「わからないよ。初めて見たから。でもきっと甘いんじゃないかな。うちで作っているくだものに形が似てるもん。こっちがもっとずっと大きいけど。」

　男の子のアンツもちょっと身を乗り出してそのくだものを見つめながら答えた。アンツは自分の家で作っているくだものよりもっと甘いのではないかと思い、顔を間近まで近づけ匂いを嗅いだりしていた。奥で地面に布を広げて座っているおじさんは、けげんな表情で見つめているが、特に文句を言いたそうではない。

　「うーん、これは今日の第１候補だな。」
　ルーリもどんな味がするのかぜひ食べて見たかった。普段の生活で子供たちが口にするものは限られていた。辺境の地においては、もし何かが欲しいと思ったら、それはその場で手に入れないと二度と手に入れることはできなかった。

　その機会を逃すと、二度とお目にかかることもできない場合がほとんどだった。まだ、くだものなどの農作物は再び市に並ぶ可能性もあるが、珍しいお菓子やおもちゃなどはたぶん再び見ることはできない。

　それらはきっと植民星ＣＤＦ２９４の首都で作られたか、他の星からの移民団が航宙途中で食料や水の確保のために取り引きしたものであり、いずれにしろこの辺境まで流れてくるのは極めてまれだった。

　「どうしよう。売り切れにならないかな。」
　シアンは、どうしても食べてみたいようだった。ルーリはこのくだもの以外にももっとおもしろいものがあるような気がして、もっと別のところへ行ってみたかったのでシアンを促した。

　「大丈夫だよ。まだいっぱいあるから。時間も早いし、もう少し別の店をまわってみようよ。」
　シアンは名残惜しそうにしていたが、渋々ルーリの言葉に従い、その店を離れようとした。