第三章【秋季大会・地区大会編】
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「水町くんが……ラインにいない……」
悟がフィールドを見渡し、息を呑んだ。
巨深ポセイドンが土壇場で敷いてきた最終布陣。それは、巨深の誇る長身ラインバッカー陣に、さらに水町を加えた超高層フォーメーション「ポセイドン」だった。
高さを活かした圧倒的な面での守備により、泥門のパスは完全に封じられ、大外からのランプレーも完全に塞がれてしまう。
唯一の死角は、水町が抜けたことで生じたラインの薄さ。だが、そこへ中央突破を仕掛けても、セナや悟の小柄な体格では、巨深の巨兵たちが放つ純粋な「質量」に阻まれ、わずかな前進しか得られない。
「ここにきて、また『体格』なの……!」
悟は乱れる息を整えながら、悔しげに唇を噛み締めた。
どれだけ知識を積み上げ、相手の死角を突く予測を立てても、最後には覆しようのないフィジカルの壁が立ちはだかる。高い波に押し流されるように、泥門はジリジリと自陣深くへと押し込まれていった。
そして、無情にも「ポセイドン」による力押しと、巨深のクォーターバック小判鮫の好プレーが噛み合い、巨深にタッチダウンを許してしまう。
スコアボードが反転する。
【泥門 12 - 17 巨深】
この時点での残り時間は、わずか18秒。巨深は完全に逃げ切り態勢に入った。
絶望的な空気が泥門ベンチを覆いかける中、緊迫したハドルの中心で、ヒル魔が隣の悟へ静かに問いかけた。
「今、一番勝率の高ぇ作戦は何だと思う」
悟は顔を上げ、コンマ数秒で頭の中のデータを弾き出した。この土壇場、小細工が通用する相手ではない。導き出される答えは、ただ一つ。
「……セナが筧くんに勝つこと。筧くんはサシでセナを止めることに固執しています。セナにチームを背負わせてしまうけど……」
そこで言葉を区切ると、悟は真っ直ぐにセナを見つめた。
「泥門にとってのエース……、最強のカードは……アイシールド21だから」
悟の迷いのない言葉に、セナがハッと目を見開く。
「アイシールドがボールを持てば、必ず筧がタイマン張りに来る……筧を抜けんのか、抜けねぇのか」
ヒル魔の鋭い声が、セナの覚悟をさらに引き上げるように突き刺さる。
「エースの役目は死んでも『勝つ事』だぜ、セナ」
悟とヒル魔に続き、モン太もいつになく真剣な表情でセナを鼓舞した。
仲間たちの絶対的な信頼を受け、アイシールドの奥でセナの瞳に強い闘志が宿る。
「……筧くんを抜くよ、必ず!」
会場中が固唾を飲んで見守る中、運命のハットコールが響き渡る。
「SET!HUT!!」
ボールがヒル魔からセナへとハンドオフされた。
実況『やはり最後はエース、アイシールドに命運を託したー!!』
「私とモン太くんがリードブロックに入ります!」
「おうよ! セナと筧がぶつかるまで、邪魔立てはさせねー! 行くぞ悟!」
セナの道を切り拓くため、悟とモン太が弾かれたように前線へ飛び出す。
悟は一切の恐怖を捨て、立ちはだかる巨深のラインマンへ真っ向から激突した。
ドンッ!という鈍い衝撃。あまりの体格差に、悟の身体はあっという間に押し負け、浮き上がりそうになる。歯を食いしばり、必死に足を踏ん張る。
(私じゃ全然時間作ってあげられないけど……! この一瞬でも、セナの脚なら駆け抜けられる!)
悟とモン太が命懸けで削り出した、わずかばかりの道。
その道を光の速さで駆け抜け、セナはついに巨深のエース・筧と相対した。セナは直前の悟の言葉を反芻していた。
(…僕が、エース。最強のカード。いつも皆を見ている悟がああ言ってくれたんだ。悟が……泥門の皆が信じてくれたように、僕も僕自身を信じる!)
