法正＋法バク。

恵まれた人生だと、他人は言った。何も知らないで、父に似たアジア人離れした目立つ容姿と、金には不自由無い生活の表面だけしか見ていないで、お前が羨ましいと周囲は褒めた。曽祖父が築いた会社を継ぐためにと、幼い頃から遊ぶ時間も取り上げられて、習い事ばかりさせられてきた。
経営者である父は文武両道を尊ぶ厳しい人だったので、勉学でもスポーツでも一番になれと育てられてきた。何でも、一番になれ。それが父の口癖だった。満点じゃないテストの答案用紙を母が父に渡せば、その日の夜に頬を叩かれて。運動会の徒競走では二位だったと母が父に告げれば、髪を掴まれ暗いクローゼットの中に閉じ込められた。
出来ないと泣けば、出来るまでやらされた。もう嫌だと喚けば、襟首を捻りあげられた。

「何のために、お前に手を掛けていると思っているっ」

何でも、一番になれ。
眉間に皺を寄せ静かに怒る父を隣に、母は俯いて黙り込むだけが常だった。父には決して逆らわず、涙ぐむ息子の事は見て見ぬ振りをする。
恵まれた人生だと、他人は言った。何も知らないで、必死になって机にかじりつく辛さも分からないで。