第三章【秋季大会・地区大会編】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
巨深ポセイドンという強敵を打ち破った泥門デビルバッツ。
試合後の部室は、持ち込んだジュースやスナック菓子が散乱し、勝利の美酒ならぬ炭酸飲料に酔いしれる部員たちのお祭り騒ぎとなっていた。
「いやー! 『鳥の叉骨 』で走 プレーを印象付けてからの悟のキャッチ! 悔しいくらいにかっこよかったぜ!」
興奮冷めやらぬ様子で、モン太がコーラの入った紙コップを片手に熱弁を振るう。その言葉に、セナがふと素朴な疑問をこぼした。
「そういえばあの時、何故レシーバーを、モン太じゃなく悟に?」
「あァ?あの場面で糞サルがボール無視して上がればパスの線バレバレだろうが」
ヒル魔が呆れたように解答を吐き捨てる。元よりレシーバーのモン太ではなく、今大会で一度もパスを受けていない悟だからこそ成立した奇策だったのだ。
「ハハ……」
事実とはいえ容赦のないヒル魔の言い草に、悟はただ苦笑いを浮かべるしかなかった。
部室の喧騒がピークに達する中、ふいに隣に座っていたヒル魔が、悟の方へとわずかに身を寄せた。
周囲の騒ぎにかき消されるような、低く掠れた声。
「……抜け出しちまうか? ケケッ」
耳元に吹きかかった熱い吐息と、悪魔の甘い誘い。悟の肩がビクッと跳ねる。
「駄目ですよ……、せっかくの皆での打ち上げなのに……」
たしなめるように小声で返すが、耳元で囁かれたその距離感に、悟の顔は瞬く間に熱を持って赤く染まっていく。
そんな二人の、明らかに周囲から浮き上がったただならぬ空気に、少し離れた場所にいたまもりが気づいた。彼女はクスリと微笑むと、「仕方がないわね」とでも言いたげな表情を浮かべ、席を立ち悟の後ろに立つと、悟の肩に手を置いた。
「あら、悟ちゃん。顔が赤いわよ?……疲れてるのね、先に上がったらどう?」
「まもりさん……!?」
驚いて振り返る悟に対し、まもりは、パチンと可愛らしくウィンクをしてみせた。
いらない気を回すまもりに、悟の顔がさらに赤みを増す。
「だとよ、マモリセンパイの気遣いを無下にしちゃいけねぇ、ケケケ」
ヒル魔はニヤリと笑みを浮かべ、まもりの好意に堂々と乗っかる。有無を言わさぬ手つきで悟の背中を押し、二人はそそくさと部室を後にした。
部室の扉が閉まると、先程までの喧騒が嘘のように静まり返る。直後、ヒル魔が待ってましたとばかりに、スッと悟の右手を握りしめた。その強引で迷いのない指の絡め方に、悟は目を丸くして彼を見上げる。
「……いつになく積極的ですね」
悟へ向けられたのは、普段の悪魔のような傲岸不遜な顔ではなく――彼らしくもない、どこか子供じみたイタズラっぽい笑みだった。
「今日はテメーを甘やかすって決めてんだ、観念しやがれ」
そのストレートな宣言に、悟の胸の奥が甘く締め付けられる。繋がれた手から伝わる熱に身を委ね、二人は夜の闇へと静かに消えていった。
一方、二人が去ったあとも変わらず騒がしい部室内。
その喧騒から少し距離を置いた壁際のソファ席では、僅かに重い空気が漂っていた。
十文字が悟に想いを寄せていることを知る黒木と戸叶が、居ても立ってもいられない様子で、黙って紙コップを見つめる十文字へ問いかける。
「……悟、ヒル魔と行っちまったぞ。十文字ィ、このまま指くわえて見てるつもりなのかよ」
黒木の焦りの混じる声に、十文字は視線を落としたまま、自らに言い聞かせるように静かに口を開いた。
「……今は、アイツが笑ってるならそれでいい。俺の想いなんて二の次で良いんだよ」
「告 わねぇまま、終わらせんのか?」
戸叶が鋭く突っ込む。だが、返ってきたのは予期せぬ言葉だった。
「……デスマーチ中に気持ちはバレちまってんだ」
「はぁ? マジかよ? 聞いてねぇけど」
「……いちいち言うかよ」
驚いて身を乗り出す黒木を制し、十文字はゆっくりと息を吐き出した。
「悟はなんて応えたんだ?」
戸叶の問いかけに、十文字の脳裏にあの月明かりの下での記憶が鮮明に蘇る。
デス・マーチの夜、ふと溢れ出してしまった自分自身の悟への想い。それを聞いた時、彼女が見せたのは、困惑と――切なげで苦しそうな表情だった。
「……辛そうな顔させちまった。その後に続く言葉を聞くのが辛くて、俺がアイツの言葉を遮った」
自分がこれ以上踏み込めば、彼女を苦しめるだけだと思った。彼女の口からはっきりと「ごめんなさい」という拒絶を聞くのが恐ろしかった事も事実だ。
だから十文字は、あの日、自らその先を断ち切ったのだ。
日を経るごとに、悟がヒル魔へ向ける眼差しに宿る熱が、どんどん強くなっているのを誰よりも近くで感じている。彼女の心がどこにあるのか、もう痛いほど分かっているのに、どうしてもこの燻る想いを捨て去ることができない。
「……俺もどう落とし前つければいいのかわかんねぇんだ」
