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父親加藤法正×加藤息子劉封+カウンセラー貂蝉&看護師小少将
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女王様気取りのクレーマーには、毎日一枚だけ、愛してやまない男の写真を贈る。
「昨日は横顔だったから、今日は右斜めショットねえ」
光の無い瞳にその瞬間だけ生気が宿り、「健(公然)くん」と淡々と呟いては、サッと写真を奪っていく。一枚一枚キッチリ横に並べられていく「横溝健(劉封公然)」の写真に、ドが付く程の神経質までは治せないか…と、看護師の小少将はボヤいて、さっさと陰気臭いクレーマーの独房から退出した。なにせ、他にも巡らなければならない患者が居るのだから。
「これは、小少将さん。コーヒーは、いかがですか?」
「お気持ちだけ、頂いておくわ。あたし、今日も忙しいのよ」
「それは残念です」
「ごめんなさいね。あら、今日は珍しくカフェラテ?」
「ええ。政春(公然)くんと、二人で飲んでいた事を思い出しまして…」
またオオボラが始まったと、気にせず小少将は、コーヒー豆を届ける。適当に話を合わせておけば、このナルシストコンサルタントは優雅にコーヒーを飲んで大人しくしているので、小少将はうんうん頷きながら、微笑みを絶やさない優男に、経済学の本と今日の経済新聞も手渡した。
「はい。本日分よ」
「ありがとうございます」
嘘に嘘を塗り固めた会話に付き合わされると長くなるので、小少将は最後に笑顔を返して、また手短に部屋を出た。次は、禁忌を犯した父親の独房だ。
「入るわよぉ」
「……………ああ」
かなりの間があったが、優秀な看護師はそれも気にもならない。寡黙で陰気臭いのにはもう慣れたし、この父親も、あの女王様気取りのクレーマー同様、愛する人の写真を渡せば、日がな一日写真を眺めて、大人しくしてくれるからだ。クレーマーよりも熱心に身体を鍛えはするが、別に脱走をはかろうともしない。全身を拘束して、また違う独房に放り込んだ息子と再会した時に、その時に抱き抱える為にと、よく腕立て伏せをしている。昨日は赤ん坊の頃の息子の写真を渡したので、小少将は今日は適当に選んだ小学生時代の息子の写真を、陰鬱に項垂れる父親の前に突き付けた。
「…………礼を言う」
「そう」
「……圭吾(公然)は、今どうなっている?」
「身体だけでも、治療しているわ。あの子の心は、もう普通には戻れないもの」
せめてもの嫌味を吐けば、またかなりの間の後に、「そうか」とだけ、父親は呟いた。右手に取った写真を見詰めて、それっきり看護師の小少将との会話を止めてしまう。壁の一点に集まってはいるが、少し雑に貼り付けられた息子の写真に、この父親の性格が表れていた。自分でも言うように、息子以外全てどうだっていいのだろう。もう会話のキャッチボールも不可能だと判断した看護師は、クルリとハイヒールで踵を返す。陰気臭いこの三人はまだ楽だと、気に入りのル〇タンの靴で、病棟を練り歩く。次は飛び抜けて気色が悪いロリコンヤクザの独房に、小少将は向かう。扉の鍵を開けば、「封美、封美」と、甘く囁く声が、もう聞こえてきた。鼻を鳴らした小少将は、清楚な黒髪美少女を模したダッチワイフに寄り添う、薬物中毒者のロリコンヤクザを見下ろした。シャブ等とっくに断ち切っているのに、熱に浮かされたようにドールに額を擦り付け、拘束された身体で股間を膨らませる性犯罪者は、看護師の存在にも気が付かず、「封美、ずっと一緒に居よう」と、狂おしく囁いていた。
「まぁ、いつもと変わらないようだし…」
