第三章【秋季大会・地区大会編】
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体育祭翌日の放課後。
ホームルームが終わるや否や、悟のクラスには見知らぬ他クラスの男子生徒が訪ねてきていた。
「ね! もしよかったら連絡先教えてよ!」
照れくさそうに携帯電話を差し出す男子生徒に対し、悟は申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。
「ごめんなさい。そもそも今、携帯水没させちゃって持ってないから……」
男子生徒が名残惜しそうに教室を出ていく。
体育祭、特に騎馬戦で見せた見事な采配。ヒル魔を相手に堂々と立ち回った彼女の姿は、他学年や他クラスの男子たちの目を大いに惹きつけていた。今日だけでも、授業の合間や放課後にこうして声をかけられるのは一度や二度ではなかった。
少し離れた席でその様子を眺めていたのは、同クラスのセナとハァハァ三兄弟だ。
「今日、何人目だろう……」
呆然と呟くセナの横で、黒木が腕を組んで鼻で笑った。
「悟も律儀だよな。一人一人ちゃんと断って、謝ってよ。ただ、携帯が水没したなんつー、あんな分かりやすい嘘はどうかと思うぜ〜?」
「いや、あれは本当のことというか……僕のせいというか……」
気まずそうに視線を泳がせるセナに、十文字が「……は?」と凄む。
セナは致し方なく、先日巨深高校へスパイに行った際、自分を庇った悟がプールに落ちてしまった事件の顛末をかいつまんで説明した。
男子生徒の対応を終え、何事もなかったかのように戻ってきた悟は、三兄弟からのジト目と呆れたような視線を一斉に浴びることになった。
「……うん?何?」
怪訝な顔をする悟に、十文字がため息混じりに口を開く。
「セナから巨深でプールに落ちた話聞いたんだよ。危なっかしいにも程があるだろ……怪我でもしたらどうすんだ」
「試合中や作戦練ってる時は隙のねぇ完璧主義のくせに、普段はなんか抜けてんだよな……」
黒木が呆れ半分に言うと、戸叶も漫画から顔を上げて「カカッ、同感」と頷いた。
悟が非難がましい目でセナを見ると、セナは「ご、ごめん!」と申し訳なさそうに両手を合わせた。
「そういや、春季大会の決勝観に行った時も、スタジアム内ではぐれた上に迷って遅刻してたよな?」
「巨深のスパイに行った時も、速攻でバレたらしいしな」
黒木と戸叶の容赦ない追撃に、悟は「うっ」と小さく呻く。そこへ、十文字がトドメとばかりにポツリと付け足した。
「……ラスベガスで知らねぇ奴から受け取った酒、普通に飲んじまったりな」
「ハァ? なんだよ知らねぇよその話! 聞かせろよ!!」
初耳の爆弾発言に黒木が食いつく。だが、十文字はふいっと視線を逸らした。
「……さぁな、言わねぇ」
十文字が、僅かに口角を上げたまま、彼女との思い出をしまい込むように口をつぐむ。
怒涛のイジりと、思い出したくない失態のオンパレードに参った悟は、顔を真っ赤にして三兄弟の背中をぐいぐいと押した。
「ほ、ほら!! もう練習に遅れちゃうから、早くグラウンド行こう!!」
そうして昇降口へ着き、十文字が自分の靴箱を開けた時のことだった。
バサリと、一通の可愛らしい封筒が床に落ちた。同時に、隣にいた黒木が電光石火の速さでそれを奪い取る。
「オイ!! 黒木!」
「……『放課後、校舎裏で待っています』……」
手紙の内容を読み上げた黒木が、ワナワナと肩を震わせ、大仰に叫び声を上げた。
「十文字テメー……!!! 一丁前にモテてんじゃねーよ!! フザケンナ!!」
首を絞めにかかる黒木と、それを引き剥がそうとする十文字。
体育祭で男気あふれる統率力で赤組を牽引した十文字に、好感を持つ女子生徒が現れるのもまた必然だったのだ。
校舎を後にし、練習着に着替えたセナたち一同に、ヒル魔が檄を飛ばす。
「おせーぞ糞ガキ共! 通常の練習メニューに加えて、バンプもみっちり鍛えんぞ!!」
ふと、十文字の姿が無いことに気づいたヒル魔が、セナを小突いて呼び止める。
「オイ糞チビ! 糞長男はどうした」
「えーっと……用事があるみたいというか…」
「あァ?うじうじ話すんじゃねぇ!」
「ひいぃ!えっと……!下駄箱に手紙が入ってて、今校舎裏に……」
セナの口から事情を聞いたヒル魔は、ピクリと眉を動かし、ケケケと不敵に笑った。
「体育祭効果ってか?糞長男の野郎、色気づきやがって。……っつーことは、大方糞悟んとこにも発情期のクソ共が群がってたんだろ」
鋭い推測に、セナがビクッと肩を揺らす。
「は、はい……。休み時間と放課後に、他クラスの人から連絡先聞かれてました。全部断ってたみたいですけど……」
「チッ、糞ミーハー共が」
ヒル魔は面倒そうに悪態をついた。
その程度の有象無象に本気で脅かされるほど、彼の器は小さくない。ただ、彼女に群がる羽虫の存在が鬱陶しいだけだ。
「やれやれ」といった様子で首を鳴らすと、ヒル魔は無表情のままツカツカと悟の背後へ近づいた。
そして、練習を始めようとストレッチをしていた悟の首根っこを、むんずと無造作に掴む。
「えっ? ヒル魔さ……」
悟はズルズルと後ろ向きで半ば引きずられるように歩かされる。
「わっ、ちょっと、逃げませんから……!!!」
