第三章【秋季大会・地区大会編】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
グラウンドからズルズルと首根っこを掴まれたまま引きずられ、悟が放り込まれたのは、誰もいない部室だった。
背後で無情にもドアが閉められる。セナたち部員に気の毒そうに見送られた光景が脳裏にフラッシュバックする。
他クラスの男子から連絡先を聞かれた件か、それとも西武戦に向けた個別のシゴキか。いずれにせよ、まともな事態ではないだろうと身構える。
「 連絡先を聞かれた事についてなら、全部ちゃんと断りましたよ……?」
悟が先走って弁解の言葉を口にする。
「あァ? ンなこたどうでもいい」
怒号やマシンガンの乱射が飛んでくるかと思いきや、ヒル魔の声は拍子抜けするほど平坦だった。ヒル魔は自身のカバンの中から無造作に『ある物』を取り出し、悟に向かってポンッとぞんざいに投げつけた。
慌てて両手でキャッチした悟は、手の中に収まったその物体を見て目を丸くした。
「これ……」
それは、鮮やかなワインレッドの最新型携帯電話だった。
だが、なぜそれを自分に投げてよこしたのか分からず、悟はポカンとヒル魔を見つめた。
「やる」
ヒル魔は不敵に口角を上げ、言い放った。
「騎馬戦でバンプっつー正解を導き出した、『ご褒美』にな」
その言葉の意味を理解した瞬間、悟は慌てふためいた。
「えっ……受け取れません! こんな高価なもの……」
ヒル魔はニヤリと笑みを浮かべると、バッグの中からジャラジャラと大量の携帯電話を見せびらかすように取り出してみせた。
「俺の私用の携帯の一つだ。一つくらいなくなろうと問題はねぇ」
ヒル魔が日頃から無数の携帯電話や端末を持ち歩いていることは知っている。
だが、ハイそうですかと素直に受け取れるものではない。
「……毎月通信料だってあるじゃないですか、やっぱり受け取れませんよ」
悟 が携帯を持つ手を前に差し出すと、ヒル魔はそれを鼻で笑って一蹴した。
「テメーの管理のための必要コストだ。そいつにはGPSも積んでんだよ。テメーが携帯と一緒に水没させた『アレ』の代わりにな。バッテリー切らさず常に持ち歩け」
ヒル魔の言葉に、悟はハッとした。
先日、巨深高校へスパイに行った際、プールに落ちて自分の携帯を水没させてしまったあの時。以前からヒル魔が持たせていた護身用(兼、監視用)の小型GPS発信機も一緒に壊してしまっていたのだ。
「防水仕様だ。これからは好きなだけプールに落ちれんぞ。ケケッ、良かったじゃねぇか」
皮肉混じりの正論と、反論を許さないヒル魔の圧力に、これ以上拒否しても無駄だと悟った悟はしぶしぶ「……はい、ありがとうございます」と手の中の携帯を見つめた。泥門デビルバッツのチームカラーでもある、深い赤の筐体。
用は済んだとばかりに、ヒル魔は踵を返して部室の扉に手をかけた。
彼がそのまま外へ出るかと思われた、その時。
ヒル魔は足を止め、振り返ることなく、背中越しにポツリと付け足した。
「……誰彼構わず連絡先教えんじゃねぇぞ」
「……!」
言い残し、足早に部室を出ていくヒル魔。
バタン、と再びドアが閉まり、静寂が戻った部室の中で、悟は一人立ち尽くした。
(――「どうでもいい」、なんて言ってたけど、少しは気にしてたんだ)
「管理のための必要コスト」だと、いかにもな理屈を並べ立てていたが、要するに悟の行動を把握したい、彼女を自分の手元に置き続けたいという独占欲に他ならない。呆れるほど強引で、それでいてひどく不器用な、ヒル魔なりの愛情のかけ方なのだ。
「……ふふっ」
悟は手の中のワインレッドの携帯を、愛おしむように両手で包み込んだ。