この患者にスパルタ治療を施す貂蝉先生の頑張りは虚しく、一向に完治する気配は無い。それも当然。この男は病気ではなく、生まれながらの人格破綻者なのだから。生まれ落ちた瞬間から壊れている者を、治す事は不可能だ。前世の大年増の丞相殿からも「失敗作だ」と、扱き下ろされ。同じ顔の同胞達からも気狂いだと蔑まれるこの男は、永遠にこの独房から出られやしないだろう。様子を見に来ただけの小少将は、精液臭くて鼻が曲がると、鼻を摘んで背を向けた。10秒も居られないと、鍵を閉めて、ナース服を両手でぽんぽん叩いた。両手を使えもしないくせに、「封美」への怨念にも似た恋だけで、あの気狂いは射精しているのだ。小少将は、気に入りの香水を自分の身体に散布する。ロリコンは不治の病だと、乾いた笑いまで漏れた。次はあの坊ちゃん二人だから気が抜けて楽だと、小少将は美しい曲線美を揺らして歩いていく。女狐からの嫌がらせか、他の連中に比べたら幾分か常識の有るあの二人まで、この心療内科に連行されてきた。
「二人共、入るわよぉ~!」
パーマをかけた黒髪のセット途中だった負けゴリラに、椅子に腰掛け、静かに読書に耽るカマドウマ。
「おはようございます、フラミンゴ」
「おはようございます」
フラミンゴと小少将を喩え、苦笑して前髪を弄るヘタレストーカーと。眼鏡を押して本を閉じ、冷めた瞳で看護師を一瞥するブラコン眼鏡。他のゴリラの群れの癖が強過ぎて、この二匹がたまにマトモだと勘違いしてしまいそうになるが。元ヤンに恋するストーカーも、実の弟の脱糞さえ食すブラコンの兄も、やはり常人ではない。ただ他の気色が悪過ぎるゴリラの個体に比べたら、この二人は圧倒的に話が通じるので。看護師はこの二人相手には、自然と笑顔が増えるのだ。ナルシストコンサルタントの様に、経済新聞と本を渡し。更にカレー作りが趣味のヘタレストーカーの為に、スパイスの本やレシピ本を。ブラコン眼鏡には、快便や胃腸にまつわる本を。そしてそれぞれに、愛する人の写真を贈る。目に見えて表情を明るく輝かせる負けゴリラに、「和田(法正)さんは、分かりやすいんですから」と、弟の写真に早速鼻血を垂らすカマドウマは、眼鏡を指先で押す。
「アナタも、変わらないわよ」
とケラケラ笑う小少将に、二人も穏やかに微笑む。
「たっくん(公然)の凛々しさが写真からも放たれていて、目眩がしますねえ」
「大介(公然)のあどけない写真に、オレも興奮がおさまりませんよ」
「アナタ達二人は、あたしは、そのままで良いとも思うんだけどぉ…」
これ以上私情を挟んではいけないと、看護師は物腰がまだ柔らかい二人に手を振り、扉を閉める。ここからがまた、憂鬱だ。次は一気に、四人を相手にしなければならない。しかも、大癖のマウンテンゴリラ四匹を。気合を入れ直す為に、小少将はポケットに入れているデ〇オールの口紅で、唇の色を塗り直した。ヒールでコツコツ歩みを進める程、ヤニ臭さと脂臭さが鼻に付く。体格の良い四匹が収監された大部屋な事から、特に厳重に鍵がかけられている。小少将は態とらしく咳払いをして、扉を開いた。愛人に振られたアル中に、セックス依存性の三流男優。DV野郎に、一人SM大馬鹿野郎と。脂ぎった四匹のマウンテンゴリラは、全員でタバコを吸っていた。部屋中に充満するヤニ臭さに、よくこの連中はこの部屋に閉じこもっていられるなと、看護師は右手で宙を払う。パチンコ屋の喫煙所よりも臭うと、眉間にシワが刻まれた。
「ちょっとぉ! あたしが来たんだから、タバコぐらい消しなさいよっ!」
「一々喧しい、フラミンゴですよ」
「これは失礼、フラミンゴ」
「おい、フラミンゴ。一日一箱の規制は、なんとかならないのかっ?」
