病的な前の男と別れ、一人田舎から上京して来たけれど。都会的に洗練されたセレブの男に見初められて、私はとても幸せだった。
今まで経験したことも無いようなセックスと、出逢った事がないブルジョワの大人の男に、すっかり私はのめり込んでいました。
これからもこの、甘く激しい淫靡な日々が続いていくのだと信じ切っていた私に、彼は面長の顔を渋くして、私抱き着く私を振り払い、落ちていたシャツを拾いました。

「今日で、最後にしましょう」
「…えっ、孝直さん？」
「手切れ金は用意したので、受け取りなさい」
「な、何を言って…？」
「今まで黙っていましたが、既婚者なんですよ」
「…えっ？」
「全く好みじゃないオンナと言うのも試してみようと、ただの暇潰しの一環でしたが…。中々楽しめましたよ、今まで、ありがとうございます」
「ね、ねえ？ 孝直さん？ 嘘ですよねっ？」
「アナタの身体は楽しめましたが、やはりオレには胸焼けがしてきます。暑苦しいのは、自分だけで十分ですねぇ…」
派手な柄のボクサーパンツを履き、スラックスをに足を通して高級ブランドのベルトを締める彼は、呆然と目を見開く私を一瞥し、そして羽織った見るからに仕立ての良いジャケットのポケットからマネークリップを取り出し、小切手を私に突き付けた。

「受け取りなさい」
「い、いや…！ な、なんで…！」
「オレは既婚者ですから、割り切れない不倫相手は不要なんですよ」

アナタが既婚者でも構わない。側に居たいの、愛しているの！ まるでメロドラマのような台詞を放つ自分に驚愕しながらも、彼の逞しい身体はに縋り付く。

白けた、でもどこか悲しみを含んだ法正孝直(小林良樹)さんは、私を振り払い、私の涙を流す頬に、浅黒い骨張った手を添えてくる。
「好みじゃないんですよ、アナタは最初から」
付き合わせて悪かったと、彼は垂れた前髪を手櫛で後ろに撫で付け、出て行った。
懲りずに追い掛けようとしたけど、身体が重くて動けなかった。あまりにショックで、バタンと閉まった扉の音を聞き、私は絶叫した。掌の小切手を、床に投げ捨てた。
騙された自分、すっかり舞い上がっていた自分、なにより彼を本当に愛し始めていた自分が、叫んで泣いていた。
私の恋は終わったのだと、止まらない叫びに顔を覆った。