虹の贈り物

 エアロックの外扉が開いてくると、少年は先程の位置よりやや離れた場所に山羊達を見ながら向こうを向いて立っていた。アカバは少年を認め、外扉が開き切らないうちに声をかけた。

 「こんにちは。」
 少年は、振り返りざまに返事をした。
 「こんにちは。」
 アカバは、少年の古ぼけたシャツや色褪せた黒っぽいズボンを見て、かなり文化レベルが落ちていることを感じ取った。これでは通信機がないのもうなづけた。

 「私の名はアカバ。このシャトルの船長だ。」
 「僕はルーリ。」
 少年は答えた。イリウスはこのやりとりに感心しながら見守っていた。やはり、アカバは一味違う。自分は聞こうともしなかった少年の名前を聞き出してしまった。こういう時のマニュアルがあったのだろうか。それとも人格か。イリウスは黙ってなりゆきを見守った。

 「ルーリ君、君はこの惑星の首都を知っているかい。」
 「ああ知ってるよ。村の学校で習った。とっても遠くで、馬で駆けても2日ぐらいかかるってアンツの父さんが言ってた。」
 「そう。ずいぶん遠いんだね。」

 アカバは、ルーリから返ってきた最初の答えに落胆しながらも、解決の糸口を探すために、次の質問を続けた。
 「君は、通信機を知らないらしいけど、お父さんやお母さんは知らないかな。何かそんな話を聞いたことないかい。遠くのお友達とお話しする機械のことなんだけど、知らないかい。」
 「村では聞いたことない。でも町まで行けば、何か判るかもしれない。大きな町だから。」

 「ほう、町ね。どのくらい遠いのかな。」
 「父さんの荷車で行くときは4時間ぐらいかかるかな。」
 アカバは、先程の村まで3時間という話を思い出し、町までトータル7時間であることを計算した。

 しかし、我々が3時間山道を歩くのは無謀だし、7時間かけて町に行っても通信機があるという保証はない。一旦行ってしまえば、返ってくるのに14時間はかかる。残されたタイムリミット27時間のうち、可能性の分からないことに14時間も費やすことはできない。何か方法はないものか。
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