天使の階段

 硬すぎる階段にはハーケンが打ち込めないため、彼らは数段ごとに吸盤を固定し、命綱のザイルを通しながら、1段ずつ慎重に上っていった。そして、雲の中へと入っていった。

「こちら健、雲の中に入った。階段以外は何も見えない。」
「地上局、了解、いっそう慎重に上れ。」
 健は、地上から健たちを見守っている研究者たちへ報告した。
「階段はちゃんと見えているので問題ない。」
 二人は霧の中の階段をさらに上り続けた。

 そして何百段かを上がるとだんだん雲が薄れて周りが見渡せるようになってきた。そして、健は階段の先を見上げて絶句した。

 そこには空一面に巨大な天井が見えていた。何かの植物に覆われたような緑の天井。
「地上局、緑の天井があるぞ・・・」
「なんだって!」
「空一面天井だ・・・」
「異世界の下部だろうか・・・、健、階段の先に天井に潜る穴とか見えないか?」
「まだ遠くて見えない。引き続き上がっていく。」

 健たちはさらに上り続け、天井に手が届きそうなところまでやってきた。最後の階段には何かの図形がいくつか刻まれていた。
「地上局、緑色だったのはどうみても植物だな。それと階段の先は天井で終わりだ。何もない。最後の階段には何か図形がいくつか彫ってある、映像を送っておく。」

 そして健は映像を送り終わると、最後の階段を上がり、手を伸ばして植物に触れてみた。その瞬間、健は上下間隔を奪われ、何が起こったのか分からなくなった。
「ロナウドです。健が天井に張り付きました。階段から、天井に引っ張られたみたいです。」
「なんだと、健は大丈夫か?」

 ロナウドと地上局の心配をよそに、健は起き上がり頭を振って周りを見渡した。
「ん?」
 健が空を見上げると、そこには階段の下に上下さかさまに立っているロナウドが見えた。
「これって・・・。地上局、こちら健、ロナウドが上下さかさまに階段に立っているぞ・・・」
「いや、健こそ、天井からさかさまに立っているじゃないか・・・」

 二人はそれぞれ上下さかさまに立っていた。

「もしかして・・・」
 健はあることを思い付き、数歩歩いて階段の向こう側が見えるところへ移動した。そこには、だいぶん前に出発した地上局があった。
「おーい!」
 健は手を振りながら地上局の研究員たちに声を掛けた。研究者たちは驚きの表情で健を見つめ返した。

 健は、地上へ降り立ったロナウドと共に研究者たちに合流した。
「俺たちは階段を上っていったはずが、どこからか階段の裏側を下ってきていたようだ。振出しに戻ったということだな。これって何なのだろうな・・・」
 研究者たちは、健の言葉にさらに頭を抱えることになった。

 階段に刻まれた図形が「原点回帰」という意味の異星人の言葉であり、これが異星人の芸術作品であることを理解するには、人類にはまだ数百年の時間が必要だった。

おしまい
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