「…フラミンゴ、早く用件を済ませてくれ」
上から順番に、愛人に振られたヤケ酒時代のアル中組長に、クンニ大好き三流男優。ドSなDV太守に、一人でSMが完結するしつこいだけの大馬鹿野郎。体格も暑苦しければ、ギトギト漂ういやらしさと加齢臭。耐えられずに鼻を摘む小少将は、げんなりしながら、四匹に愛用しているタバコのワンボックスを投げる。近付きたくもないので、雑な対応になるのは致し方ないではないか。「達也(公然)が、まだ戻ってこない…」だの、「早くこんな陰気臭い心療内科など退院して、巧(封)たんに、クンニしたいんですよ」だの。「可愛いペットぐらい、持ち込ませろ」だの、「舜(公然)に罵られたいから、面会させてください」だの。四匹が四匹、勝手な事ばかり喚き、とにかく不快になるのだ。人生初の大失恋に項垂れる、不倫でラリっていたマウンテンゴリラのゴリラ山の大将は、自身から派生した弟分達に慰められながら、酒を今日も煽っていた。
「行ったきりなら、幸せになるがいい~🎵」
と、何やらBGMまで聞こえてきそうで。この四匹も特に嫌いな看護師は、鼻を摘みながら嘲笑をする。
「戻る気になりゃ、いつでもおいでよ~ 🎵」
と、あのドラマで使われたロック調のカバーで流れてくるが。誰がこんなゴリラ山のゴリラ大将の元に、14歳も歳の離れた若い愛人が、戻ってくるのだろうか? 励ましながらも、内心それを小馬鹿にしている事が丸分かりな、弟分のゴリラ三匹に囲まれながらも。ゴリラ山のアル中ゴリラ大将は、一息に酒を煽る。手酌で大将自らがグラスにドバドバと注ぐ酒は、あの歌にも登場するバーボンだ。実にくだらな過ぎて、セックス依存性のテカテカマウンテンゴリラも、DVオラオラゴリラも、相手になどしていられない。一人ドSM大馬鹿ゴリラには、「あの少女漫画から飛び出した貴公子様が、アナタなんかの面会に来るわけないじゃない~? 存在さえ、忘れられているわよぉ~!」と、小少将は吐き捨ててやった。
「…オレはあの舜(公然)に、存在さえ忘れたい程憎まれているのか」
頬を赤らめるどこまでも大馬鹿なマウンテンゴリラに舌打ちをし、さっさとこのヤニと欲望まみれのゴリラーランドから退散しようと、小少将は大股でゴリラ園から立ち去った。扉はヒールで蹴り飛ばし、また厳重に鍵をかける。あの四匹の図々しさには反吐が出ると、タバコ臭くなってしまったナース服を叩く。あと一人、最後に重大な患者が待っているのだ。急がなくてはと、小少将はヒールで歩くスピードを早める。次のボーナスが入ったら、今度は大好きなド〇ガバのワンピースの新作を買おうと、戯れに考える。買い物でストレスを発散させないと、このゴリラ達への殺意が抑えられないのだ。年二回、極楽浄土と地獄からそれぞれ一回ずつ支給されるボーナスで、小少将はハイブランドの服や化粧品に、アクセサリーを買い集める事で、なんとかゴリラ達を撲殺せずにすんでいるのだから。ヴ〇レンティノの靴も欲しいと頭にメモを記したところで、最後の扉の鍵を解く。ここまで、長かった。小少将はロリコンヤクザとゴリラーランドの部屋が、特に億劫になるが。この最後の患者は、一番切なさをもたらし、また別の鬱屈とした感情を、看護師と医者である貂蝉に与えるのだ。
「入るわよぉ~…」