二人の関係など知る由もない部員たちは、理不尽に連行されていく悟の姿をただただ気の毒そうに見送っていたのだった。
ホームルームが終わるや否や、悟のクラスには見知らぬ他クラスの男子生徒が訪ねてきていた。
「ね! もしよかったら連絡先教えてよ!」
照れくさそうに携帯電話を差し出す男子生徒に対し、悟は申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。
「ごめんなさい。そもそも今、携帯水没させちゃって持ってないから……」
男子生徒が名残惜しそうに教室を出ていく。
体育祭、特に騎馬戦で見せた見事な采配。ヒル魔を相手に堂々と立ち回った彼女の姿は、他学年や他クラスの男子たちの目を大いに惹きつけていた。今日だけでも、授業の合間や放課後にこうして声をかけられるのは一度や二度ではなかった。
少し離れた席でその様子を眺めていたのは、同クラスのセナとハァハァ三兄弟だ。
「今日、何人目だろう……」
呆然と呟くセナの横で、黒木が腕を組んで鼻で笑った。
「悟も律儀だよな。一人一人ちゃんと断って、謝ってよ。ただ、携帯が水没したなんつー、あんな分かりやすい嘘はどうかと思うぜ〜?」
「いや、あれは本当のことというか……僕のせいというか……」
気まずそうに視線を泳がせるセナに、十文字が「……は?」と凄む。
セナは致し方なく、先日巨深高校へスパイに行った際、自分を庇った悟がプールに落ちてしまった事件の顛末をかいつまんで説明した。
男子生徒の対応を終え、何事もなかったかのように戻ってきた悟は、三兄弟からのジト目と呆れたような視線を一斉に浴びることになった。
「……うん?何?」
怪訝な顔をする悟に、十文字がため息混じりに口を開く。
「セナから巨深でプールに落ちた話聞いたんだよ。危なっかしいにも程があるだろ……怪我でもしたらどうすんだ」
「試合中や作戦練ってる時は隙のねぇ完璧主義のくせに、普段はなんか抜けてんだよな……」
黒木が呆れ半分に言うと、戸叶も漫画から顔を上げて「カカッ、同感」と頷いた。
悟が非難がましい目でセナを見ると、セナは「ご、ごめん!」と申し訳なさそうに両手を合わせた。
「そういや、春季大会の決勝観に行った時も、スタジアム内ではぐれた上に迷って遅刻してたよな?」
「巨深のスパイに行った時も、速攻でバレたらしいしな」
黒木と戸叶の容赦ない追撃に、悟は「うっ」と小さく呻く。そこへ、十文字がトドメとばかりにポツリと付け足した。
「……ラスベガスで知らねぇ奴から受け取った酒、普通に飲んじまったりな」
「ハァ? なんだよ知らねぇよその話! 聞かせろよ!!」
初耳の爆弾発言に黒木が食いつく。だが、十文字はふいっと視線を逸らした。
「……さぁな、言わねぇ」
十文字が、僅かに口角を上げたまま、彼女との思い出をしまい込むように口をつぐむ。
怒涛のイジりと、思い出したくない失態のオンパレードに参った悟は、顔を真っ赤にして三兄弟の背中をぐいぐいと押した。
「ほ、ほら!! もう練習に遅れちゃうから、早くグラウンド行こう!!」
そうして昇降口へ着き、十文字が自分の靴箱を開けた時のことだった。
バサリと、一通の可愛らしい封筒が床に落ちた。同時に、隣にいた黒木が電光石火の速さでそれを奪い取る。
「オイ!! 黒木!」
「……『放課後、校舎裏で待っています』……」
手紙の内容を読み上げた黒木が、ワナワナと肩を震わせ、大仰に叫び声を上げた。
「十文字テメー……!!! 一丁前にモテてんじゃねーよ!! フザケンナ!!」
首を絞めにかかる黒木と、それを引き剥がそうとする十文字。
体育祭で男気あふれる統率力で赤組を牽引した十文字に、好感を持つ女子生徒が現れるのもまた必然だったのだ。
校舎を後にし、練習着に着替えたセナたち一同に、ヒル魔が檄を飛ばす。
「おせーぞ糞ガキ共! 通常の練習メニューに加えて、バンプもみっちり鍛えんぞ!!」
ふと、十文字の姿が無いことに気づいたヒル魔が、セナを小突いて呼び止める。
「オイ糞チビ! 糞長男はどうした」
「えーっと……用事があるみたいというか…」
「あァ?うじうじ話すんじゃねぇ!」
「ひいぃ!えっと……!下駄箱に手紙が入ってて、今校舎裏に……」
セナの口から事情を聞いたヒル魔は、ピクリと眉を動かし、ケケケと不敵に笑った。
「体育祭効果ってか?糞長男の野郎、色気づきやがって。……っつーことは、大方糞悟んとこにも発情期のクソ共が群がってたんだろ」
鋭い推測に、セナがビクッと肩を揺らす。
「は、はい……。休み時間と放課後に、他クラスの人から連絡先聞かれてました。全部断ってたみたいですけど……」
「チッ、糞ミーハー共が」
ヒル魔は面倒そうに悪態をついた。
その程度の有象無象に本気で脅かされるほど、彼の器は小さくない。ただ、彼女に群がる羽虫の存在が鬱陶しいだけだ。
「やれやれ」といった様子で首を鳴らすと、ヒル魔は無表情のままツカツカと悟の背後へ近づいた。
そして、練習を始めようとストレッチをしていた悟の首根っこを、むんずと無造作に掴む。
「えっ? ヒル魔さ……」
悟はズルズルと後ろ向きで半ば引きずられるように歩かされる。
「わっ、ちょっと、逃げませんから……!!!」
二人の関係など知る由もない部員たちは、理不尽に連行されていく悟の姿をただただ気の毒そうに見送っていたのだった。