第三章【秋季大会・地区大会編】
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泥門高校体育祭、午前の部。
第一種目である「綱引き」を前に、赤組陣営は戦々恐々とした空気に包まれていた。白組のヒル魔が放つプレッシャーに、アメフト部以外の一般生徒も含め、赤組全体が完全に気圧されていたからだ。
そんな中、悟は一人、必死に戦略を組み立てていた。赤組のメンバーそれぞれの体重、体格、所属する部活から、最適な人員を選定する。
「……できた」
悟がノートの書き殴ったのは、隊列の並び順までを指定した人員のリストだった。悟の的確な采配に、赤組のメンバーがどよめく。
「この短時間でこれ、作ったのかよ?」
十文字は悟からリストを受け取りまじまじと見つめた。
「お前の性格上、2、3年もいる中でいきなり指示出しするのは気が引けんだろ。……今は俺に任せとけ」
十文字はそう言うと、声を張り上げ、悟の立案通りの隊列をあっという間に作り上げてみせた。
悟が頭脳で最適解を導き出し、十文字がそのリーダーシップで他生徒を統率する。悟が並べたメンバーたちは、最後方に配置された栗田を頂点に、目に見えて強固な陣形を形成していた。
「…うん!セオリー通りにいけばメンバー的に負けることはないよ。なんてったってアメフト部 のライン陣がいるんだから!自信持って!」
悟の力強い後押しに、十文字ら赤組のアメフト部員たちが力強くうなずく。
結果は、赤組の快勝だった。
この綱引きを皮切りに、その後の競技でも悟と十文字の二人の連携は予想以上に噛み合い、ヒル魔率いる白組相手に勝った負けたの激しい接戦を繰り広げた。
「……やれるもんだな、あのヒル魔相手に」
「ふふ、そうだね! 自分でもびっくり……。まだヒル魔さんの狙いが分からないから油断はできないけど」
悟はホッと息を吐くと、十文字を見上げ、さも楽しげな笑顔を向けた。
「十文字くんのおかげだよ。ありがとう」
その笑顔の眩しさに、十文字の胸の奥がギュッと締め付けられる。込み上げる想いを必死に押し殺し、十文字は降参したようにふっと笑った。
「……お前には敵わねぇよ」
彼女にこうして笑いかけてもらえるなら、隣にこうしていられるなら、報われなくてもいい。
切なく、そして慈しむような瞳で、十文字は彼女を見つめていた。
午前の部が終わり昼休憩を挟んだのち、午後の部が始まった。
プログラムのアナウンスが響く中、赤組のセナと悟は、手元の出場表を見て困り果てていた。次の種目は「二人三脚」。しかし、これには特殊なルールが設けられていたのだ。
――ペアは泥門高校生徒を除く観客から選定すること。
「学外の友達なんて、鈴音くらいしか……」
「その鈴音は、まもりさんと組むみたいだね……」
郊外の知り合いの少ない二人は途方に暮れる。今から一般の観客席に行って手を貸してくれる人を探す余裕などない。
万事休すかと思われたその時、困り果てる二人の前に、予期せぬ助け船が現れた。
「セナ! 俺が一緒に走ってやるよ!」
「えっ……陸!?」
セナが驚きと喜びに目を見開いた。現れたのはセナの幼馴染であり、西武ワイルドガンマンズのランニングバック――甲斐谷陸だった。さらに、その後ろから苦笑いを浮かべテンガロンハットを目深に被った男――キッドが歩み寄ってくる。
「俺は出しゃばるのはよそうって言ったんだけどねぇ……。これも何かの縁かもな。君達が良ければ、手を貸すよ」
次の対戦相手である西武の二人が、泥門の体育祭を偵察がてら観戦しに来ていたのだ。背に腹は代えられない状況に、悟は頭を下げた。
「すみません、助かります」
「タッグを組むのはこれで2回目だね。やれやれ……あの悪魔の怒りを買いそうだ」
