虹の贈り物

部夢だっちゃ第3号(1996年12月21日発行)掲載

  虹の贈り物
                           ―修.

 谷間から吹き抜け上げてくる肌寒い風は、深緑の草原にたたずむ少年の髪をかすかに揺らしている。稜線には薄い霧が流れ、つい先ほどまで雨を降らせていた雨雲のなごりを残している。
 
 あたりは雲の切れ間から差す太陽が草についた雨粒を光らせ、そのきらきら光る草を山羊たちがもくもくと食んでいる。山々の頂きでぎざぎざに縁どられた空には薄い虹がかかり、季節は今まさに春から夏へと変わりつつあった。

 「すごい降りだったな。途中で降り出してたらずぶ濡れだった。」

 少年は、先ほどまで雨宿りしていた、崖から突き出した岩棚を見つめてつぶやいた。少年は、村からこのなだらかな南斜面へ山羊達を連れてきて草を食べさせるのが日課だった。

 今日はこの岩棚のある崖に着いた途端突然の雨に降られたのだ。山羊を連れて半日近く山を歩くとよく雨に降られるが、今日はたまたま崖に着いたところで降り出したので、少年は濡れずに済んだ。ついていると言えばついているが、雨に濡れても別に不快というわけではない。

 山羊飼いの少年にとってこの季節の雨に濡れるぐらいはどうということはない。むしろ、少年にとっては、初春や晩秋に降るみぞれや、真夏の直射日光の方が厳しいものであった。
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