第三章【秋季大会・地区大会編】
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試合時間、残り――2秒。
タッチダウンまで、その距離わずか30センチ。
フィールドの芝に倒れ込んだまま、悟は肺にあるすべての空気を吐き出すように息を一つ吐き、立ち上がった。身を呈して盾とした代償に、全身がきしむような痛みを訴えていたが、その瞳にある闘志は微塵も衰えていない。
「首の皮一枚……とはいえ十二分です。まだ勝てる望みは消えてない」
悟の言葉に、最後の一手に思考を巡らせるヒル魔が、視線を鋭くした。
「『デビルバッドダイブ』の一手しかねェが……。巨深もそう予測して間違いなくデカいメンバーフルで揃えてくる。あの長身相手に空中戦で押し切るには決め手が足りねぇ」
『デビルバッドダイブ』――ラインが密集しているその頭上を、文字通り砲弾のように飛び越えて突っ込む技だ。タッチダウンまでのわずかな距離をもぎ取るための最終手段。だが、目の前にそびえ立つ巨深ポセイドンの絶対的な高さの壁を前にしては、叩き落とされる可能性が高すぎる。
けれど、悟の脳内にはすでに、その壁を穿つための一つの作戦が浮かんでいた。
「砲弾の弾数を増やしましょう」
悟は覚悟を決め、ヒル魔を真っ直ぐに見つめた。
「私がセナと一緒に飛びます。一発で壁が破れないなら、もう一発、撃ち込めばいい」
「ええっ!?」
隣でセナが驚愕の声をあげる。しかし、ヒル魔は厳しい表情を崩さない。
「……2発の人間砲弾か。悪くねェ……が」
一瞬、ヒル魔の言葉が途切れた。
無防備な空中姿勢。空中に飛び出して突っ込めば、相手の猛烈なタックルをまともに受けることになる。空中での接触は、着地の衝撃も含め、深刻な怪我に繋がる危険がある。
「……飛ぶことのリスク、理解 ってんのか」
ほんの僅かに、ヒル魔の声に悟の身体を案じるような響きが混じった。いつもなら合理性と勝利だけを追求するヒル魔の、微かな揺らぎ。
「……はい」
悟は迷わずに頷く。
「ぶっつけ本番だぞ。全速力で、微塵のためらいもなくあの殺気だった野郎どもに突っ込めんのか。悟、テメーが少しでもビビればこの作戦は成り立たねぇ」
「……わかってます」
悟は少しだけ口元を緩めた。
「ヒル魔さんらしくないです。いつもみたいに、命じてください。――ヒル魔さんの思う勝ち筋を追ってください。私は、それに乗るって決めてますから」
彼女の覚悟と、何が何でも勝つという執念を、ヒル魔は真っ向から受け止めた。その瞳に、いつもの、いや、それ以上の凶悪な光が戻る。
「泥門に雑魚はいねェ。その中でもテメーは俺の『とっておきのカード』だ、手札から離れる事は許さねェ!!」
怪我なく無事に帰ってこい、なんて甘い言葉は言わない。それが、ヒル魔なりの不器用なエール。
「糞チビ、糞悟!……テメーら二人で仲良く『デビルバッドダイブ』だ!!」
「「はい!!」」
セナと悟の声が重なる。
正真正銘、これがラストプレイ。目の前に並ぶ巨深の大型選手たちが放つ圧倒的なプレッシャーをものともせず、泥門デビルバッツの士気は最高潮に達していた。
「SET!HUT!HUT!――」
ヒル魔のハットコールが響き渡る。敵を限界まで焦らすたの、執拗なまでのコール。
悟はそっと目をつむり、ゆっくりと呼吸をした。心臓の鼓動が耳の奥で激しく鳴っている。恐怖はなかった。ただ、勝利だけを見つめるために、ゆっくりとその瞼を持ち上げた。
「――HUT!HUT!!」
10回目のコール。その瞬間、世界が爆発したように動き出す。
ボールをその胸に抱いたセナが、地を蹴り、その身を空中へと投げ出した。
巨深の水町が、その圧倒的な長身を生かしてセナをはたき落とそうと、長い腕を伸ばす。その手がセナに触れ、彼が勝利を確信したその瞬間――。
