第三章【秋季大会・地区大会編】
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コン、コン。
静まり返った廊下で、悟は小さく、しかしはっきりとドアをノックした。
数秒の重い沈黙の後、勢いよくドアが引き開けられる。
「……ッ」
阿含の、サングラスの下から覗く獲物を射抜くような鋭い眼。ひどく不機嫌そうなその顔に見下ろされ、悟はかつてのように怯えて萎縮しそうになる自分を必死に抑え込んだ。
「用件だけ言え」
一切の容赦がない、冷酷な声。
圧倒的なプレッシャーに息を呑んだ悟だったが、ここで踵を返すことはせず、恐怖を悟られまいと声を張った。
「……久しぶり。携帯変えたから、番号も変わったよ」
阿含は忌々しそうに、悟の手に握られた携帯を見下ろすと、ぶっきらぼうに尋ねる。
「あ゛〜?前のはどうした」
「……水に落として、壊したから」
水没の顛末を話せば、また愚図だの馬鹿だの罵倒の言葉が出るであろうことを察し、悟はあえて詳細な返答を避けた。
「……テメーの趣味じゃねぇな」
阿含の直感と洞察力が、瞬時にすべての辻褄を合わせる。悟が、自ら最新機種、何よりもこのような派手なカラーを選ぶはずがない。
ならば、誰がこんな彼女に不釣り合いな物を押し付けたのか。
「チッ……あのヒル魔 の趣味か」
地を這うような低い声。悟の瞳を真っ直ぐに睨みながら、阿含は不快感を隠そうともせずに吐き捨てた。
「あのカスに絆されてやがんな。……他人のモンに勝手な真似しやがって」
自身のテリトリーに、目障りな外野が勝手に手を出してマーキングをしたという事実が、阿含の逆鱗に触れる。
「あっ……!」
阿含は悟の手から乱暴に携帯をひったくると、手慣れた様子で自身の番号を入力し、発信ボタンを押した。自身の端末への着信を確認し、携帯を悟へとぞんざいに押し返す。
そして、苛立ちを孕んだ声で、彼女を見下すように鼻で笑った。
「相変わらず低能過ぎて目も当てられねぇな。これくらい反応できねぇようじゃ『神速のインパルス』の持ち腐れだ」
阿含はさらに言葉を続ける。
「巨深のでけぇだけの雑魚相手に、テメーとあのアイシールドとかいうチビカスが最終クォーターで飛んだ時は笑えたぜ。サーカスでも始めるつもりか? ククッ」
「……え?」
「巨深も泥門も、カス過ぎて話にならねぇよ」
嘲笑とともに紡がれた、自分のみならず、セナや巨深への侮蔑が込められたその言葉に悟は怒りを感じていたが、とある事柄に気が付きハッとして顔を上げた。
巨深戦の最終局面、セナと共に飛んだあのプレー。それは、あの試合を最後まで観ていなければ、知るはずのない光景だったからだ。
「……試合、見てくれてるの……?」
思わずこぼれ出た悟の問いに、阿含が表情を固め、一瞬言葉を詰まらせた。
「……あ゛〜? テメーらの仲良しこよしのアメフトごっこを馬鹿にしてやるためだっつーの。……勘違いしてんなよ」
痛いところを突かれた焦りを誤魔化すように、阿含は乱暴に言い放つ。
そして、着替えなどを詰めたであろうボストンバッグを肩に担ぎ上げると、悟の横をすり抜け、階段へと向かって足早に歩き出した。
すれ違いざま、背後から底冷えするような殺気を伴った宣戦布告が落とされる。
「まぁ待ってな、そのうち泥門ごとブッ潰してやるからよ」
兄の背中を見送りながら、悟は手の中の携帯を強く握りしめた。
(……阿含)
