第三章【秋季大会・地区大会編】
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泥門高校体育祭も、いよいよ最終演目 「騎馬戦」を残すのみとなった。
現在の得点は白組が僅かに上回っており、赤組にとっては後がない背水の陣である。
「いいか糞白組ども! 打ち合わせ通りのルートで進め! フォーメーション乱したら撃ち殺すぞ!」
白組陣営では、大将であるヒル魔がアサルトライフルを天高く掲げ、軍隊さながらの絶対的な統率を敷いていた。
一方、グラウンドの反対側。赤組陣営の信頼を得た悟が、男子生徒たちを前に声を張り上げていた。
「白組は絶対に数の利を取ろうとしてくるはずです! 単騎になれるのは先ほど指定した囮役の機動力のある騎馬だけ、他はなるべく囲まれないよう複数の騎馬で動いてください!」
悟はヒル魔の思考をトレースし、対抗策を練る。超高校級の頭脳を持つヒル魔と、彼の盤上の動かし方を間近で見てきた悟。グラウンドを挟んで、二人の高度な戦略のぶつかり合いが始まろうとしていた。
作戦の伝達に悟と十文字が気を取られていたその隙を突き、白組が動く。
「みんな! 正々堂々、頑張ろうね! 握手はお嫌い?」
「ギスギスせず、爽やかに戦おう! さぁ!」
白組のまもりと雪光が、赤組のアメフト部員たちに満面の笑みで近づき、爽やかに手を差し出してきたのだ。
セナやモン太たちが何の疑いもなくその手を握り返した、次の瞬間。
――ガシャコッ。
無機質な金属音が鳴り響き、赤組のアメフト部員たちの両手に、頑丈な手錠がかけられた。
「て、手錠〜!!?」
セナの悲鳴に、悟と十文字が慌てて駆け寄る。手錠を外そうにも鍵はなく、小さなパニック状態に陥った。
しかし、悟はその混乱の中でも、一人冷静にヒル魔の意図を分析していた。
「……不自然だよ。ヒル魔さんが本気で勝つつもりなら、全員に手錠をかけるはず」
顎に手を当てて思考の海に沈む悟の隣で、十文字が舌打ちをしながら呟いた。
「手錠をかけられたやつは馬はできねぇな。騎手をやるしかねぇ」
その十文字の何気ない一言に、悟はハッと顔を上げた。
セナ、モン太、夏彦、黒木……手錠をかけられたメンバーの顔を順番に見渡し、瞬時に一つの『共通点』をはじき出す。
「……!! 手錠をかけられてるのはラインバッカーとディフェンスバック! ディフェンスライン以外だ!」
悟の口から飛び出した用語に、セナたちの頭上にハテナマークが浮かぶ。そこへ、十文字が呆れたように通訳に入った。
「手錠かけられてんのは、西武戦で『敵のパスを防ぐ役目』のポジションに付くやつだって事だ」
悟は仮説を組み立て、その真意へと少しずつ近づいていく。
「ヒル魔さんの目的はたぶん、白組が勝つことじゃない。この騎馬戦という場を使って、対西武――それもキッドさんの『ショットガン』に対する策を講じるためだとしたら……」
ブツブツと呟きながら核心に迫ろうとする悟だったが、答えにたどり着く前に、無情にも開始のアナウンスがグラウンドに響き渡った。
『――間もなく、体育祭最終決戦、騎馬戦がスタートします!』
男子生徒限定のこの競技。悟はグラウンドの外へ下がるしかなく、始まってしまえばもう細かな指示は出せない。
「さーて!フォーメーション、『騎馬戦式ショットガン』だ!!!」
ヒル魔の凶悪な号令と共に、白組の騎馬隊が一斉に動き出した。
悟の事前作戦により初めこそ陣形を保っていた赤組だったが、多角的な白組の猛攻により、次々と味方の馬が潰されていく。手錠による動きの制限に翻弄されたセナらの騎馬は逃げる事しかできない。
劣勢に立たされる赤組。
グラウンドの外で戦況を見つめていた悟の脳内に、突如として閃きの稲妻が走った。
(ハチマキを取ろうと手を伸ばしてくる敵が、西武のレシーバーだとして……そうか、わかった!!)
