古ぼけたコンビナートに映し出される二つの影。

「救えない人たちを救うのが俺の仕事だ、それが悪いことだとしても謝る気は一切ない」
いつも通りの彼の矜持で決めゼリフ。

「全てを投げ出して救われてもお前がそこにいなければ本当に救われないのは俺だ」
苛立ち、恨み、痛み全てを目の前の相手にぶつける。
「突っ走るだけ突っ走って救えない人間になってしまうことがなぜわからない」

軽薄かつ力強い演技を絶妙にこなす演者(劉封本人)と場面一つ一つにアフレコする二号ライダーの俳優

［はい、カット〜。一発オッケーです］

周りのカメラマン、監督全員が息を飲む緊迫した場面。
だいぶ間が空いてからカットの声がかかり休憩入りまーすとスタッフのイキのいい声が撮影所に響く。

「一発オッケーってさすがじゃないですか！法正殿も最後のアドリブ迫力があったので採用します」
結構いい年の糜竺監督が目を輝かせていた。
この桃がかった赤い髪は地毛だ。
この草食動物さながらの笑顔でえげつないダメ出しすることで有名な監督で二号ライダーの俳優である法正と比べて根はいい人間のはずだが人が落ち込むことをわざとかというようなタイミングで言うものだから一部の演者には怖がられている。

劉封、お待ちかねのケータリングの時間帯だ。
「おー、今日はブッフェ形式ってやつかぁ〜」
野外撮影で食べるお高い弁当とは違った趣があるなと感嘆する。

「他の演者が来る前に食い尽くす気ですか？」
「そんな風に思われてたのか？！心外だよそれは」
いつまで食べざかりなんだお前はといいたげな法正のからかいを受け反論する。
ほらみろ、俺の妻も笑ってますよじゃねえよお前に対して苦笑いだろあれはと目で訴える。
美味いもの食ってるときに水差すんじゃねえよと軽く悪人ヅラな相棒()を小突いた。

さきほどまで撮影していたここは制作会社の所有する撮影所で会社の近くにあるのだがかなりデカイ。
一昨年まで五虎将戦隊タイガーファイブでもここが使われていたそうだ。

冒頭のシーンが四月に入ったころの撮影で最初の頃はセリフが飛んだり変身シークエンスがこなせなくて何度も撮り直していた頃が懐かしく思う。

最初は義父親の会社を継ぐつもりでいたが義父親と継母の間に息子が生まれて肩の荷が下りたのかモデルをこなしながら俳優になる事にした劉封。

だがここで大きな誤算があったのが実の弟も俳優の道に進んでしまいタイガーファイブの悪役として一足先に特撮界に出演したことだ、それを知って劉禅を問い詰めたところ「私も兄のように強くなりたい」と真剣に言われ怒るに怒れなくなったのがモデル業が主だった劉封の一昨年のこと。

去年の夏に決定した新作ライダーのキャスト発表が夢のような気さえしてきた。

［白基調のスーツ主人公ライダー劉封
黒基調スーツ二号ライダー法正
重要な三号ライダーの張苞
悪役ライダーの陸遜
幹部怪人役魯粛
メインヒロイン#leishe#］

なんとも中堅以上の俳優で固められたラインナップだ。

主人公である劉封(義父にもらった字名が伯瑠)は言わずもがなモデル出身、モデル時代はそこらのバンドマンも驚くほど橙色の髪だったが役に合わせてオレンジブラウンまで彩度を落とした。
学生時代に格闘技や新体操もやっていたためスーツアクターも兼任することに。

二号ライダーである法正に関しては義父関係で面識はあったというか義父の会社で働いたことがある。
浅黒い肌で一目でわかるフェロモンの濃い容姿の通りに過去Vシネマか裏ビデオに少なくとも出演経験があるそうだが本人曰く昔の話だそう、キャストで唯一の既婚者実はメインヒロイン役の旦那である。

三号ライダーの張苞は本当は主人公のスーツアクターがやりたかったらしいがオーディションのときからすでに監督権限で三号ライダーの座に収まった。
本人曰く封兄者と仕事できるのは楽しいらしい。
メインヒロインとの絡みで未だにアガッてしまうのを劉封と法正にからかわれている。

メインヒロインの蕾実はOP曲と挿入歌を担当している、本業は歌手。
例えるとしたらロリ顔の島谷ひ○みだろうか、日曜日の朝から出演していいのか困惑する程のバストの持ち主。
法正の奥さんだ。

劉封と悪役ライダーの俳優達とは関係は悪くはないがそもそも別撮りが多かったり予定が合わないので絡むことがあまりなくたまに楽屋や喫煙所やロケ先で挨拶程度しか付き合いがない。

キャスト発表の会議であらゆるご家庭の子供達の夢でもあるが今作はお母さんたちもターゲットにしている旨のことを監督がぼやいていたことを思い出す。

「長いようで短いねえ」
劉封は台本片手にクサイセリフを呟きながら一人で恥ずかしそうな張苞を尻目にアスパラとベーコンのみのシンプルな絶品パスタを口に運びながらぼんやり考えていた。