虹の贈り物

 アカバは次の言葉を失い、イリウスを見た。イリウスは、仕方ないさといった具合に手を上げ、あごで遠くの山々の方を差した。
 「アカバ、まあ、気を落とさずに周りの風景を見てみろよ。な。」

 アカバはうながされるままに、遠くを眺めた。そこには先程イリウスが感動した緑の山々と雲の切れ間にかかる鮮やかな七色のアーチが広がっていた。

 アカバは、いままでの会話も自分たちが置かれた状況も忘れ、しばし初めて見る大自然の光景に見入った。そして、思わず口に出して言った。

 「あれが虹というものか。きれいだ。」
 先程より雨雲が少し減り、空にかかる虹はくっきりとそのアーチを見せていた。
 「この世のものとは思えない。」

 イリウスと同様アカバも母船で生まれ、母船の中だけで育ってきた人間であり、惑星というものに降り立ったのも初めてなら、もちろん自然というものを見るのも今日が初めてだったのだ。アカバは黙りこんで虹を見つめ続けた。
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