伝道師

伝道師

                                -修.

「お困りのようですね。」

 黒い頭巾を深くかぶり、装飾がなされた杖を持った男は、村の老人に話しかけた。老人は、獣に食い荒らされた畑を見つめて、ため息をついたところだった。

「はぁ・・、最近は獣の害がひどくてね。みんな満足に食事がとれないのだ。獣を追い払おうにも、この村には若いものがおらんから無理だしな。」
「そうですか。では私が何とかしてあげましょう。私は魔法の伝道師をしていますので、いくつかいい魔法をお教えしますよ。」

 村人たちは広場に集まった。
「まず、この村の周囲に、獣が入ってこられない結界を張りましょう。」
 伝道師と名乗る男は何やら呪文を唱えた。すると、虹がかかった、ドームのようなものが村全体を覆った。
「これで大丈夫。獣は入ってこられません。でも、人の行き来はできますから安心してください。」
「おお・・・」「すごい!」
 村人達から歓声が上がった。

「この結界の中では皆さんも魔法が使えます。結界のおかげで今後は作物が採れるようになりますが、まずは、今、食料が少なくてお困りとのことですので、食事を出す魔法をお教えしましょう。」
 伝道師は呪文を書いた紙を村人たちに配り、呪文の唱え方を指導した。村人たちが呪文と唱えると、それぞれが望んだ食事が目の前に現れた。
「案外簡単でしょう。」
「これで飢えることがなくなるぞ。すごいな・・・」
「あなたは救いの神様だ・・。ありがたや、ありがたや・・・」
 村人たちは伝道師に感謝した。

 その後も伝道師は村人たちに、飲み水を出す魔法、けがや病気を治す回復魔法、歩かなくても宙に浮いて移動できる魔法などを次々と伝授していった。
 そして、伝道師は村人たちに拝まれながら村を去っていった。

 それから10年が経過した。伝道師は再び村を訪れていた。
「狙い通りだな。」
 伝道師は村の家々を眺めながらつぶやいた。村からは人の姿が消え、かつて魔術を教えた広場には無数の墓が立てられていた。

 伝道師が去った後、村人たちは魔法を使えば何もしなくても生きていけることに気づいた。そして、一切働かなくなったばかりか、家から一歩も出ず、ベッドでごろごろする日々を送るようになっていた。結果として、体力は急速に衰え、老衰や、回復魔法が間に合わない突然の病で次々と死んでいった。そして、生き残った最後の一人は墓を作って、村を去って行った。

「人を滅ぼすのはちょろい。少し甘い汁を吸わせれば、自ら滅んでくれる。いつもながら、滅ぼそうとしている奴が感謝されるなんて滑稽だな。」
 伝道師は、黒い大きな翼と先端にカギが付いた尻尾を出現させ、次の村へと飛び立っていった。

おしまい
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