ゆっくり扉を開けば、骨壺を抱き抱えて蹲る男が、固い壁を背に虚脱している。この男の、なんて哀れな事だろう。小少将は、眉毛を八の字に垂らした。いつ見ても、この患者の絶望しきった姿は、見るに忍びない。学生時代から15年振りに再会した最愛の人に先立たれ、涙も枯れ果てたこの男は。「後を追ってくるな」と愛する人の遺言を守り、自殺する事も出来ずにいるのだ。「離婚はするな。家族を、最後まで愛し抜け。戸崎(劉封)先生は、最後にそう書き遺していた」そう看護師と心療内科医に話した男の目は、もう生きた世界等映してなどいなかったけれど。看護師も心療内科医も、この男の純情振りには胸を打たれた。学生時代のたった一年だけを共に過ごし、そしてある春の日に突然消えていった教師の事を。この男は、それから15年間も踏ん切りが付かず、忘れることが出来なかったのだ。大人になり、社会的に成功し、15年の年月が経とうとも、変わらずに男を冷たく叱る教師に。男は妻を娶り、子供が生まれようが、教師にアナタが忘れられなかったと、その細い手首を掴んだ。
「…波多野(法正)さん、一緒に貂蝉先生の元に行くわよ」
「…………ああ」
「貂蝉先生ねえ、アナタと戸崎(劉封)先生のお話。もっと、聞きたいんですって」
「明日になったら…」
「波多野(法正)さん」
「明日になれば、戸崎(劉封)先生に、逢えるのか?」
小少将はその問いには悲しく笑顔だけを返し、男の肩を支えて、なんとか立たせた。よれよれと、ただしっかりと骨壺だけは力強く抱き締める男は、自分から死ぬ事も叶わずに、虚ろな瞳で小少将を見る。心療内科医が最も必要なこの患者を優しく支えて、看護師はヒールで歩み出す。ゆっくりゆっくり歩いて扉を出ると、大量の手荷物を抱えた一人の男と擦れ違う。こんな時にと、看護師は下品に舌打ちをした。一番の気狂いの、大年増がと。
「こんにちは」
「…ええ、こんにちは」
「その息子…は、オレも初めて会いましたよ」
「アナタの息子じゃないわよっ。この人は、とても純粋な人だもの」
分かりやすい程の殺意を向けても、この大年増はあの胡散臭い微笑を絶やさない。この純粋過ぎた男に、あんな穢れたものを視界に入れてほしくもないと、強く背中を押した。見捨てたロリコンヤクザ以外全員に面会をするであろう一番の気狂いに、不幸を招くのは自分だけでたくさんだと、小少将は愛する人の死から立ち直れない悲しい男の歩みを支えた。
「昨日は横顔だったから、今日は右斜めショットねえ」
光の無い瞳にその瞬間だけ生気が宿り、「健(公然)くん」と淡々と呟いては、サッと写真を奪っていく。一枚一枚キッチリ横に並べられていく「横溝健(劉封公然)」の写真に、ドが付く程の神経質までは治せないか…と、看護師の小少将はボヤいて、さっさと陰気臭いクレーマーの独房から退出した。なにせ、他にも巡らなければならない患者が居るのだから。
「これは、小少将さん。コーヒーは、いかがですか?」
「お気持ちだけ、頂いておくわ。あたし、今日も忙しいのよ」
「それは残念です」
「ごめんなさいね。あら、今日は珍しくカフェラテ?」
「ええ。政春(公然)くんと、二人で飲んでいた事を思い出しまして…」
またオオボラが始まったと、気にせず小少将は、コーヒー豆を届ける。適当に話を合わせておけば、このナルシストコンサルタントは優雅にコーヒーを飲んで大人しくしているので、小少将はうんうん頷きながら、微笑みを絶やさない優男に、経済学の本と今日の経済新聞も手渡した。
「はい。本日分よ」
「ありがとうございます」
嘘に嘘を塗り固めた会話に付き合わされると長くなるので、小少将は最後に笑顔を返して、また手短に部屋を出た。次は、禁忌を犯した父親の独房だ。
「入るわよぉ」
「……………ああ」
かなりの間があったが、優秀な看護師はそれも気にもならない。寡黙で陰気臭いのにはもう慣れたし、この父親も、あの女王様気取りのクレーマー同様、愛する人の写真を渡せば、日がな一日写真を眺めて、大人しくしてくれるからだ。クレーマーよりも熱心に身体を鍛えはするが、別に脱走をはかろうともしない。全身を拘束して、また違う独房に放り込んだ息子と再会した時に、その時に抱き抱える為にと、よく腕立て伏せをしている。昨日は赤ん坊の頃の息子の写真を渡したので、小少将は今日は適当に選んだ小学生時代の息子の写真を、陰鬱に項垂れる父親の前に突き付けた。
