一緒にあそぶ!編

神より賜りしこの姿…この世の真理とも呼ぶに相応しいやはり完璧な姿だ。
自らに与えられた氷の力を使い、それに真の姿を彫刻する。人の世に交じるため人の姿で生きることを強いられ一体いつから想うだけの存在となってしまったか。目前に作り出された自らの力強き真の姿を眺め、やはりこれこそが私のあるべき姿なのだと確信し一人頷く。
そうしてまじまじと見てふと思う。はて、賜られた姿はもう少し厚みのある肉体をしていなかったかと。更によく見ればここはもう少し滑らかであった、ここには鋭さがあったなどと見れば見るほど粗末さが目立っていく。まるでなっていない己の浅はかな記憶にだんだん苛立ちが湧いてくる。よくぞこんな低俗な物が作れたな。その罪、死して償うがいい!
粉微塵にしてくれるわ、とついに腕を掲げ振り下ろすその瞬間、背に息の詰まるような衝撃を受ける。そして腹に回った小さな手が加減を知らず文字通りに抱き締めてくる。
「メ、メロト、セロイ…!」
「イヴェリス遊んでー!」
「ヒマだよイヴェリス遊んで〜〜!」
「ぐっ…分かったから手を離せ話がきけん!」
子供とはいえ同じ神より生まれし存在である。容赦のない、それも不意打ちとあればそれはもう苛烈極まりない。気を失いかけるのもけして油断からのせいではない。
ようやく離れた二人を咳き込みつつ一瞥する。全く悪びれず、むしろ否定されなかったことで肯定とみなしたか遊び相手になってくれるのだと目を輝かせ期待しているようだった。どんな躾をしているんだあの男は。というより何をしている。
「…ラゼムはどうした。」
「ちょっと前に人間が来て一緒にどっか行っちゃった。」
「ラゼムだけ人間とたくさん遊んでてずるい!」
「あの女…オルレットはどうした。あの女なら居るだろう。」
「オルレットもどこか行っちゃったよ。」
「用事が出来たって言って飛んで行っちゃったよ〜。」
あの女。ここでは真の姿を禁じられてるというのにいとも簡単にそれを破っているのか。焦がれ、もはやまともに姿すら思い起こせなくなった私への当て付けか?どこまでも勝手で癪に障る女だ。
言ったところで高らかに笑う姿が想像つき思考を追いやる。ともかく今この場には3人しか居ないということで、つまり逃げ場などないということで。
「ねえ何して遊ぶ?鬼ごっこする?あたしぜったい捕まえられるわよ!」
「隠れんぼもしたい!見つかる前に相手をくくりつければぜったい勝てちゃうもんね!」
「止めろ殺す気か!そもそも私はここを動かんぞ。」
「えーーー。」
じゃあどうやって遊ぶの?と不満を頬に詰め分かりやすく訴えてくる。我ら五神獣の中では幼いとはいえ、まるで人の子をそれを見ているような未熟さは不快さが増すが、しかしそれならばこの程度でも充分満足出来ることだろう。
先程作り上げた己の氷像を手前に置く。すでに目を輝かせる二人にまだまだここからだと手のひらの上に氷を集らせる。それを削り、磨き、また足して、削り。即席ゆえ更に不格好ではあるが、つんざくような感嘆な声を耳にしてやはり幼いものよと出来上がったものを差し出す。
「わ〜すごい!!イヴェリスとあたしたちだ!!」
「イヴェリスすごいすごい!ねぇねぇラゼムとハーディも!オルレットのもつくって!」
「フン、簡単なものだ。」
いくつも氷を生み出し、その氷を削り合わせ型取り、真の姿に似せてゆく。その度にはしゃぐメロトセロイを見ると、時間の無駄に思えた今までの工程もそれなりに様になってはいたのだと実感する。しかしそれと同時にまだまだ至らぬ所が否が応でも目につく。より精密に、神の名に恥じぬような物を作り上げねば。この程度で満足されて困るのは自分も同じなのだ。
「いいか。私はこれ以上の物を作ってみせる。我が力より生まれたものだ、日の力程度で壊れたりはせん。それはやるから大人しく遊んでいるがいい。」
「いいの!?ありがとうイヴェリス!セロイいこう!」
「わかった、大事にするね!メロトまってー!」
こちらから気が逸れたことにようやく肩の荷が下りる。こんな子守りじみたことなど二度と御免だが、得るものがあったというのも認めるところで、偶にならまあ悪くないだろうと自身もまた彫刻と向き合う。言った手前、より高みを目指すための技術を身に付けねばそれこそ神に反する行いとなるだろう。

しかし例え硬度を意識し作り上げたものとはいえ同程度の力を持つ存在であり、その無遠慮の力を受け止めるにはそれはあまりに脆すぎた。
先程よりも多少精密さを増した氷像を持ち寄る時には、泣きじゃくるメロトセロイと粉々に砕け散った何かを前に呆然と立ち尽くすしかなかった。





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