短編
春、
それは正に運命の出会いだった。
「ロマンせんせー!」
『おっと、漸く御登場かな?おはよう立香ちゃん。』
元気よく開かれたドアの先を、Dr.ロマンはゆっくり振り向きながら、いつもの椅子で立香を出迎える。
白いカーテンからさらさらとした光が保健室を包み込む。こっちを見て微笑む先生。
そんな朝の情景が、ロマン先生が、コーヒーの香りのする保健室が、わたしはとても好きだ。
『こら!いくら保健室が好きだからってサボりは良くないぞぅ!』
「でもそう言って先生、お菓子食べてるし!」
『ふふーん。それは先生の特権だからね。』
先生は気づいてない。わたしは先生のことが好きなのに。
春から中学生になったわたし、藤丸立香は新しいクラスに馴染めず、次第に教室に入れなくなってしまった。
『保健室登校という選択肢もあるんだよ!』
そこで保健室の先生として紹介されたのがDr.ロマン先生こと、ロマニ・アーキマン先生だった。
彼といると心が落ち着くというか、安心する。
そうして1年、2年と保健室に通い、
ロマニ先生が好きだって気づいたのは3年生の冬だった。
そう、あまりにも遅すぎたのだ…
気づいた頃にはもう卒業!
「ロマン先生に会えない未来なんて嫌だ〜!!!!」
そう考えてはベッドの上をジタバタする毎日だった。
「おはよぉございま〜す……」
『おはよう!立香ちゃん!……顔色が悪いようだけど何かあったのかい?相談できる内容なら、この僕に聞かせて欲しいな。』
話せるわけない……!!!あなたが好きですだなんて……!
コーヒーカップ片手に、空きベッドに座る私の隣に座るロマン先生。
『んー、えっとそうだなぁ……!進路で悩んでるとか?お家のこと?うーん……』
「先生違う……分かってないよ〜……」
『じゃあ他に悩みがあるってことだね。正直に話してみれるかい?』
ロマン先生、実は―
「これ以上聞かないで〜〜〜〜〜〜〜!!!」
『うわぁっ!』
顔に血が上るのがわかり、すぐ隣にあるロマン先生の膝に顔を埋める。
ロマン先生の清潔感のある控えめな甘い香水の香りがし、余計に顔が熱くなる。
先生のバカっ!……
ぐるるるる〜
突然、耳元で聞こえた腑抜けた音に唖然とする。
『「え?」』
暫く沈黙が続く。
『そ、そういえば今日寝坊して朝ごはん食べてないんだよね…!あはは』
「先生!!ちゃんとごはんは食べなきゃダメですよっ!」
あはは、と笑いが零れる。
『でも、立香ちゃんが笑ってくれてよかった。』
えへへっとにっこり笑うロマン先生はどこまでもわたしの頼りになる先生だ。
『で、相談の続きだけどー。』
「もう聞かないでくださいドクター!!!!」
時は経ち、桜が散り始めた。
わたし達にも別れの季節がやってくる。
卒業式は個別で行ってもらった。
ロマン先生も一緒だ。
-卒業証書授与……
ああ、あっという間に終わってしまったなぁ。
そう思いながら卒業証書を受け取った。
『卒業おめでとう。立香ちゃん!これから元気な声が聞けなくなるのは寂しいけど、立香ちゃんなら必ず上手くやっていけるさ。』
そう言ってロマン先生は手を振る。
「先生、もう少しだけいいですか?」
息を吸う
息を吐く
息を吸う
息を吐く
、、!今だ。
「先生の事がずっと……!ずっと……!」
ああ、なみだが止まらない。練習してきたはずなのに!