「…………礼を言う」
「そう」
「……圭吾(公然)は、今どうなっている?」
「身体だけでも、治療しているわ。あの子の心は、もう普通には戻れないもの」
せめてもの嫌味を吐けば、またかなりの間の後に、「そうか」とだけ、父親は呟いた。右手に取った写真を見詰めて、それっきり看護師の小少将との会話を止めてしまう。壁の一点に集まってはいるが、少し雑に貼り付けられた息子の写真に、この父親の性格が表れていた。自分でも言うように、息子以外全てどうだっていいのだろう。もう会話のキャッチボールも不可能だと判断した看護師は、クルリとハイヒールで踵を返す。陰気臭いこの三人はまだ楽だと、気に入りのル〇タンの靴で、病棟を練り歩く。次は飛び抜けて気色が悪いロリコンヤクザの独房に、小少将は向かう。扉の鍵を開けば、「封美、封美」と、甘く囁く声が、もう聞こえてきた。鼻を鳴らした小少将は、清楚な黒髪美少女を模したダッチワイフに寄り添う、薬物中毒者のロリコンヤクザを見下ろした。シャブ等とっくに断ち切っているのに、熱に浮かされたようにドールに額を擦り付け、拘束された身体で股間を膨らませる性犯罪者は、看護師の存在にも気が付かず、「封美、ずっと一緒に居よう」と、狂おしく囁いていた。
「まぁ、いつもと変わらないようだし…」
この患者にスパルタ治療を施す貂蝉先生の頑張りは虚しく、一向に完治する気配は無い。それも当然。この男は病気ではなく、生まれながらの人格破綻者なのだから。生まれ落ちた瞬間から壊れている者を、治す事は不可能だ。前世の大年増の丞相殿からも「失敗作だ」と、扱き下ろされ。同じ顔の同胞達からも気狂いだと蔑まれるこの男は、永遠にこの独房から出られやしないだろう。様子を見に来ただけの小少将は、精液臭くて鼻が曲がると、鼻を摘んで背を向けた。10秒も居られないと、鍵を閉めて、ナース服を両手でぽんぽん叩いた。両手を使えもしないくせに、「封美」への怨念にも似た恋だけで、あの気狂いは射精しているのだ。小少将は、気に入りの香水を自分の身体に散布する。ロリコンは不治の病だと、乾いた笑いまで漏れた。次はあの坊ちゃん二人だから気が抜けて楽だと、小少将は美しい曲線美を揺らして歩いていく。女狐からの嫌がらせか、他の連中に比べたら幾分か常識の有るあの二人まで、この心療内科に連行されてきた。
「二人共、入るわよぉ~!」
パーマをかけた黒髪のセット途中だった負けゴリラに、椅子に腰掛け、静かに読書に耽るカマドウマ。
「おはようございます、フラミンゴ」
「おはようございます」
フラミンゴと小少将を喩え、苦笑して前髪を弄るヘタレストーカーと。眼鏡を押して本を閉じ、冷めた瞳で看護師を一瞥するブラコン眼鏡。他のゴリラの群れの癖が強過ぎて、この二匹がたまにマトモだと勘違いしてしまいそうになるが。元ヤンに恋するストーカーも、実の弟の脱糞さえ食すブラコンの兄も、やはり常人ではない。ただ他の気色が悪過ぎるゴリラの個体に比べたら、この二人は圧倒的に話が通じるので。看護師はこの二人相手には、自然と笑顔が増えるのだ。ナルシストコンサルタントの様に、経済新聞と本を渡し。更にカレー作りが趣味のヘタレストーカーの為に、スパイスの本やレシピ本を。ブラコン眼鏡には、快便や胃腸にまつわる本を。そしてそれぞれに、愛する人の写真を贈る。目に見えて表情を明るく輝かせる負けゴリラに、「和田(法正)さんは、分かりやすいんですから」と、弟の写真に早速鼻血を垂らすカマドウマは、眼鏡を指先で押す。
