呪術リクエスト
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「はあ〜疲れたあ〜。あ、建人!お疲れ様〜」
任務が終わり高専に戻った姉は、こちらに気づくとニコニコしながら、手を振った。
自分が呪術師を辞めて、サラリーマンになる前は無かったのに、いつからか任務が終わると高専に戻ってくることが姉の日課になっていた。
「姉さん・・・」
数日前、遠回りになるのに、姉になぜ高専に戻るようになったのか、聞いた。
『あー!確かね、建人がサラリーマンになったあたりかな、五条と約束したんだよ』
『はあ?』
『私結構怪我して帰って来ること多いからさ、野垂れ死にされたら困るし、心配だから顔を見せて欲しいーって言うから。高専なら五条はいるし、呪術師の本拠地だから。』
心配だから顔を見せて欲しいっていうのは、あの人の本心なのだろう。
なんせあの人は、高専時代の頃から姉に好意を持っていたのは明らかだった。
いつも事あるごとに理由をつけて、姉を自分のそばに置きたがっていたし、他校の人に絡まれていた時にはその男のプライドをズタズタにし、ピンチの時にも誰よりも早く駆けつけていた。
姉に好意をもつのは自由だし、その点ではあの人には感謝をしている。
でも、大事な姉を、あの胡散臭い人に託すのは、正直気が引ける。
しかも、もし姉とあの人が付き合って、今の年齢も考えると結婚も待ったなしかもしれない、そうなるとあの人が自分の義理の兄になるわけで。そんな最悪の事態は何としてでも避けたい。
だからこうして非効率と知っていながら、自分も任務が終われば、高専に向かい姉とあの人が2人きりにならないようにしている。
そもそも姉は無防備でガードが甘い。
そこも弟としては、とって食われはしないものかと心配なのだ。
「建人、今日も来てくれたの?大変だったでしょ?五条に顔見せたらすぐ帰るから、家で待っててくれて大丈夫なのに・・・」
そう言いながら姉は自分の隣によいしょと腰をかける。
その五条さんに会わせるのが心配なことも、五条さんに好意を持たれていることも、鈍い姉には伝わらない。
「・・・姉さん、あの人のこと信用しすぎ」
「名前〜やっほ〜!」
釘を刺そうとしたタイミングで、あの人がのらりくらりとやってきて、思わず顔をしかめた。
「五条、お疲れ。相変わらず時間ピッタリだね」
時間ピッタリに来るのは、姉さんとの待ち合わせだけであることを本人は知らない。
「うん、わざわざ顔見せてくれてありがとうね。ところで・・・」
五条さんがこちらをチラリと見やったのがサングラス越しでもわかる。
「七海〜、また来たの?暇だねぇ」
「それを言うなら、五条さんだって特級呪術師なのにわざわざ姉さん呼び出して、暇じゃないですか」
「七海、喧嘩売ってる?もしそうなら買うけど」
「あはは2人とも仲がいいねえ」
これを見て仲がいいと勘違いする姉の発想が少し心配ではあるが、そこをぐっと飲み込む。
「まあいいや。はい、名前、今日もお疲れ様」
そう言いながら、五条さんは姉にココアを渡した。
「わ、五条ありがとう!わ、あったか〜」
ここまで好意をむき出しにされて、気づかない姉はある意味凄い。
「ねえ、僕にも1口ちょうだい」
「ご、五条も寒いの?いいけど・・・」
「どうぞ」
間接キスをしようとするのが見え見えな五条さんに缶のココアを渡す。
「・・・なにこれ」
「ここに来る前に自動販売機で買ったんです。いつも姉さんがお世話になっているので」
姉に渡そうと思ってたココアがこんなふうな形で役に立つなんて誰が思っただろうか。
「・・・七海〜」
今にも舌打ちされそうな雰囲気が五条さんから醸し出される。
「建人は?喉乾いてないの?私と半分こする?」
「・・・いや、いい」
ここでうん、と言えばもう取り返しがつかないぐらい五条さんの機嫌が悪くなることは、目に見えている。
よいしょっと言いながら、五条さんは、ソファの背もたれに手をのせ、ピッタリとくっつくように姉の隣に腰をかけた。
「いや五条せまいよ・・・」
「だってさ、ナナミン。もう少しそっち寄ってくんない?」
「私は端に座っているので、これ以上は寄れません。五条さんがもう少し離れてください」
「あー・・・やっぱ、あったかいし、このままでも大丈夫」
「うん、名前ならそう言うと思ったよ。」
端に座ったのは失敗だったな、なんて思いながら、狭そうな姉のために、ソファの端ギリギリまで寄る。
「・・・で、名前、今日は怪我はない?」
そう言いながら、五条さんは姉の手を取り、手のひらを擦りむいていないか確認する。
「うん、大丈夫・・・」
そう言う姉の顔はほんのりと赤く、楽しそうに五条さんは笑った。
「それは良かった」
姉と高専で待ち合わせしたからわかったことは、このいい加減な五条さんは、意外とマメだということ。こんな風に姉の怪我がないか確認するのを毎回忘れないし、姉との待ち合わせ時間には、遅れたことはなかった。
そんなことを考えていれば、いつの間にか夕日が沈み、当たりは暗くなった。
どのくらい経ったのだろうか。
なんだか静かだな、と思い隣を見やれば、姉は規則正しい寝息をたてていた。