言葉に詰まってしまうわたしに、ロマン先生は背中をさすってくれ、こう言った。
『ずっと、ね。』
そう言い、にこりと笑って背を伸ばす。
今思い返せば最後の顔が笑顔でよかった。困らせてしまっても困るものだ。
帰りの車でわたしはそう思い返した。
夕暮れが雀と、鴉と共に飛び立っていく。
忘れられないよ、そんなの。
―それでよかったのだ。
あれから数年、わたしも社会人になった。
甘酸っぱい青春とは真逆の生活を送っている。
今でもふと思い出す。
―先生、お元気ですか。
それは正に運命の出会いだった。
「ロマンせんせー!」
『おっと、漸く御登場かな?おはよう立香ちゃん。』
元気よく開かれたドアの先を、Dr.ロマンはゆっくり振り向きながら、いつもの椅子で立香を出迎える。
白いカーテンからさらさらとした光が保健室を包み込む。こっちを見て微笑む先生。
そんな朝の情景が、ロマン先生が、コーヒーの香りのする保健室が、わたしはとても好きだ。
『こら!いくら保健室が好きだからってサボりは良くないぞぅ!』
「でもそう言って先生、お菓子食べてるし!」
『ふふーん。それは先生の特権だからね。』
先生は気づいてない。わたしは先生のことが好きなのに。
春から中学生になったわたし、藤丸立香は新しいクラスに馴染めず、次第に教室に入れなくなってしまった。
『保健室登校という選択肢もあるんだよ!』
そこで保健室の先生として紹介されたのがDr.ロマン先生こと、ロマニ・アーキマン先生だった。
彼といると心が落ち着くというか、安心する。
そうして1年、2年と保健室に通い、
ロマニ先生が好きだって気づいたのは3年生の冬だった。
そう、あまりにも遅すぎたのだ…
気づいた頃にはもう卒業!
「ロマン先生に会えない未来なんて嫌だ〜!!!!」
そう考えてはベッドの上をジタバタする毎日だった。
「おはよぉございま〜す……」
『おはよう!立香ちゃん!……顔色が悪いようだけど何かあったのかい?相談できる内容なら、この僕に聞かせて欲しいな。』
話せるわけない……!!!あなたが好きですだなんて……!
コーヒーカップ片手に、空きベッドに座る私の隣に座るロマン先生。
『んー、えっとそうだなぁ……!進路で悩んでるとか?お家のこと?うーん……』
「先生違う……分かってないよ〜……」
『じゃあ他に悩みがあるってことだね。正直に話してみれるかい?』
ロマン先生、実は―
「これ以上聞かないで〜〜〜〜〜〜〜!!!」
『うわぁっ!』
顔に血が上るのがわかり、すぐ隣にあるロマン先生の膝に顔を埋める。
ロマン先生の清潔感のある控えめな甘い香水の香りがし、余計に顔が熱くなる。
先生のバカっ!……
ぐるるるる〜
突然、耳元で聞こえた腑抜けた音に唖然とする。
『「え?」』
暫く沈黙が続く。
『そ、そういえば今日寝坊して朝ごはん食べてないんだよね…!あはは』
「先生!!ちゃんとごはんは食べなきゃダメですよっ!」
あはは、と笑いが零れる。
『でも、立香ちゃんが笑ってくれてよかった。』
えへへっとにっこり笑うロマン先生はどこまでもわたしの頼りになる先生だ。
『で、相談の続きだけどー。』
「もう聞かないでくださいドクター!!!!」
時は経ち、桜が散り始めた。
わたし達にも別れの季節がやってくる。
卒業式は個別で行ってもらった。
ロマン先生も一緒だ。
-卒業証書授与……
ああ、あっという間に終わってしまったなぁ。
そう思いながら卒業証書を受け取った。
『卒業おめでとう。立香ちゃん!これから元気な声が聞けなくなるのは寂しいけど、立香ちゃんなら必ず上手くやっていけるさ。』
そう言ってロマン先生は手を振る。
「先生、もう少しだけいいですか?」
息を吸う
息を吐く
息を吸う
息を吐く
、、!今だ。
「先生の事がずっと……!ずっと……!」
ああ、なみだが止まらない。練習してきたはずなのに!
言葉に詰まってしまうわたしに、ロマン先生は背中をさすってくれ、こう言った。
『ずっと、ね。』
そう言い、にこりと笑って背を伸ばす。
今思い返せば最後の顔が笑顔でよかった。困らせてしまっても困るものだ。
帰りの車でわたしはそう思い返した。
夕暮れが雀と、鴉と共に飛び立っていく。
忘れられないよ、そんなの。
―それでよかったのだ。
あれから数年、わたしも社会人になった。
甘酸っぱい青春とは真逆の生活を送っている。
今でもふと思い出す。
―先生、
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