自嘲気味に笑う十文字。
黒木と戸叶が、かける言葉を失い黙り込む。勝利の歓喜に包まれる部室の片隅で、十文字はほろ苦い青春の痛みに耐え続けていた。
試合後の部室は、持ち込んだジュースやスナック菓子が散乱し、勝利の美酒ならぬ炭酸飲料に酔いしれる部員たちのお祭り騒ぎとなっていた。
「いやー! 『
興奮冷めやらぬ様子で、モン太がコーラの入った紙コップを片手に熱弁を振るう。その言葉に、セナがふと素朴な疑問をこぼした。
「そういえばあの時、何故レシーバーを、モン太じゃなく悟に?」
「あァ?あの場面で糞サルがボール無視して上がればパスの線バレバレだろうが」
ヒル魔が呆れたように解答を吐き捨てる。元よりレシーバーのモン太ではなく、今大会で一度もパスを受けていない悟だからこそ成立した奇策だったのだ。
「ハハ……」
事実とはいえ容赦のないヒル魔の言い草に、悟はただ苦笑いを浮かべるしかなかった。
部室の喧騒がピークに達する中、ふいに隣に座っていたヒル魔が、悟の方へとわずかに身を寄せた。
周囲の騒ぎにかき消されるような、低く掠れた声。
「……抜け出しちまうか? ケケッ」
耳元に吹きかかった熱い吐息と、悪魔の甘い誘い。悟の肩がビクッと跳ねる。
「駄目ですよ……、せっかくの皆での打ち上げなのに……」
たしなめるように小声で返すが、耳元で囁かれたその距離感に、悟の顔は瞬く間に熱を持って赤く染まっていく。
そんな二人の、明らかに周囲から浮き上がったただならぬ空気に、少し離れた場所にいたまもりが気づいた。彼女はクスリと微笑むと、「仕方がないわね」とでも言いたげな表情を浮かべ、席を立ち悟の後ろに立つと、悟の肩に手を置いた。
「あら、悟ちゃん。顔が赤いわよ?……疲れてるのね、先に上がったらどう?」
「まもりさん……!?」
驚いて振り返る悟に対し、まもりは、パチンと可愛らしくウィンクをしてみせた。
いらない気を回すまもりに、悟の顔がさらに赤みを増す。
「だとよ、マモリセンパイの気遣いを無下にしちゃいけねぇ、ケケケ」
ヒル魔はニヤリと笑みを浮かべ、まもりの好意に堂々と乗っかる。有無を言わさぬ手つきで悟の背中を押し、二人はそそくさと部室を後にした。
部室の扉が閉まると、先程までの喧騒が嘘のように静まり返る。直後、ヒル魔が待ってましたとばかりに、スッと悟の右手を握りしめた。その強引で迷いのない指の絡め方に、悟は目を丸くして彼を見上げる。
「……いつになく積極的ですね」
悟へ向けられたのは、普段の悪魔のような傲岸不遜な顔ではなく――彼らしくもない、どこか子供じみたイタズラっぽい笑みだった。
「今日はテメーを甘やかすって決めてんだ、観念しやがれ」
そのストレートな宣言に、悟の胸の奥が甘く締め付けられる。繋がれた手から伝わる熱に身を委ね、二人は夜の闇へと静かに消えていった。
一方、二人が去ったあとも変わらず騒がしい部室内。
その喧騒から少し距離を置いた壁際のソファ席では、僅かに重い空気が漂っていた。
十文字が悟に想いを寄せていることを知る黒木と戸叶が、居ても立ってもいられない様子で、黙って紙コップを見つめる十文字へ問いかける。
「……悟、ヒル魔と行っちまったぞ。十文字ィ、このまま指くわえて見てるつもりなのかよ」
黒木の焦りの混じる声に、十文字は視線を落としたまま、自らに言い聞かせるように静かに口を開いた。
「……今は、アイツが笑ってるならそれでいい。俺の想いなんて二の次で良いんだよ」
「
戸叶が鋭く突っ込む。だが、返ってきたのは予期せぬ言葉だった。
「……デスマーチ中に気持ちはバレちまってんだ」
「はぁ? マジかよ? 聞いてねぇけど」
「……いちいち言うかよ」
驚いて身を乗り出す黒木を制し、十文字はゆっくりと息を吐き出した。
「悟はなんて応えたんだ?」
戸叶の問いかけに、十文字の脳裏にあの月明かりの下での記憶が鮮明に蘇る。
デス・マーチの夜、ふと溢れ出してしまった自分自身の悟への想い。それを聞いた時、彼女が見せたのは、困惑と――切なげで苦しそうな表情だった。
「……辛そうな顔させちまった。その後に続く言葉を聞くのが辛くて、俺がアイツの言葉を遮った」
自分がこれ以上踏み込めば、彼女を苦しめるだけだと思った。彼女の口からはっきりと「ごめんなさい」という拒絶を聞くのが恐ろしかった事も事実だ。
だから十文字は、あの日、自らその先を断ち切ったのだ。
日を経るごとに、悟がヒル魔へ向ける眼差しに宿る熱が、どんどん強くなっているのを誰よりも近くで感じている。彼女の心がどこにあるのか、もう痛いほど分かっているのに、どうしてもこの燻る想いを捨て去ることができない。
「……俺もどう落とし前つければいいのかわかんねぇんだ」
自嘲気味に笑う十文字。
黒木と戸叶が、かける言葉を失い黙り込む。勝利の歓喜に包まれる部室の片隅で、十文字はほろ苦い青春の痛みに耐え続けていた。