テキサスの浜辺、ビーチフット大会に参加した時以来のタッグ。互いに「神速」の冠を有し、速射に長けるキッドと超反応を有する悟の相性は抜群だった。
キッドは白組陣営の方を窺いながら、苦笑交じりに悟の隣に並んだ。
お互いの足を紐で結び、スタートラインに立つ。
パンッ!という号砲とともに、二人は一斉に飛び出した。
悟はキッドの予備動作や足の踏み出しに対して、持ち前の「神速のインパルス」で驚異的な反応を見せ、寸分の狂いもなく息を合わせた。
「なんだか、気味が悪いほど走りやすいね……」
驚くキッドに、悟は並走しながら微笑む。まるで長年コンビを組んできたかのようなシンクロ率。二人の走るスピードは、他の二人三脚のペアを圧倒し、またたく間にトップへと躍り出た。
そして――キッドの予想も、最悪の形で的中していた。
白組テントの特等席から、その様子を不満げに、ヒル魔がじっと凝視していた。
十文字と親しげに笑い合っていたことすら面白くなかったというのに、今度は次の対戦相手のクォーターバックと、まるで一つの生き物のように息を合わせて走っている。
この二人三脚という競技においては、悟は隣が誰であろうと、自身の身体能力の範囲内であれば寸分違わず合わせる事ができるだろう。キッド「だから」あのシンクロ率という訳ではない。
そう理解はしていても、彼の脳裏にはビーチフットでの2人の活躍が焼き付いている。それは、自身以外の男の手によってその能力を存分に発揮する彼女の姿。
アメリカ合宿初日、キッドのパスを追い、白浜をしなやかに駆ける彼女を見て感じた、あの不快な焦燥感が再びヒル魔を襲っていた。
『――さあ、本日の体育祭もいよいよ佳境! 騎馬戦の開始です!』
二人三脚が終わり、グラウンドに響き渡るアナウンス。
パイプ椅子からゆっくりと立ち上がったヒル魔の背後には、禍々しく、どす黒い邪悪な妖気が渦巻いていた。
「ケケケ……お遊びはそこまでだ。メインイベントの始まりだぜ」
その姿を見た悟と赤組メンバーの背筋に、ゾクリとした悪寒が走る。
ただの騎馬戦では終わらない。あの悪魔が仕掛ける『真の狙い』とは――。
第一種目である「綱引き」を前に、赤組陣営は戦々恐々とした空気に包まれていた。白組のヒル魔が放つプレッシャーに、アメフト部以外の一般生徒も含め、赤組全体が完全に気圧されていたからだ。
そんな中、悟は一人、必死に戦略を組み立てていた。赤組のメンバーそれぞれの体重、体格、所属する部活から、最適な人員を選定する。
「……できた」
悟がノートの書き殴ったのは、隊列の並び順までを指定した人員のリストだった。悟の的確な采配に、赤組のメンバーがどよめく。
「この短時間でこれ、作ったのかよ?」
十文字は悟からリストを受け取りまじまじと見つめた。
「お前の性格上、2、3年もいる中でいきなり指示出しするのは気が引けんだろ。……今は俺に任せとけ」
十文字はそう言うと、声を張り上げ、悟の立案通りの隊列をあっという間に作り上げてみせた。
悟が頭脳で最適解を導き出し、十文字がそのリーダーシップで他生徒を統率する。悟が並べたメンバーたちは、最後方に配置された栗田を頂点に、目に見えて強固な陣形を形成していた。
「…うん!セオリー通りにいけばメンバー的に負けることはないよ。なんてったって
悟の力強い後押しに、十文字ら赤組のアメフト部員たちが力強くうなずく。
結果は、赤組の快勝だった。
この綱引きを皮切りに、その後の競技でも悟と十文字の二人の連携は予想以上に噛み合い、ヒル魔率いる白組相手に勝った負けたの激しい接戦を繰り広げた。
「……やれるもんだな、あのヒル魔相手に」
「ふふ、そうだね! 自分でもびっくり……。まだヒル魔さんの狙いが分からないから油断はできないけど」
悟はホッと息を吐くと、十文字を見上げ、さも楽しげな笑顔を向けた。
「十文字くんのおかげだよ。ありがとう」