セナのすぐ後ろから、影に隠れるようにして跳躍した悟が、空中へと飛び込んでいた。
「!!ふ、たりで、突っ込んで…!?」
水町の目が驚愕に見開かれる。
悟は迫り来る衝撃を恐れることなく、空中で自分の身体ごと、セナの背中を前方へと強く押し込んだ。一発の砲弾が防がれるなら、二発目の推進力でその壁をぶち破る。
巨深の巨大な壁と激突し、凄まじい衝撃が全身を走る。そのままもつれ合うようにして、地面へと激しく叩きつけられた。
視界が一瞬白むほどの衝撃に耐えながら、悟はその顔を必死に上げる。
「ボールは……!?」
一瞬の静寂。
そして、スタジアムにホイッスルが鳴り響いた。
審判『タッチダウンーーー!!!』
その声に、歓声の渦を起こしたスタジアムが激しく揺れる。
「勝った……!!!勝ったんだ……!」
その瞬間、悟の中で張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れた。
視界が急激に滲み、堪えきれずに一筋の涙が頬を伝う。痛みのことも忘れ、胸の奥から突き上げるような喜びに身体を震わせた。
「悟!!」
目の前に、笑顔で手を差し伸べるセナの姿があった。共に宙を舞い、勝利を掴んだ戦友。
悟はその手をしっかりと掴み、立ち上がる。
直後、モン太が、十文字たちが、栗田や小結が、泥門の全員が、地響きのような歓声をあげながら狂喜乱舞して二人の元へと走ってきた。
「かっこよかったぜコンチクショー!!!」
「お前ら最高だ!!」
もみくちゃにされ、手荒い祝福を受けながら、悟はそっとヒル魔の方を見やる。
「YA――HA――!!」
ヒル魔もまた、歓喜の中、勝利の咆哮をあげている。悟はその様子に満足げに笑うと、呼応せんと大きく息を吸い、改めて決意を叫ぶ。
「絶対、クリスマスボウル!!YA―HA―!!」
電光掲示板の文字が、彼らの勝利を静かに、そして確かに告げている。
【泥門 18 - 17 巨深】
死闘の終わりを告げる数字を眺めながら、泥門デビルバッツの面々はいつまでも、鳴り止まない歓声の余韻に浸っていた。
タッチダウンまで、その距離わずか30センチ。
フィールドの芝に倒れ込んだまま、悟は肺にあるすべての空気を吐き出すように息を一つ吐き、立ち上がった。身を呈して盾とした代償に、全身がきしむような痛みを訴えていたが、その瞳にある闘志は微塵も衰えていない。
「首の皮一枚……とはいえ十二分です。まだ勝てる望みは消えてない」
悟の言葉に、最後の一手に思考を巡らせるヒル魔が、視線を鋭くした。
「『デビルバッドダイブ』の一手しかねェが……。巨深もそう予測して間違いなくデカいメンバーフルで揃えてくる。あの長身相手に空中戦で押し切るには決め手が足りねぇ」
『デビルバッドダイブ』――ラインが密集しているその頭上を、文字通り砲弾のように飛び越えて突っ込む技だ。タッチダウンまでのわずかな距離をもぎ取るための最終手段。だが、目の前にそびえ立つ巨深ポセイドンの絶対的な高さの壁を前にしては、叩き落とされる可能性が高すぎる。
けれど、悟の脳内にはすでに、その壁を穿つための一つの作戦が浮かんでいた。
「砲弾の弾数を増やしましょう」
悟は覚悟を決め、ヒル魔を真っ直ぐに見つめた。
「私がセナと一緒に飛びます。一発で壁が破れないなら、もう一発、撃ち込めばいい」
「ええっ!?」
隣でセナが驚愕の声をあげる。しかし、ヒル魔は厳しい表情を崩さない。
「……2発の人間砲弾か。悪くねェ……が」
一瞬、ヒル魔の言葉が途切れた。
無防備な空中姿勢。空中に飛び出して突っ込めば、相手の猛烈なタックルをまともに受けることになる。空中での接触は、着地の衝撃も含め、深刻な怪我に繋がる危険がある。
「……飛ぶことのリスク、
ほんの僅かに、ヒル魔の声に悟の身体を案じるような響きが混じった。いつもなら合理性と勝利だけを追求するヒル魔の、微かな揺らぎ。
「……はい」