誰もいない部室で、冷たいはずの機械から伝わってくる彼の不器用な愛情の温かさに悟は密かに、しかしとびきり嬉しそうな笑みをこぼしたのだった。
背後で無情にもドアが閉められる。セナたち部員に気の毒そうに見送られた光景が脳裏にフラッシュバックする。
他クラスの男子から連絡先を聞かれた件か、それとも西武戦に向けた個別のシゴキか。いずれにせよ、まともな事態ではないだろうと身構える。
「 連絡先を聞かれた事についてなら、全部ちゃんと断りましたよ……?」
悟が先走って弁解の言葉を口にする。
「あァ? ンなこたどうでもいい」
怒号やマシンガンの乱射が飛んでくるかと思いきや、ヒル魔の声は拍子抜けするほど平坦だった。ヒル魔は自身のカバンの中から無造作に『ある物』を取り出し、悟に向かってポンッとぞんざいに投げつけた。
慌てて両手でキャッチした悟は、手の中に収まったその物体を見て目を丸くした。
「これ……」
それは、鮮やかなワインレッドの最新型携帯電話だった。
だが、なぜそれを自分に投げてよこしたのか分からず、悟はポカンとヒル魔を見つめた。
「やる」
ヒル魔は不敵に口角を上げ、言い放った。
「騎馬戦でバンプっつー正解を導き出した、『ご褒美』にな」
その言葉の意味を理解した瞬間、悟は慌てふためいた。
「えっ……受け取れません! こんな高価なもの……」
ヒル魔はニヤリと笑みを浮かべると、バッグの中からジャラジャラと大量の携帯電話を見せびらかすように取り出してみせた。
「俺の私用の携帯の一つだ。一つくらいなくなろうと問題はねぇ」
ヒル魔が日頃から無数の携帯電話や端末を持ち歩いていることは知っている。
だが、ハイそうですかと素直に受け取れるものではない。
「……毎月通信料だってあるじゃないですか、やっぱり受け取れませんよ」
悟 が携帯を持つ手を前に差し出すと、ヒル魔はそれを鼻で笑って一蹴した。
「テメーの管理のための必要コストだ。そいつにはGPSも積んでんだよ。テメーが携帯と一緒に水没させた『アレ』の代わりにな。バッテリー切らさず常に持ち歩け」
ヒル魔の言葉に、悟はハッとした。
先日、巨深高校へスパイに行った際、プールに落ちて自分の携帯を水没させてしまったあの時。以前からヒル魔が持たせていた護身用(兼、監視用)の小型GPS発信機も一緒に壊してしまっていたのだ。
「防水仕様だ。これからは好きなだけプールに落ちれんぞ。ケケッ、良かったじゃねぇか」
皮肉混じりの正論と、反論を許さないヒル魔の圧力に、これ以上拒否しても無駄だと悟った悟はしぶしぶ「……はい、ありがとうございます」と手の中の携帯を見つめた。泥門デビルバッツのチームカラーでもある、深い赤の筐体。
用は済んだとばかりに、ヒル魔は踵を返して部室の扉に手をかけた。
彼がそのまま外へ出るかと思われた、その時。
ヒル魔は足を止め、振り返ることなく、背中越しにポツリと付け足した。
「……誰彼構わず連絡先教えんじゃねぇぞ」
「……!」
言い残し、足早に部室を出ていくヒル魔。
バタン、と再びドアが閉まり、静寂が戻った部室の中で、悟は一人立ち尽くした。
(――「どうでもいい」、なんて言ってたけど、少しは気にしてたんだ)
「管理のための必要コスト」だと、いかにもな理屈を並べ立てていたが、要するに悟の行動を把握したい、彼女を自分の手元に置き続けたいという独占欲に他ならない。呆れるほど強引で、それでいてひどく不器用な、ヒル魔なりの愛情のかけ方なのだ。
「……ふふっ」
悟は手の中のワインレッドの携帯を、愛おしむように両手で包み込んだ。
誰もいない部室で、冷たいはずの機械から伝わってくる彼の不器用な愛情の温かさに悟は密かに、しかしとびきり嬉しそうな笑みをこぼしたのだった。