手錠をかけられ、手が自由に使えない騎手がどうやって敵と渡り合うのか。その答えは一つしかない。
「『バンプ』!!! みんなっー!! バンプだよ!!!」
悟は両手を口元に添え、グラウンドの仲間たちへ向けて力の限り叫んだ。
その声は、喧騒を切り裂いてセナや十文字たちアメフト部員の耳にハッキリと届いた。
「バンプ」――敵ワイドレシーバーの上半身をどついて出足を遅らせることで、クォーターバックのパスタイミングをずらすテクニックだ。
モン太の脳裏に、太陽スフィンクス戦でくらった強烈な「どつき」がフラッシュバックする。
「太陽戦で鎌車にくらったアレか!」
悟の一声で、赤組の騎馬隊、手錠をかけられた騎手たちの動きが如実に変わった。
ハチマキを取られそうになる前に、敵の騎手の胸ぐらへ向かって、強烈などつき――「バンプ」を叩き込む。
ヒル魔の真の目的は、自身が敵に回って過度なプレッシャーをかけることで、西武戦に向けた「本番並のシチュエーションでのバンプ練習」を積ませることだったのだ。
「っしゃああ!! これならいけるぞ!!」
バンプという答えを得たセナたちが一気に勢いを吹き返し、白組の騎手を次々となぎ倒していく。
そして怒涛の反撃の末、ついに赤組がポイントをひっくり返し、総合優勝の栄冠をもぎ取った。
『――競技終了! 泥門高校体育祭、優勝は……赤組!!』
歓声の上がるグラウンド。
その端で、悟は赤組を率いる重圧からの解放感に、その場でしゃがみ込んだ。
「悟! 大丈夫か!」
いち早く駆け寄ってきたのは、共に赤組を引っ張った、十文字だった。
「ごめん、終わったと思ったら急に力が抜けちゃって……」
悟は弱々しく笑いながら、十文字を見上げた。
「ヒル魔さんを相手取るなんて、寿命が縮む思いだったよ……」
「はっ……同感だ」
十文字は短く笑い飛ばすと、悟に向かって手を差し出した。
悟はその大きな手を取って立ち上がると、二人は顔を見合わせ、共に心地よい笑い声を上げたのだった。
現在の得点は白組が僅かに上回っており、赤組にとっては後がない背水の陣である。
「いいか糞白組ども! 打ち合わせ通りのルートで進め! フォーメーション乱したら撃ち殺すぞ!」
白組陣営では、大将であるヒル魔がアサルトライフルを天高く掲げ、軍隊さながらの絶対的な統率を敷いていた。
一方、グラウンドの反対側。赤組陣営の信頼を得た悟が、男子生徒たちを前に声を張り上げていた。
「白組は絶対に数の利を取ろうとしてくるはずです! 単騎になれるのは先ほど指定した囮役の機動力のある騎馬だけ、他はなるべく囲まれないよう複数の騎馬で動いてください!」
悟はヒル魔の思考をトレースし、対抗策を練る。超高校級の頭脳を持つヒル魔と、彼の盤上の動かし方を間近で見てきた悟。グラウンドを挟んで、二人の高度な戦略のぶつかり合いが始まろうとしていた。
作戦の伝達に悟と十文字が気を取られていたその隙を突き、白組が動く。
「みんな! 正々堂々、頑張ろうね! 握手はお嫌い?」
「ギスギスせず、爽やかに戦おう! さぁ!」
白組のまもりと雪光が、赤組のアメフト部員たちに満面の笑みで近づき、爽やかに手を差し出してきたのだ。
セナやモン太たちが何の疑いもなくその手を握り返した、次の瞬間。
――ガシャコッ。
無機質な金属音が鳴り響き、赤組のアメフト部員たちの両手に、頑丈な手錠がかけられた。
「て、手錠〜!!?」
セナの悲鳴に、悟と十文字が慌てて駆け寄る。手錠を外そうにも鍵はなく、小さなパニック状態に陥った。
しかし、悟はその混乱の中でも、一人冷静にヒル魔の意図を分析していた。
「……不自然だよ。ヒル魔さんが本気で勝つつもりなら、全員に手錠をかけるはず」
顎に手を当てて思考の海に沈む悟の隣で、十文字が舌打ちをしながら呟いた。
