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溶けて、消える

kenta side


キスはいつも俺からだったから、さきの方からされて驚いた。
震えるさきのキスに胸が苦しくなり、俺は自分から唇を離した。

本当は、せっかくのさきからのキスを、もっと味わいたかったけど。


うつむいたままのさきが、泣いてる。
今すぐその涙を拭いてやりたかったのに、

「さき、お別れなんだ」

さきは勘がいいから、もう気づいていたのかもしれない。俺がいつか、ここにいられなくなることとか、今までついてきたウソにも。


「…っ、もっと、一緒に居たかったのに…っ」

「…ごめん」

俺がバカだったから、後先考えずに君に会いに来てしまったから。

それでも、ひと夏の間だけだとしても、さきを感じてみたかった。


「さき、俺もう行かなきゃ」

日が沈みかけてる。
消える姿を見られたくなかったから、俺はその場を離れたかった。でもさきは、


「いいから…っ、最後までここに居てよ…」

初めてみるさきの、鼻を真っ赤にして泣いてる姿。

もう一度、抱きしめたい。
もう一度、キスしたかった。



saki side


『行かないで』
そんなワガママを言ってしまいたかった。
子供のようにすがりつきたかった。

でもあなたは、優しいひとだから。
こんな事を私が言ってしまえば、健太さんは答えを迷ってしまうでしょ?

健太さんが決めた事だから、健太さんを信じているから。
私は言いかけた言葉を飲み込んだ。

だからせめて、もう一度キスをして。
あなたのぬくもりを確かめさせてと、そう願ったのに、健太さんはただそっと抱きしめてくれる。

「さき、さき…」

健太さんが震えてる。

私も強く抱きしめるけど、健太さんの体はみるみる透けていってしまう。

伝えたいことは、たくさんあるはずなのに、言葉が出てこない。

夕焼けで眩しかった空も、夕方と夜との狭間で揺れていた。

そして健太さんは、からだが消える直前にささやいた。

「…必ずまた、会いに行くから」


健太さんの残した言葉は、私を優しく包んだ。

そして彼は、沈む夕日に溶けて、消えた。

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