御館様に挨拶をし、外に出れば空は赤く、日は暮れていた。

ここにきたのは午前だというのに、1日近く眠りこけていたと思うと、血の気が引いた。

とてもご迷惑をかけてしまった。後日のお詫びは菓子折りでよいだろうか、それともお茶のほうがいいだろうかと考えながら、門をくぐった。

すると後方から

「おい」

と聞き慣れた声が聞こえてきた。


「師範！」


振り向けば、腕を組み待っている師範がいた。



「ど、どうしてここに？」


「御館様が鎹鴉を通して、名前が目覚めたことを教えてくださったんだァ」


「そ、そうだったんですね。」


沈黙が流れた。私は言葉を振り絞った。

「･･･あの、師範？その･･･迷惑かけてすみませんでした。」

私は頭を下げた。理由がどうであれ、柱の前で失態を晒してしまったのは事実。

師範にも親方様にも迷惑をかけてしまった。

師範がため息をついた。

「顔あげろォ。別に怒ってねェし、なんとも思ってねェ。」


「･･･。」

･･･実弥が私の本当の師範だったら、私は継子失格だと思う。

するとぐしゃぐしゃと師範に頭を撫でられる。


「怪我はねェな。」


「はい」


歩き出した師範の背中を追う。

すると視界がぐらり、として、倒れそうになったが、

「おい！！」

なんとか師範が腕を掴んでくれたおかげで、倒れずに済む。

「なんか、力が抜けちゃって･･･」

そのまま言葉を続けようとしたものの、自身のグゥゥゥゥというお腹の音で遮られた。

「･･･！」

師範は驚いていて目を開け、私は恥ずかしさに頬を染めた。

そう言えば朝倒れて何も食べていなかった。

それで力が入らないのか。


すると師範が私の目の前でしゃがんだ。


その体勢は昔怪我した時や歩けない時、師範がしてくれた、所謂おんぶ前の体勢だった。

「えと･･･」


「･･･早くしろォ･･･」


「は、はい！！」


私を抱えたまま師範が立ち上がる。

「チッ･･･」

舌打ちをして顔を背けた師範の耳は真っ赤だった。


「あの、師範、ごめんなさい･･･重くないです、か」


「･･･いいから、落ちねえように捕まってろォ･･･」


落ちても知らねぇぞと低い声で告げられ、私はより一層師範に捕まった。

師範の体温を感じて、少し安心しつつも、ドキドキするのを感じた。


しかし、そのつかの間師範は、私を背負って恐ろしい速さで屋敷まで戻った。

それこそもうドキドキしてる場合じゃないくらいに。


きっと、誰かに会うのが恥ずかしかったんだと、思う。


師範は屋敷について私を下ろせば、

すごい勢いで台所に走り、数十分後には


「飯だァ！！！」


といって、大きなお皿に竜田揚げと茶碗いっぱいのご飯と、味噌汁が乗っていた。

「･･･あの、師範、私こんなに食べれません」


「いいから食え」


「い、いただきます」


食べると、サクっという音と共に油がじゅわっと溢れ出てた。


「･･･！美味しいです、師範！」


私はあまりの美味しさに興奮して、師範の裾を掴んだ。


「･･･黙って食えやァ･･･」


「ふふふ、師範は強い上に料理もできて天才ですね」



師範が作ってくれたのが嬉しくて美味しくて、私は沢山頬張った。


でも、食べていたら、瞼が重くなってきてー･･･

私はそのまま寝てしまった。