の報告にシュミット船長は頭を抱えた。これほど植物は繁殖しているなら、その植物を食べる昆虫や動物が居てもおかしくない。というより、居る方が自然だ。

「上空からの調査は限界ですね。そろそろ着陸しますか?」
「その前に、空気中の浮遊物の顕微鏡調査結果は出ているか?」
「はい、結果は・・・、うん? 何もないですね。塵一つない。」
「花粉や胞子はないのか?細菌とかは・・・」
「何もありません。こりゃ、クリーンルームの中並みに清浄ですね。」
「あり得ないな・・・」
 シュミット船長は部下に聞こえないほど小さくつぶやいた。

「地表探査機を着陸させてくれ。着陸脚の長さは最大限で・・・」
「船長、了解しました。」
 カメラは下向きの映像に切り替わり、着陸脚が下側に大きく伸ばされていく様子が見えた。

「3、2、1・・・着陸しました。ん・・・?」
「どうした?」
「いや、着陸時の振動がかなり小さかったので。地面が相当柔らかいようです・・・」
「枯れ葉とか根とかがあるのかもしれないな。」
 カメラは葉っぱに邪魔されてあまり見通すことはできなかったが、葉っぱが風に揺れると着陸脚をわずかに見ることができた。

「草の高さは50センチほどで、それほど高くはありません。それから、葉っぱを拡大しても虫食いの跡などはありません。」
「うーん、やはり違和感しかないな・・・。ここの生態系はいったいどうなっているのだろう。」
「アームで地表のサンプルを取ります。」
 カメラが切り替わり、先端にプローブのついたアームが映し出された。アームは葉っぱをかき分けながら、地表へと降ろされていった。
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