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タイトル『AM7:15』
「おはよう」
「カイン…おはよう」
カインはなぜか、こんな私にも明るく挨拶してくれる。小学校、中学校にいた時も、高校生になってからも、私はキラキラした人たちの仲間入りをすることができていなかった。いわゆるスクールカースト上位グループの人たちとは全然かかわらないし、そもそも自分から関わりに行こうともしない。向こうが声をかけてこないのだから、私は別に必要とされてなんかいない。こっちも、別に声をかけてもらえないことで寂しく思うことはあっても、困ることはなかったから、結局今まで何もしないできた。
そんなわけで、私は絶対にキラキラした人たちとは一生関わらないで生きていくんだろうなって思ってた。だけど転機が訪れた。カインに出会ったからだ。
「あんたは今日も素敵だな」
朝の、人もまばらな教室に、彼の声はよく響く。
「……ありがとう」
控えめに返せば、カインはにっと歯を見せて笑った。眩しすぎる。その笑顔。
カインには、目の前の相手を褒めちぎる癖がある。こうやって「素敵」って言葉を惜しげ無く伝えるのも、もちろん私相手にだけじゃない。色んな女の子にも男の子にも言ってるから、みんな勘違いするし、みんな彼のことを好きになる。彼は恵まれた容姿に加えて、明るさも、まっすぐさも、強さも、優しさも、全部をその身に持ち合わせていた。
カインの席は通路を挟んで私の斜め前だ。彼はどうやら、何か探し物をしているらしい。
机の引き出しをゴソゴソと漁って、「あれ? 倉庫の鍵、確か昨日引き出しに入れたはずなんだけどな……あ、あったあった!」大きな独り言を響かせる大きな背中を、何気なく斜め後ろから見つめていたら、突然彼が振り返った。
ばちっと目線が合って、カインが瞳を揺らす。
「悪い。うるさかったか?」
カインは目的だった倉庫の鍵片手に、私の机の方まで近づいてきた。
「い、いや。全然」
「すまない。あんたはいつも、朝早くから勉強してて偉いよな」
「勉強じゃないよ。ただの読書」
「え? でも、何か書いてるじゃないか」
「うん。書いてるけど、勉強じゃないよ。小説を読みながら、物語に出てきたお気に入りのフレーズとか、心に残った一文とかを、メモしていってるだけ」
「へぇ、どうして?」
カインは、目をぱちくりとさせて、私に尋ねた。
「えっと……どうして、だろうね。多分、忘れたくないんだと思う」
「忘れたくない?」
「うん。小説って、頭の中で映像を再生させるために文字を媒介にするでしょ? ……文字で映像を見た気になれるって、すごいことじゃない? 映画を観たような気にさせてくれる、生きた文章を書き留めておくのが、楽しいんだよね」
私の言葉に、カインはぽかんとしたような表情を浮かべた。
「……」
「っ、ごめん。意味わかんないこと言っちゃって」
「いや。違う」
カインは目を細めて微笑んだ。
「やっぱりあんたは素敵だなって思っただけだよ」
今の発言の、一体何が、カインの琴線に触れたのだろう。
「あ……ありがとう……?」
「ははっ、なんで疑問形。よし。俺は朝練に行ってくる」
カインはやけに上機嫌そうに、くるりと踵を返し、教室を出て行った。教室のドアを抜ける直前、カインがこちらを振り返った。私は無意識のうちに彼のことを目線で追っていたから、振り返られた時に驚いて、思わず目をそらしてしまった。その時、カインがこちらを愛おしげに見つめていたことなど、私は知る由もなかった。
(2021/10/11)
(加筆修正:2021/12/3)
「おはよう」
「カイン…おはよう」
カインはなぜか、こんな私にも明るく挨拶してくれる。小学校、中学校にいた時も、高校生になってからも、私はキラキラした人たちの仲間入りをすることができていなかった。いわゆるスクールカースト上位グループの人たちとは全然かかわらないし、そもそも自分から関わりに行こうともしない。向こうが声をかけてこないのだから、私は別に必要とされてなんかいない。こっちも、別に声をかけてもらえないことで寂しく思うことはあっても、困ることはなかったから、結局今まで何もしないできた。
そんなわけで、私は絶対にキラキラした人たちとは一生関わらないで生きていくんだろうなって思ってた。だけど転機が訪れた。カインに出会ったからだ。
「あんたは今日も素敵だな」
朝の、人もまばらな教室に、彼の声はよく響く。
「……ありがとう」
控えめに返せば、カインはにっと歯を見せて笑った。眩しすぎる。その笑顔。
カインには、目の前の相手を褒めちぎる癖がある。こうやって「素敵」って言葉を惜しげ無く伝えるのも、もちろん私相手にだけじゃない。色んな女の子にも男の子にも言ってるから、みんな勘違いするし、みんな彼のことを好きになる。彼は恵まれた容姿に加えて、明るさも、まっすぐさも、強さも、優しさも、全部をその身に持ち合わせていた。
カインの席は通路を挟んで私の斜め前だ。彼はどうやら、何か探し物をしているらしい。
机の引き出しをゴソゴソと漁って、「あれ? 倉庫の鍵、確か昨日引き出しに入れたはずなんだけどな……あ、あったあった!」大きな独り言を響かせる大きな背中を、何気なく斜め後ろから見つめていたら、突然彼が振り返った。
ばちっと目線が合って、カインが瞳を揺らす。
「悪い。うるさかったか?」
カインは目的だった倉庫の鍵片手に、私の机の方まで近づいてきた。
「い、いや。全然」
「すまない。あんたはいつも、朝早くから勉強してて偉いよな」
「勉強じゃないよ。ただの読書」
「え? でも、何か書いてるじゃないか」
「うん。書いてるけど、勉強じゃないよ。小説を読みながら、物語に出てきたお気に入りのフレーズとか、心に残った一文とかを、メモしていってるだけ」
「へぇ、どうして?」
カインは、目をぱちくりとさせて、私に尋ねた。
「えっと……どうして、だろうね。多分、忘れたくないんだと思う」
「忘れたくない?」
「うん。小説って、頭の中で映像を再生させるために文字を媒介にするでしょ? ……文字で映像を見た気になれるって、すごいことじゃない? 映画を観たような気にさせてくれる、生きた文章を書き留めておくのが、楽しいんだよね」
私の言葉に、カインはぽかんとしたような表情を浮かべた。
「……」
「っ、ごめん。意味わかんないこと言っちゃって」
「いや。違う」
カインは目を細めて微笑んだ。
「やっぱりあんたは素敵だなって思っただけだよ」
今の発言の、一体何が、カインの琴線に触れたのだろう。
「あ……ありがとう……?」
「ははっ、なんで疑問形。よし。俺は朝練に行ってくる」
カインはやけに上機嫌そうに、くるりと踵を返し、教室を出て行った。教室のドアを抜ける直前、カインがこちらを振り返った。私は無意識のうちに彼のことを目線で追っていたから、振り返られた時に驚いて、思わず目をそらしてしまった。その時、カインがこちらを愛おしげに見つめていたことなど、私は知る由もなかった。
(2021/10/11)
(加筆修正:2021/12/3)
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