溶けて、消える
saki side
夕暮れ時。
あっという間に夏が走り去って、追いかけても、遠く、離れていってしまう。
東京にしては静かな、細い一本道をいつものように二人で歩く。柔らかい風が、私の隣を歩く彼の金色の髪を揺らす。
「キンモクセイの匂いがしますね」
私が言うと、
「もう秋だよなあ」
と、健太さんは心地好さそうに目を細めた。
さっきまで元気よく喋っていた健太さんが、静かに秋の訪れを感じている姿が可愛くて、私はつい、くすりと笑ってしまう。
「なんだよ」
むくれた健太さんが、唇を尖らせる。夕日でうす茶色に光る瞳と、目が合う。
その瞬間、私の頬を撫でていた風から、夏の残り香が消え、少し冷たくなった気がした。
私の歩く足が止まる。
夢から覚めるような、不思議な感覚が全身を撫でた。
私の数歩先で、健太さんが立ち止まって、こちらを振り返る。
「俺、さきと居られてすげー幸せ。」
夕焼け色に照らされて静かに微笑む彼が、あまりにも綺麗で、目が離せなかった。
「さき、あのね」
『さよならなんだ』
彼の次の言葉が、頭に浮かびそうになったから、それを消したくて、私は健太さんの唇を塞いだ。
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