こういう所。こういう所が姉は無防備だと思う。この人と2人きりでもそうするのだろうか、それならもうキスぐらいはされてる気がする、なんて思うと血の気が引いた。
「姉さ・・・」
「シーッ、しばらくの間寝かせてあげよう。」
そういうや否や、自分の肩に頭を傾かせ、ご満悦そうに五条さんは笑っている。
「名前は、寝顔も可愛いねえ・・・」
頬をツンツンつつき、終いにはインカメにして寝顔を盗撮している。
「・・・姉さんをからかわないでくれますか」
「・・・からかってない、至って本気だよ。ナナミンはずっと見てきたからわかると思ってたんだけどなあ」
心外だなあ〜、なんて笑いながら言っているのが聞こえるが、目は笑っていないのがわかった。
「・・・」
「ナナミンはさあ、僕が名前といると、必ずと言っていいほどそばに来るけど、何?シスコンなの?」
「・・・そんなこと言うなら、貴方だって、何かと理由をつけて姉さんと一緒にいようとして、ストーカーじゃないですか」
シスコンと言われ、カチン来てしまい、思わず言い返す。
「別に、貴方が姉さんに好意を持つのは自由ですし、構わないです。」
「へえ?」
青色の瞳が挑発するようにこちらを見た。
「ただ、付き合うとなったら話は別です。貴方は仮にも特級呪術師だ。貴方みたいにいついなくなるのかわからない人に、姉さんは託せない。」
「大丈夫だよ、僕最強だもん」
「貴方の強さを疑っているわけではないです。ただ、それとこれとは話が別です。」
姉さんはいつも五条さんの話をする時、ほんの少し嬉しそうな顔をする。
それがどういうことか、姉さんに自覚はなくても、自分にはもうわかっている。
それでも、余計なお世話だとわかっていても、いつ居なくなるかもわからない、飄々としている尊敬できない人に、姉さんは託せない。託したくない。
「・・・ナナミンが名前のこと大事なのも、僕のことが嫌いなのもよくわかったよ」
五条さんはサングラスを下ろし、天井を見上げ、ふーっとため息をついた。
沈黙が二人の間に走り、真ん中にいる姉さんは相も変わらず寝息を立てている。
こんなことならさっさと姉さんを起こしてしまえばよかったと内心後悔する。
「まあ、だからと言って名前のこと諦めるとか、付き合わないとかないんだけどね!」
「はあ?」
沈黙をぶち破るように五条さんがキメ顔で言い放った。
「だって、僕の自由なんでしょ?それに、僕と名前が付き合う可能性だって大いにあるのに、そんなチャンス、誰がなんと言おうと、逃したくないね。だいたい何年名前に片思いしてると思ってんのさ」
そう言いながら、五条さんは姉の頭を撫でた。
「あー、でもそうなったら?僕はもう今すぐにでも結婚したいから、そしたらナナミン義理の弟になるねえ」
「絶対に嫌です。」
「あははははは、そうなったらお義兄さんって呼んでもらっちゃおうかな〜!すごいアリだと思わない?」
「絶対にナシです。」
「ん・・・」
話し声がうるさかったのか、姉さんが目を覚ます。
「おはよう、名前」
「五条・・・?え?私、寝てた?」
「うん、それはもうぐっすりと」
「え??!!」
恥ずかしい・・・とこっちを向きながら、ボソリと呟く姉さんの顔は、真っ赤に染まっていた。
「・・・はあ・・・」
「?どうしたの、建人・・・ってああ!もう6時過ぎてる!」
「建人、ご、ごめん!残業させちゃった!!」
姉は手のひらで、頬をパンパンと叩いた。
「よし、目覚めた。五条、ココアありがとうね」
先程まで寝てたのが嘘のように、姉は素早く立ち上がった。
「えー、もう帰るの?ちぇ」
この人の拗ね顔は誰得だろうか、なんて思いながら立ち上がる。
「五条さん、しつこい男は嫌われますよ」
「七海〜・・・今日はやけに言うねえ」
「仮にも先輩相手に・・・自分の弟ながら、凄い・・・」
「そこ感心しちゃうんだ・・・」
「あ、えへへ五条ごめん・・・。」
五条さんは腕を頭の後ろに組み、ため息をひとつ着く。
「七海はいいねえ。帰ったら、美味しいご飯が食べられて」
「そうですね。」
「え?!うそ!建人美味しいって思ってくれてたの?!いつも無言で食べるからドキドキだったよ〜!お姉ちゃん嬉しい!!」
「・・・・・・」
よし、今日も張り切って作るぞ〜と言いながら、腕を上げる姉の背中を見つめる。
「やっぱりナナミン、シスコンでしょ」
後ろから五条さんはボソリと呟く。
「違います」
あなたが相手じゃなければ、こんな風に姉のことを心配しないし、口を挟みませんよ、という言葉をグッと飲み込む。
「五条〜また明日!」
「はいよ!気をつけてね〜」
五条さんは長い腕を一生懸命ブンブン降っていた。
姉はそれにツボったらしく、はははと声を上げて笑った。
そんな幸せそうな様子を見ていると、姉の幸せを考えれば自分が口を出すべきではないのかもしれない、と思い考えを改めようかと思ったが、あの人の言葉を思い出し、義理の弟になるのだけは何としてでも避けたいと思い、やはり明日も高専に寄ってから帰ると決意をした。
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