その笑顔の眩しさに、十文字の胸の奥がギュッと締め付けられる。込み上げる想いを必死に押し殺し、十文字は降参したようにふっと笑った。
「……お前には敵わねぇよ」
彼女にこうして笑いかけてもらえるなら、隣にこうしていられるなら、報われなくてもいい。
切なく、そして慈しむような瞳で、十文字は彼女を見つめていた。
午前の部が終わり昼休憩を挟んだのち、午後の部が始まった。
プログラムのアナウンスが響く中、赤組のセナと悟は、手元の出場表を見て困り果てていた。次の種目は「二人三脚」。しかし、これには特殊なルールが設けられていたのだ。
――ペアは泥門高校生徒を除く観客から選定すること。
「学外の友達なんて、鈴音くらいしか……」
「その鈴音は、まもりさんと組むみたいだね……」
郊外の知り合いの少ない二人は途方に暮れる。今から一般の観客席に行って手を貸してくれる人を探す余裕などない。
万事休すかと思われたその時、困り果てる二人の前に、予期せぬ助け船が現れた。
「セナ! 俺が一緒に走ってやるよ!」
「えっ……陸!?」
セナが驚きと喜びに目を見開いた。現れたのはセナの幼馴染であり、西武ワイルドガンマンズのランニングバック――甲斐谷陸だった。さらに、その後ろから苦笑いを浮かべテンガロンハットを目深に被った男――キッドが歩み寄ってくる。
「俺は出しゃばるのはよそうって言ったんだけどねぇ……。これも何かの縁かもな。君達が良ければ、手を貸すよ」
次の対戦相手である西武の二人が、泥門の体育祭を偵察がてら観戦しに来ていたのだ。背に腹は代えられない状況に、悟は頭を下げた。
「すみません、助かります」
「タッグを組むのはこれで2回目だね。やれやれ……あの悪魔の怒りを買いそうだ」
テキサスの浜辺、ビーチフット大会に参加した時以来のタッグ。互いに「神速」の冠を有し、速射に長けるキッドと超反応を有する悟の相性は抜群だった。
キッドは白組陣営の方を窺いながら、苦笑交じりに悟の隣に並んだ。
お互いの足を紐で結び、スタートラインに立つ。
パンッ!という号砲とともに、二人は一斉に飛び出した。
悟はキッドの予備動作や足の踏み出しに対して、持ち前の「神速のインパルス」で驚異的な反応を見せ、寸分の狂いもなく息を合わせた。
「なんだか、気味が悪いほど走りやすいね……」
驚くキッドに、悟は並走しながら微笑む。まるで長年コンビを組んできたかのようなシンクロ率。二人の走るスピードは、他の二人三脚のペアを圧倒し、またたく間にトップへと躍り出た。
そして――キッドの予想も、最悪の形で的中していた。
白組テントの特等席から、その様子を不満げに、ヒル魔がじっと凝視していた。
十文字と親しげに笑い合っていたことすら面白くなかったというのに、今度は次の対戦相手のクォーターバックと、まるで一つの生き物のように息を合わせて走っている。
この二人三脚という競技においては、悟は隣が誰であろうと、自身の身体能力の範囲内であれば寸分違わず合わせる事ができるだろう。キッド「だから」あのシンクロ率という訳ではない。
そう理解はしていても、彼の脳裏にはビーチフットでの2人の活躍が焼き付いている。それは、自身以外の男の手によってその能力を存分に発揮する彼女の姿。
アメリカ合宿初日、キッドのパスを追い、白浜をしなやかに駆ける彼女を見て感じた、あの不快な焦燥感が再びヒル魔を襲っていた。
『――さあ、本日の体育祭もいよいよ佳境! 騎馬戦の開始です!』
二人三脚が終わり、グラウンドに響き渡るアナウンス。
パイプ椅子からゆっくりと立ち上がったヒル魔の背後には、禍々しく、どす黒い邪悪な妖気が渦巻いていた。
「ケケケ……お遊びはそこまでだ。メインイベントの始まりだぜ」
その姿を見た悟と赤組メンバーの背筋に、ゾクリとした悪寒が走る。
ただの騎馬戦では終わらない。あの悪魔が仕掛ける『真の狙い』とは――。