トーナメントを勝ち進んだ先に訪れるであろう神龍寺ナーガとの死闘。それが避けられない運命であることを、悟はひしひしと肌で感じていた。
静まり返った廊下で、悟は小さく、しかしはっきりとドアをノックした。
数秒の重い沈黙の後、勢いよくドアが引き開けられる。
「……ッ」
阿含の、サングラスの下から覗く獲物を射抜くような鋭い眼。ひどく不機嫌そうなその顔に見下ろされ、悟はかつてのように怯えて萎縮しそうになる自分を必死に抑え込んだ。
「用件だけ言え」
一切の容赦がない、冷酷な声。
圧倒的なプレッシャーに息を呑んだ悟だったが、ここで踵を返すことはせず、恐怖を悟られまいと声を張った。
「……久しぶり。携帯変えたから、番号も変わったよ」
阿含は忌々しそうに、悟の手に握られた携帯を見下ろすと、ぶっきらぼうに尋ねる。
「あ゛〜?前のはどうした」
「……水に落として、壊したから」
水没の顛末を話せば、また愚図だの馬鹿だの罵倒の言葉が出るであろうことを察し、悟はあえて詳細な返答を避けた。
「……テメーの趣味じゃねぇな」
阿含の直感と洞察力が、瞬時にすべての辻褄を合わせる。悟が、自ら最新機種、何よりもこのような派手なカラーを選ぶはずがない。
ならば、誰がこんな彼女に不釣り合いな物を押し付けたのか。
「チッ……あの
地を這うような低い声。悟の瞳を真っ直ぐに睨みながら、阿含は不快感を隠そうともせずに吐き捨てた。
「あのカスに絆されてやがんな。……他人のモンに勝手な真似しやがって」
自身のテリトリーに、目障りな外野が勝手に手を出してマーキングをしたという事実が、阿含の逆鱗に触れる。
「あっ……!」
阿含は悟の手から乱暴に携帯をひったくると、手慣れた様子で自身の番号を入力し、発信ボタンを押した。自身の端末への着信を確認し、携帯を悟へとぞんざいに押し返す。
そして、苛立ちを孕んだ声で、彼女を見下すように鼻で笑った。
「相変わらず低能過ぎて目も当てられねぇな。これくらい反応できねぇようじゃ『神速のインパルス』の持ち腐れだ」
阿含はさらに言葉を続ける。
「巨深のでけぇだけの雑魚相手に、テメーとあのアイシールドとかいうチビカスが最終クォーターで飛んだ時は笑えたぜ。サーカスでも始めるつもりか? ククッ」
「……え?」
「巨深も泥門も、カス過ぎて話にならねぇよ」
嘲笑とともに紡がれた、自分のみならず、セナや巨深への侮蔑が込められたその言葉に悟は怒りを感じていたが、とある事柄に気が付きハッとして顔を上げた。
巨深戦の最終局面、セナと共に飛んだあのプレー。それは、あの試合を最後まで観ていなければ、知るはずのない光景だったからだ。
「……試合、見てくれてるの……?」
思わずこぼれ出た悟の問いに、阿含が表情を固め、一瞬言葉を詰まらせた。
「……あ゛〜? テメーらの仲良しこよしのアメフトごっこを馬鹿にしてやるためだっつーの。……勘違いしてんなよ」
痛いところを突かれた焦りを誤魔化すように、阿含は乱暴に言い放つ。
そして、着替えなどを詰めたであろうボストンバッグを肩に担ぎ上げると、悟の横をすり抜け、階段へと向かって足早に歩き出した。
すれ違いざま、背後から底冷えするような殺気を伴った宣戦布告が落とされる。
「まぁ待ってな、そのうち泥門ごとブッ潰してやるからよ」
兄の背中を見送りながら、悟は手の中の携帯を強く握りしめた。
(……阿含)
トーナメントを勝ち進んだ先に訪れるであろう神龍寺ナーガとの死闘。それが避けられない運命であることを、悟はひしひしと肌で感じていた。