虹の贈り物

 ルーリは、草原を渡る風に少し寒さを感じた。そういえば、お尻もじとっと濡れてちょっと気持ちが悪い。空にかかる虹は、消えそうで消えない。これはまた天気が悪くなるのではないかとルーリは思った。

 「ちょっと早いが、今日はそろそろ引き上げるかな。」
 ルーリは相変わらずのどかに草を食べている山羊達に向かってつぶやいた。ルーリはカードを大事そうにポケットにしまい、岩から立ち上がった。

 そして山羊達を家路につかせようとせかしているとき、ルーリは空の彼方から響く、長く低い轟きに気がついた。
 「雷だろうか。どこでなっているのだろう。」

 それは、いつまでも続いて鳴り止まなかった。空を見回すとそこかしこに雨雲はあったが、黒く厚い雷雲は見当たらなかった。そして、その轟きは徐々に大きくなっているように聞こえた。

 ルーリが音のする方角の検討をつけて空を見つめていると、薄い雨雲からとても小さな赤く光る物体が現われた。ルーリは、村の親達が交代で午前中だけやっている学校で、飛行機や宇宙船というものがあることを本で見たことはあったが、赤く光って空を飛ぶものは見たことも聞いたこともなかった。

 このあたりでは、実際に空を飛ぶものは鳥か、むささびに似た動物くらいなものだった。ルーリはなんだろうと子供特有の好奇心で空を見つめ続けた。そしてその赤い光はあちらこちらに雲や霧のかかった山々を抜けて、村への帰り道の途中の、かなり近くの丘のあたりの霧の中へと消えていった。
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