「手錠をかけられたやつは馬はできねぇな。騎手をやるしかねぇ」
その十文字の何気ない一言に、悟はハッと顔を上げた。
セナ、モン太、夏彦、黒木……手錠をかけられたメンバーの顔を順番に見渡し、瞬時に一つの『共通点』をはじき出す。
「……!! 手錠をかけられてるのはラインバッカーとディフェンスバック! ディフェンスライン以外だ!」
悟の口から飛び出した用語に、セナたちの頭上にハテナマークが浮かぶ。そこへ、十文字が呆れたように通訳に入った。
「手錠かけられてんのは、西武戦で『敵のパスを防ぐ役目』のポジションに付くやつだって事だ」
悟は仮説を組み立て、その真意へと少しずつ近づいていく。
「ヒル魔さんの目的はたぶん、白組が勝つことじゃない。この騎馬戦という場を使って、対西武――それもキッドさんの『ショットガン』に対する策を講じるためだとしたら……」
ブツブツと呟きながら核心に迫ろうとする悟だったが、答えにたどり着く前に、無情にも開始のアナウンスがグラウンドに響き渡った。
『――間もなく、体育祭最終決戦、騎馬戦がスタートします!』
男子生徒限定のこの競技。悟はグラウンドの外へ下がるしかなく、始まってしまえばもう細かな指示は出せない。
「さーて!フォーメーション、『騎馬戦式ショットガン』だ!!!」
ヒル魔の凶悪な号令と共に、白組の騎馬隊が一斉に動き出した。
悟の事前作戦により初めこそ陣形を保っていた赤組だったが、多角的な白組の猛攻により、次々と味方の馬が潰されていく。手錠による動きの制限に翻弄されたセナらの騎馬は逃げる事しかできない。
劣勢に立たされる赤組。
グラウンドの外で戦況を見つめていた悟の脳内に、突如として閃きの稲妻が走った。
(ハチマキを取ろうと手を伸ばしてくる敵が、西武のレシーバーだとして……そうか、わかった!!)
手錠をかけられ、手が自由に使えない騎手がどうやって敵と渡り合うのか。その答えは一つしかない。
「『バンプ』!!! みんなっー!! バンプだよ!!!」
悟は両手を口元に添え、グラウンドの仲間たちへ向けて力の限り叫んだ。
その声は、喧騒を切り裂いてセナや十文字たちアメフト部員の耳にハッキリと届いた。
「バンプ」――敵ワイドレシーバーの上半身をどついて出足を遅らせることで、クォーターバックのパスタイミングをずらすテクニックだ。
モン太の脳裏に、太陽スフィンクス戦でくらった強烈な「どつき」がフラッシュバックする。
「太陽戦で鎌車にくらったアレか!」
悟の一声で、赤組の騎馬隊、手錠をかけられた騎手たちの動きが如実に変わった。
ハチマキを取られそうになる前に、敵の騎手の胸ぐらへ向かって、強烈などつき――「バンプ」を叩き込む。
ヒル魔の真の目的は、自身が敵に回って過度なプレッシャーをかけることで、西武戦に向けた「本番並のシチュエーションでのバンプ練習」を積ませることだったのだ。
「っしゃああ!! これならいけるぞ!!」
バンプという答えを得たセナたちが一気に勢いを吹き返し、白組の騎手を次々となぎ倒していく。
そして怒涛の反撃の末、ついに赤組がポイントをひっくり返し、総合優勝の栄冠をもぎ取った。
『――競技終了! 泥門高校体育祭、優勝は……赤組!!』
歓声の上がるグラウンド。
その端で、悟は赤組を率いる重圧からの解放感に、その場でしゃがみ込んだ。
「悟! 大丈夫か!」
いち早く駆け寄ってきたのは、共に赤組を引っ張った、十文字だった。
「ごめん、終わったと思ったら急に力が抜けちゃって……」
悟は弱々しく笑いながら、十文字を見上げた。
「ヒル魔さんを相手取るなんて、寿命が縮む思いだったよ……」
「はっ……同感だ」
十文字は短く笑い飛ばすと、悟に向かって手を差し出した。
悟はその大きな手を取って立ち上がると、二人は顔を見合わせ、共に心地よい笑い声を上げたのだった。