虹の贈り物

 しかし結果的には、今回イリウスの取った行動が結果をもたらした。イリウスは解除レバーを操作し、エアロックを解放した。

 エアロックの外扉は外部の気圧差を徐々に均衡させるシューという小さな音を何分か立てた後、徐々に開いていった。イリウスは扉のすき間から見える一面の緑にしばし立ち尽くした。

 そこには、母船のライブラリーではるか昔に学んだ新緑の山々が現実に広がっていた。そしてその山々には雲が流れ、またあたりには霧が立ちこめていた。

 いくら超大型航宙船と言えどもその大きさはたかが知れている。直線で見渡せる距離はせいぜい100メートル止りであった。もちろん船外作業をすれば無限の距離の宇宙を見ることができるが、宇宙ではあまりにも遠すぎて距離間がなかったし、そのような機会もほとんど皆無であった。

 しかし、何よりもイリウスの目を捕えて離さなかったのは、雨雲の切れ間にかかる七色のアーチであった。イリウスは、はるか昔に母船の初等教育過程で学んだ「にじ」という言葉を思い出した。

 「これが…。」
 イリウスは思わず言葉をもらした。それはあまりにも壮大なパノラマであった。

 いったいどれほどの距離にあるのか想像もつかな孤空に、純粋な光の帯が広がっている。移民船の乗組員の学習レベルは極めて高く、イリウスもやる気になれば物理法則でなぜ虹ができるのか外挿することもできた。

 しかしイリウスにはそんな気持ちはまったく起こらなかった。ただじっと、流れる雲と、空の壮大なアーチを見つめ続けていた。
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