悟は迷わずに頷く。
「ぶっつけ本番だぞ。全速力で、微塵のためらいもなくあの殺気だった野郎どもに突っ込めんのか。悟、テメーが少しでもビビればこの作戦は成り立たねぇ」
「……わかってます」
悟は少しだけ口元を緩めた。
「ヒル魔さんらしくないです。いつもみたいに、命じてください。――ヒル魔さんの思う勝ち筋を追ってください。私は、それに乗るって決めてますから」
彼女の覚悟と、何が何でも勝つという執念を、ヒル魔は真っ向から受け止めた。その瞳に、いつもの、いや、それ以上の凶悪な光が戻る。
「泥門に雑魚はいねェ。その中でもテメーは俺の『とっておきのカード』だ、手札から離れる事は許さねェ!!」
怪我なく無事に帰ってこい、なんて甘い言葉は言わない。それが、ヒル魔なりの不器用なエール。
「糞チビ、糞悟!……テメーら二人で仲良く『デビルバッドダイブ』だ!!」
「「はい!!」」
セナと悟の声が重なる。
正真正銘、これがラストプレイ。目の前に並ぶ巨深の大型選手たちが放つ圧倒的なプレッシャーをものともせず、泥門デビルバッツの士気は最高潮に達していた。
「SET!HUT!HUT!――」
ヒル魔のハットコールが響き渡る。敵を限界まで焦らすたの、執拗なまでのコール。
悟はそっと目をつむり、ゆっくりと呼吸をした。心臓の鼓動が耳の奥で激しく鳴っている。恐怖はなかった。ただ、勝利だけを見つめるために、ゆっくりとその瞼を持ち上げた。
「――HUT!HUT!!」
10回目のコール。その瞬間、世界が爆発したように動き出す。
ボールをその胸に抱いたセナが、地を蹴り、その身を空中へと投げ出した。
巨深の水町が、その圧倒的な長身を生かしてセナをはたき落とそうと、長い腕を伸ばす。その手がセナに触れ、彼が勝利を確信したその瞬間――。
セナのすぐ後ろから、影に隠れるようにして跳躍した悟が、空中へと飛び込んでいた。
「!!ふ、たりで、突っ込んで…!?」
水町の目が驚愕に見開かれる。
悟は迫り来る衝撃を恐れることなく、空中で自分の身体ごと、セナの背中を前方へと強く押し込んだ。一発の砲弾が防がれるなら、二発目の推進力でその壁をぶち破る。
巨深の巨大な壁と激突し、凄まじい衝撃が全身を走る。そのままもつれ合うようにして、地面へと激しく叩きつけられた。
視界が一瞬白むほどの衝撃に耐えながら、悟はその顔を必死に上げる。
「ボールは……!?」
一瞬の静寂。
そして、スタジアムにホイッスルが鳴り響いた。
審判『タッチダウンーーー!!!』
その声に、歓声の渦を起こしたスタジアムが激しく揺れる。
「勝った……!!!勝ったんだ……!」
その瞬間、悟の中で張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れた。
視界が急激に滲み、堪えきれずに一筋の涙が頬を伝う。痛みのことも忘れ、胸の奥から突き上げるような喜びに身体を震わせた。
「悟!!」
目の前に、笑顔で手を差し伸べるセナの姿があった。共に宙を舞い、勝利を掴んだ戦友。
悟はその手をしっかりと掴み、立ち上がる。
直後、モン太が、十文字たちが、栗田や小結が、泥門の全員が、地響きのような歓声をあげながら狂喜乱舞して二人の元へと走ってきた。
「かっこよかったぜコンチクショー!!!」
「お前ら最高だ!!」
もみくちゃにされ、手荒い祝福を受けながら、悟はそっとヒル魔の方を見やる。
「YA――HA――!!」
ヒル魔もまた、歓喜の中、勝利の咆哮をあげている。悟はその様子に満足げに笑うと、呼応せんと大きく息を吸い、改めて決意を叫ぶ。
「絶対、クリスマスボウル!!YA―HA―!!」
電光掲示板の文字が、彼らの勝利を静かに、そして確かに告げている。
【泥門 18 - 17 巨深】
死闘の終わりを告げる数字を眺めながら、泥門デビルバッツの面々はいつまでも、鳴り止まない歓声の余韻に浸っていた。