モニュメント
T氏は若い社員をなだめ、家の外へ出た。T氏は会社の倒産に絶望しつつも、朝食をすませ、いつもの日課にしているジョギングに出かけた。コースは六角柱の一周である。T氏は走りながら思った。
「どうせ、俺達には何一つできやしない。上のおエラ方が決めることが絶対なんだ。助かるも助からんも上の人々の指先一つさ。」
地面は地球とほとんど同じに草がはえ、木が太陽の光を照り返していた。そして、その延長に突然モニュメントの垂直の壁がそそり立っているのである。柱の陰の部分に入ると徐々に気温が下がった。しかし植物相はあまり変化がない。
そして基地の反対側へ来たとき、T氏は柱の一部に変化を発見した。柱の地上から1mぐらいの部分が白く輝いているのである。T氏は足を止め、その部分を凝視した。その先は、他の黒い部分と同じに不可解な光であった。すると突然どこからともなく声が・・・・
「いらっしゃいませ!お納め頂きました物品が所定の額に達しましたので、規定の通り当モニュメントは、貴殿の問題の解決に着手します。御要件をどうぞ。」
「何だって。」
「失礼しました。説明の不足を深くおわび申し上げます。当惑星時にして、三千六百五十三万二千四百八十九年十八時間45分前の隕石、鉄分83%から始めて二十三時間五十二分前のライターまで物品・・・総数一万千六百三・・・」
T氏は驚いた。この柱が、この何の利用価値も見せなかったモニュメントにこんな秘密があったとは・・・いける。この柱はいける。各界のかかえる問題すべて解決するモニュメント。これで会社の倒産は回避できる。しかし、どの程度のことができるのだろうか。地球のコンピューターより優れているという保証は全くないが・・・
そこでT氏は聞いてみることにした。
「あなたは今までどんなことを解決してきたのですか。」
モニュメントは、一瞬のうちにすべてのイメージを送ってきた。それは、ある銀河のある星雲の、そしてある宇宙の歴史ともいえるイメージだった。そして、その様々なイメージの断片に、このモニュメントは干渉していた。まさしく自らモニュメントと称するだけの力はあった。
T氏は安心しつつも恐怖をいだいて、その変哲もない壁を見上げた。これだけの力があれば会社は、いや人類は平和と繁栄の時を迎えることができる。しかし、待てよ、なぜ他人のことを考える必要があるのだ。自分が幸せになることを考えないのだ。なろうと思えばこの宇宙の帝王にだってなれるのに・・・
その時またあの声がした。
「ご満足いただけたようですので、これで失礼します。今回のご利用の記念品を差し上げますのでお受け取り下さい。それでは、毎度ありがとうございました。」
その声はやけに明るく聞えた。そして次の瞬間、モニュメントは消えた。初めから何もなかったかのように。
T氏はしばしば自分の目と耳を疑った。
今のは夢だったのだろうか。しかし、T氏の目に映った基地は、それが夢ではなかったことを物語っていた。そして、会社の再建は、人類の平和は、宇宙の帝王はすべて夢と消えた。
T氏は力なくその場にうずくまった。そこには小指ほどの大きさの、何となく温かい感じのする小さなモニュメントが・・・。
「どうせ、俺達には何一つできやしない。上のおエラ方が決めることが絶対なんだ。助かるも助からんも上の人々の指先一つさ。」
地面は地球とほとんど同じに草がはえ、木が太陽の光を照り返していた。そして、その延長に突然モニュメントの垂直の壁がそそり立っているのである。柱の陰の部分に入ると徐々に気温が下がった。しかし植物相はあまり変化がない。
そして基地の反対側へ来たとき、T氏は柱の一部に変化を発見した。柱の地上から1mぐらいの部分が白く輝いているのである。T氏は足を止め、その部分を凝視した。その先は、他の黒い部分と同じに不可解な光であった。すると突然どこからともなく声が・・・・
「いらっしゃいませ!お納め頂きました物品が所定の額に達しましたので、規定の通り当モニュメントは、貴殿の問題の解決に着手します。御要件をどうぞ。」
「何だって。」
「失礼しました。説明の不足を深くおわび申し上げます。当惑星時にして、三千六百五十三万二千四百八十九年十八時間45分前の隕石、鉄分83%から始めて二十三時間五十二分前のライターまで物品・・・総数一万千六百三・・・」
T氏は驚いた。この柱が、この何の利用価値も見せなかったモニュメントにこんな秘密があったとは・・・いける。この柱はいける。各界のかかえる問題すべて解決するモニュメント。これで会社の倒産は回避できる。しかし、どの程度のことができるのだろうか。地球のコンピューターより優れているという保証は全くないが・・・
そこでT氏は聞いてみることにした。
「あなたは今までどんなことを解決してきたのですか。」
モニュメントは、一瞬のうちにすべてのイメージを送ってきた。それは、ある銀河のある星雲の、そしてある宇宙の歴史ともいえるイメージだった。そして、その様々なイメージの断片に、このモニュメントは干渉していた。まさしく自らモニュメントと称するだけの力はあった。
T氏は安心しつつも恐怖をいだいて、その変哲もない壁を見上げた。これだけの力があれば会社は、いや人類は平和と繁栄の時を迎えることができる。しかし、待てよ、なぜ他人のことを考える必要があるのだ。自分が幸せになることを考えないのだ。なろうと思えばこの宇宙の帝王にだってなれるのに・・・
その時またあの声がした。
「ご満足いただけたようですので、これで失礼します。今回のご利用の記念品を差し上げますのでお受け取り下さい。それでは、毎度ありがとうございました。」
その声はやけに明るく聞えた。そして次の瞬間、モニュメントは消えた。初めから何もなかったかのように。
T氏はしばしば自分の目と耳を疑った。
今のは夢だったのだろうか。しかし、T氏の目に映った基地は、それが夢ではなかったことを物語っていた。そして、会社の再建は、人類の平和は、宇宙の帝王はすべて夢と消えた。
T氏は力なくその場にうずくまった。そこには小指ほどの大きさの、何となく温かい感じのする小さなモニュメントが・・・。
2/2ページ