「アナタも、変わらないわよ」
とケラケラ笑う小少将に、二人も穏やかに微笑む。
「たっくん(公然)の凛々しさが写真からも放たれていて、目眩がしますねえ」
「大介(公然)のあどけない写真に、オレも興奮がおさまりませんよ」
「アナタ達二人は、あたしは、そのままで良いとも思うんだけどぉ…」
これ以上私情を挟んではいけないと、看護師は物腰がまだ柔らかい二人に手を振り、扉を閉める。ここからがまた、憂鬱だ。次は一気に、四人を相手にしなければならない。しかも、大癖のマウンテンゴリラ四匹を。気合を入れ直す為に、小少将はポケットに入れているデ〇オールの口紅で、唇の色を塗り直した。ヒールでコツコツ歩みを進める程、ヤニ臭さと脂臭さが鼻に付く。体格の良い四匹が収監された大部屋な事から、特に厳重に鍵がかけられている。小少将は態とらしく咳払いをして、扉を開いた。愛人に振られたアル中に、セックス依存性の三流男優。DV野郎に、一人SM大馬鹿野郎と。脂ぎった四匹のマウンテンゴリラは、全員でタバコを吸っていた。部屋中に充満するヤニ臭さに、よくこの連中はこの部屋に閉じこもっていられるなと、看護師は右手で宙を払う。パチンコ屋の喫煙所よりも臭うと、眉間にシワが刻まれた。
「ちょっとぉ! あたしが来たんだから、タバコぐらい消しなさいよっ!」
「一々喧しい、フラミンゴですよ」
「これは失礼、フラミンゴ」
「おい、フラミンゴ。一日一箱の規制は、なんとかならないのかっ?」
「…フラミンゴ、早く用件を済ませてくれ」
上から順番に、愛人に振られたヤケ酒時代のアル中組長に、クンニ大好き三流男優。ドSなDV太守に、一人でSMが完結するしつこいだけの大馬鹿野郎。体格も暑苦しければ、ギトギト漂ういやらしさと加齢臭。耐えられずに鼻を摘む小少将は、げんなりしながら、四匹に愛用しているタバコのワンボックスを投げる。近付きたくもないので、雑な対応になるのは致し方ないではないか。「達也(公然)が、まだ戻ってこない…」だの、「早くこんな陰気臭い心療内科など退院して、巧(封)たんに、クンニしたいんですよ」だの。「可愛いペットぐらい、持ち込ませろ」だの、「舜(公然)に罵られたいから、面会させてください」だの。四匹が四匹、勝手な事ばかり喚き、とにかく不快になるのだ。人生初の大失恋に項垂れる、不倫でラリっていたマウンテンゴリラのゴリラ山の大将は、自身から派生した弟分達に慰められながら、酒を今日も煽っていた。
「行ったきりなら、幸せになるがいい~🎵」
と、何やらBGMまで聞こえてきそうで。この四匹も特に嫌いな看護師は、鼻を摘みながら嘲笑をする。
「戻る気になりゃ、いつでもおいでよ~ 🎵」
と、あのドラマで使われたロック調のカバーで流れてくるが。誰がこんなゴリラ山のゴリラ大将の元に、14歳も歳の離れた若い愛人が、戻ってくるのだろうか? 励ましながらも、内心それを小馬鹿にしている事が丸分かりな、弟分のゴリラ三匹に囲まれながらも。ゴリラ山のアル中ゴリラ大将は、一息に酒を煽る。手酌で大将自らがグラスにドバドバと注ぐ酒は、あの歌にも登場するバーボンだ。実にくだらな過ぎて、セックス依存性のテカテカマウンテンゴリラも、DVオラオラゴリラも、相手になどしていられない。一人ドSM大馬鹿ゴリラには、「あの少女漫画から飛び出した貴公子様が、アナタなんかの面会に来るわけないじゃない~? 存在さえ、忘れられているわよぉ~!」と、小少将は吐き捨ててやった。
「…オレはあの舜(公然)に、存在さえ忘れたい程憎まれているのか」
