(語弊がある)編

「みてみてセロイ。勝手に動くおもちゃだって!」
「すごいねメロト。これなら壊れずにずっと遊べるのかな?」
「いいか!絶対に大人しくする約束でここに連れて来たんだからな!物を壊したら何も買わないからな!」
物騒なことを耳にして再三注意をしておく。充分に分かっているとも言いだけに頬を膨らませているが、分かっているのは今だけというのも充分理解している。ならばさっさと目的を果たすべきとカゴの中へ物を詰め一目散にレジへ向かい、途中意識してメロトセロイの方へ目をやれば意外にも二人で話しているだけで大人しくしているものであり、尚の事今のうちにとより早足で掛けていく。
「最近こちらでよく見掛けますね、引っ越されて来たんですか?」
とんでもないアクシデント。ここへ来てニ、三度というのにまさかもう顔を覚えられていたとは。意義のない関わりは面倒にしかならず、なるべくそれがないよう人通りの少ない場所を選んだというのにそれが裏目に出たか。
不自然に間をあけてしまった手前今更人違いで済ますことも不自然で、面倒だが仕方ないと人好きのする表情を取り繕い、世間話として丸く収めるべく言葉を選ぶ。
「ええ、ここが一番通いやすくつい足を運んでしまうんです。あまり不審に思わないで下さいね。」
「まさかそんな思いませんよ!ただ小さなお子さんもいたんだな、大変そうだなぁなんて思っちゃいまして!お若いのにステキですね。」
「ふふ、ありがとうございます。ただ子ではなく妹なのですけどね。」
「あっお兄さんだったんですか!だったら尚更すごいですよ!立派なお兄さんだなぁ…!」
「いえ、私などまだまだ至らぬ所ばかりで…妹には迷惑かけて申し訳ない思いですよ。」
どこからそんなセリフが出てくるのかと自分でも理解及ばぬほどに心にもない事を口先に乗せ、世間話の体とやり過ごしながら背後に感じる無言の圧に冷や汗を流れるのを感じる。このまま無意味な事を続けていれば間違いなく飽きと不審でこれでもかと溜まった不満がとんでもない損害となる。さすがに冗談では済まないと苦笑を咳払いで誤魔化し、さっさと別れようと話を切り出せば先程から妙に食い下がる店員で思うように行かずに多少苛立ちが募る。態度には微塵も出さないが。
「ところでお兄さんはどこで働いてるの?稼がないといけないのも大変でしょう。」
「そんなことは。これが私の使命でもありますので…、」
「うう、泣けるくらい立派だねぇ…!」
稀にいる、こういう身の程知らずを避けるためにわざわざ辺鄙な所を選んだつもりだったのだが。分母を減らせばいいというものではないと身に染みて学び、次からは場所でなく人を見て選ぶ事を心に誓っていれば。
「実は俺、お兄さんオススメしたいお店が…あれ、妹さんたち泣いちゃってる…?」
「なに?」
何を馬鹿なと振り返れば店の前に座り込み、大粒の涙を流すセロイとそれを宥めるメロトが映る。不満が行動に表れることはあれどまさか泣かれるとは。確かに世にも珍しくしっかり約束を守っているというのにこちらがこの体たらくであれば幼いゆえ怒り通り越し悲しみが勝るものか。さすがに悪い気もしたが良いタイミングで助かったと未だ付きまといかねない店員に頭を下げメロトセロイの元へ向かおうとするのだが。
「ひどいよーー!!またあたしたちをおいてラゼムが男の人と遊んでるーーーー!!!」
大音量で響き渡るセロイの泣き声に一瞬足が止まる。少しニュアンスがおかしくないか、と疑問を浮かべる前にメロトの二声が放たれる。
「家でも留守番ばかりさせて!すぐ戻るから大人しくしてろっていって…!自分はいつも男の人とどこかでたくさん遊んでるのにー!!」
「まて…おい待てッ!こういう時に限って言葉を省くな!すみません仕事柄家を出ることが多くてありまして、その度妹には寂しい思いを…。」
何に対しての弁明なのか、咄嗟に出た自分の発言に対するフォローを探りつつここを離れるべく言葉を探し、なぜか店員の頬に赤みがさしているのに気付く。そこでようやく合点がいった。なるほどつまりそういう意味で自分を狙っていたのだと。
普段ならばもう少し相手をして白昼夢のように去り後のためにでもとするところだが、未だ恨みごとをいうメロトセロイに何事かと集まってくる野次馬を避けていくためにももはやいち早く立ち去り噂として過ぎるのを待つしかない。名を知られたのだけは面倒すぎる問題ではあるが。
「あのラゼムさん、でしたっけ?実は自分も男の…」
「メロト!セロイ!悪かった、今戻る!ではここで、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。それでは!」
有無を言わさず引ったくるように商品を受け取り、知らぬ老婆から飴玉貰い喜ぶメロトセロイを肩と脇に抱え礼をして早足で去る。暫くどころかもう二度とここへは来れないかもしれない。
面倒を避けたつもりがかえって大事になってしまったことに鼻で笑う。慣れない真似はするものではないと、今度は人攫いだとの誤解が解かれまでまたも拘束された人の世の面倒さをその身で学び、順応していくのであった。



1/1ページ