虹の贈り物

 そして、そのころルーリの村では大騒ぎが起きつつあった。最初にカードから出るかすかな声に気がついたのは、自分の家で野菜に水をやっていた女の子シアンだった。シアンはあたりをキョロキョロ見渡して、声の主を探した。

 「どこ。誰かいるの。」
 しかしあたりには人影は見えない。シアンは少し怖かったが、水やりをやめて耳をそばだてた。

 「………8701号。ルーリの友達、そして他の子供達、この声が聞こえたら、広い場所に出て銀色のカードを天に向かって差し出して……」
 「ルーリ?カード??」
 シアンはくすんだ赤いスカートのボタンのついたポケットからカードを取り出した。すると、声ははっきりと聞こえるようになった。

 「緊急。緊急。緊急。SOS。SOS。SOS。こちら移民団GRC14038の代表者アカバ。非常事態8701。非常事態8701。非常事態8701。緊急管制回線。緊急管制回線。緊急管制回線。ルーリの友達、そして他の子供達、この声が聞こえたら、広い場所に出て銀色のカードを天に向かって差し出してくれ。お願いだ。」

 「大変だ。何か起こったみたい。」
 シアンは、カードを高く差し上げたまま、声の限りに叫んだ。
 「おとーさん。おとーさん。たいへーん。ちょっときて。」
 「どうしたんだ。」

 遠くの畑からシアンのお父さんが、土の着いたくわを持ったまま何事かと走って駆けつけてきた。
 シアンは、カードを持っていない方の手で、カードを指差しながら話した。

 「ほら、カードが何か言ってる。ルーリの名前も言ってる。」
 「なんだって。」
 シアンの父親は耳を澄まし、一連の言葉を聞いて重大事態が発生していることを理解した。そして、シアンに指示を与えた。

 「いいかい。よく聞くんだ。おまえも全部聞いただろう。大変なことが起こっているようなんだ。シアンは、うちの畑の真ん中に行け、そしてカードを高く持ち上げておくんだ。い

 いね、絶対降ろすんじゃない。どうしてかは判らないが、言う通りにするんだ。俺は、ルーリのうちへ行ってくる。」

 最後の言葉を発した時には、すでにシアンの父親はくわをほおりなげ、走り出していた。
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