頬を赤らめるどこまでも大馬鹿なマウンテンゴリラに舌打ちをし、さっさとこのヤニと欲望まみれのゴリラーランドから退散しようと、小少将は大股でゴリラ園から立ち去った。扉はヒールで蹴り飛ばし、また厳重に鍵をかける。あの四匹の図々しさには反吐が出ると、タバコ臭くなってしまったナース服を叩く。あと一人、最後に重大な患者が待っているのだ。急がなくてはと、小少将はヒールで歩くスピードを早める。次のボーナスが入ったら、今度は大好きなド〇ガバのワンピースの新作を買おうと、戯れに考える。買い物でストレスを発散させないと、このゴリラ達への殺意が抑えられないのだ。年二回、極楽浄土と地獄からそれぞれ一回ずつ支給されるボーナスで、小少将はハイブランドの服や化粧品に、アクセサリーを買い集める事で、なんとかゴリラ達を撲殺せずにすんでいるのだから。ヴ〇レンティノの靴も欲しいと頭にメモを記したところで、最後の扉の鍵を解く。ここまで、長かった。小少将はロリコンヤクザとゴリラーランドの部屋が、特に億劫になるが。この最後の患者は、一番切なさをもたらし、また別の鬱屈とした感情を、看護師と医者である貂蝉に与えるのだ。
「入るわよぉ~…」
ゆっくり扉を開けば、骨壺を抱き抱えて蹲る男が、固い壁を背に虚脱している。この男の、なんて哀れな事だろう。小少将は、眉毛を八の字に垂らした。いつ見ても、この患者の絶望しきった姿は、見るに忍びない。学生時代から15年振りに再会した最愛の人に先立たれ、涙も枯れ果てたこの男は。「後を追ってくるな」と愛する人の遺言を守り、自殺する事も出来ずにいるのだ。「離婚はするな。家族を、最後まで愛し抜け。戸崎(劉封)先生は、最後にそう書き遺していた」そう看護師と心療内科医に話した男の目は、もう生きた世界等映してなどいなかったけれど。看護師も心療内科医も、この男の純情振りには胸を打たれた。学生時代のたった一年だけを共に過ごし、そしてある春の日に突然消えていった教師の事を。この男は、それから15年間も踏ん切りが付かず、忘れることが出来なかったのだ。大人になり、社会的に成功し、15年の年月が経とうとも、変わらずに男を冷たく叱る教師に。男は妻を娶り、子供が生まれようが、教師にアナタが忘れられなかったと、その細い手首を掴んだ。
「…波多野(法正)さん、一緒に貂蝉先生の元に行くわよ」
「…………ああ」
「貂蝉先生ねえ、アナタと戸崎(劉封)先生のお話。もっと、聞きたいんですって」
「明日になったら…」
「波多野(法正)さん」
「明日になれば、戸崎(劉封)先生に、逢えるのか?」
小少将はその問いには悲しく笑顔だけを返し、男の肩を支えて、なんとか立たせた。よれよれと、ただしっかりと骨壺だけは力強く抱き締める男は、自分から死ぬ事も叶わずに、虚ろな瞳で小少将を見る。心療内科医が最も必要なこの患者を優しく支えて、看護師はヒールで歩み出す。ゆっくりゆっくり歩いて扉を出ると、大量の手荷物を抱えた一人の男と擦れ違う。こんな時にと、看護師は下品に舌打ちをした。一番の気狂いの、大年増がと。
「こんにちは」
「…ええ、こんにちは」
「その息子…は、オレも初めて会いましたよ」
「アナタの息子じゃないわよっ。この人は、とても純粋な人だもの」
分かりやすい程の殺意を向けても、この大年増はあの胡散臭い微笑を絶やさない。この純粋過ぎた男に、あんな穢れたものを視界に入れてほしくもないと、強く背中を押した。見捨てたロリコンヤクザ以外全員に面会をするであろう一番の気狂いに、不幸を招くのは自分だけでたくさんだと、小少将は愛する人の死から立ち直れない悲しい男の歩みを支えた。
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