セナが、迷いを完全に振り払った。
「皆でクリスマスボウルに行くんだ!!」
セナが踏み込み、必殺の『デビルバットゴースト』を発動させる。だが、筧の広いリーチがセナを捕らえにかかる。
筧の手がセナに触れたその瞬間、セナは土壇場でゴーストのステップに、その場で回転を加えるテクニック「スピン」を組み合わせた。
筧の長い腕を間一髪ですり抜け、見事に置き去りにしてみせる。
「セナ……!!!!」
フィールドに倒れ込んだまま、悟は歓喜に彼の名を呼んだ。
誰もが泥門の逆転勝利を確信した。セナがエンドゾーンへとひた走る。
しかし――巨深もまた、死に物狂いだった。
「おおおおおおお!!!」
執念をその身に宿し、後方から恐るべき気迫で飛び込んできた水町が、宙を飛ぶようにしてセナの足元へ喰らいついたのだ。
ガシッ、とセナの足がホールドされ、勢いのままフィールドへ激しく引き倒される。
ボールを持つセナの腕が、エンドゾーンの白線へ向けて必死に伸ばされるが――届かない。
セナが倒れたのは、エンドゾーンまで残りわずか「30センチ」手前だった。
無情にも、時計の針は止まらない。残り数秒が容赦なく削られていく。
「時計を、止めないと――!!」
悟が血の気を失い、悲鳴のように叫んだその瞬間。
「タイムアウトォォォ!!」
ヒル魔の鼓膜を破らんばかりの怒号が、フィールドに轟いた。
「水町くんが……ラインにいない……」
悟がフィールドを見渡し、息を呑んだ。
巨深ポセイドンが土壇場で敷いてきた最終布陣。それは、巨深の誇る長身ラインバッカー陣に、さらに水町を加えた超高層フォーメーション「ポセイドン」だった。
高さを活かした圧倒的な面での守備により、泥門のパスは完全に封じられ、大外からのランプレーも完全に塞がれてしまう。
唯一の死角は、水町が抜けたことで生じたラインの薄さ。だが、そこへ中央突破を仕掛けても、セナや悟の小柄な体格では、巨深の巨兵たちが放つ純粋な「質量」に阻まれ、わずかな前進しか得られない。
「ここにきて、また『体格』なの……!」
悟は乱れる息を整えながら、悔しげに唇を噛み締めた。
どれだけ知識を積み上げ、相手の死角を突く予測を立てても、最後には覆しようのないフィジカルの壁が立ちはだかる。高い波に押し流されるように、泥門はジリジリと自陣深くへと押し込まれていった。
そして、無情にも「ポセイドン」による力押しと、巨深のクォーターバック小判鮫の好プレーが噛み合い、巨深にタッチダウンを許してしまう。
スコアボードが反転する。
【泥門 12 - 17 巨深】
この時点での残り時間は、わずか18秒。巨深は完全に逃げ切り態勢に入った。
絶望的な空気が泥門ベンチを覆いかける中、緊迫したハドルの中心で、ヒル魔が隣の悟へ静かに問いかけた。
「今、一番勝率の高ぇ作戦は何だと思う」
悟は顔を上げ、コンマ数秒で頭の中のデータを弾き出した。この土壇場、小細工が通用する相手ではない。導き出される答えは、ただ一つ。
「……セナが筧くんに勝つこと。筧くんはサシでセナを止めることに固執しています。セナにチームを背負わせてしまうけど……」
そこで言葉を区切ると、悟は真っ直ぐにセナを見つめた。
「泥門にとってのエース……、最強のカードは……アイシールド21だから」
悟の迷いのない言葉に、セナがハッと目を見開く。
「アイシールドがボールを持てば、必ず筧がタイマン張りに来る……筧を抜けんのか、抜けねぇのか」
ヒル魔の鋭い声が、セナの覚悟をさらに引き上げるように突き刺さる。
「エースの役目は死んでも『勝つ事』だぜ、セナ」
悟とヒル魔に続き、モン太もいつになく真剣な表情でセナを鼓舞した。
仲間たちの絶対的な信頼を受け、アイシールドの奥でセナの瞳に強い闘志が宿る。
「……筧くんを抜くよ、必ず!」
会場中が固唾を飲んで見守る中、運命のハットコールが響き渡る。
「SET!HUT!!」
ボールがヒル魔からセナへとハンドオフされた。
実況『やはり最後はエース、アイシールドに命運を託したー!!』
「私とモン太くんがリードブロックに入ります!」
「おうよ! セナと筧がぶつかるまで、邪魔立てはさせねー! 行くぞ悟!」
セナの道を切り拓くため、悟とモン太が弾かれたように前線へ飛び出す。
悟は一切の恐怖を捨て、立ちはだかる巨深のラインマンへ真っ向から激突した。
ドンッ!という鈍い衝撃。あまりの体格差に、悟の身体はあっという間に押し負け、浮き上がりそうになる。歯を食いしばり、必死に足を踏ん張る。
(私じゃ全然時間作ってあげられないけど……! この一瞬でも、セナの脚なら駆け抜けられる!)
悟とモン太が命懸けで削り出した、わずかばかりの道。
その道を光の速さで駆け抜け、セナはついに巨深のエース・筧と相対した。セナは直前の悟の言葉を反芻していた。
(…僕が、エース。最強のカード。いつも皆を見ている悟がああ言ってくれたんだ。悟が……泥門の皆が信じてくれたように、僕も僕自身を信じる!)
セナが、迷いを完全に振り払った。
「皆でクリスマスボウルに行くんだ!!」
セナが踏み込み、必殺の『デビルバットゴースト』を発動させる。だが、筧の広いリーチがセナを捕らえにかかる。
筧の手がセナに触れたその瞬間、セナは土壇場でゴーストのステップに、その場で回転を加えるテクニック「スピン」を組み合わせた。
筧の長い腕を間一髪ですり抜け、見事に置き去りにしてみせる。
「セナ……!!!!」
フィールドに倒れ込んだまま、悟は歓喜に彼の名を呼んだ。
誰もが泥門の逆転勝利を確信した。セナがエンドゾーンへとひた走る。
しかし――巨深もまた、死に物狂いだった。
「おおおおおおお!!!」
執念をその身に宿し、後方から恐るべき気迫で飛び込んできた水町が、宙を飛ぶようにしてセナの足元へ喰らいついたのだ。
ガシッ、とセナの足がホールドされ、勢いのままフィールドへ激しく引き倒される。
ボールを持つセナの腕が、エンドゾーンの白線へ向けて必死に伸ばされるが――届かない。
セナが倒れたのは、エンドゾーンまで残りわずか「30センチ」手前だった。
無情にも、時計の針は止まらない。残り数秒が容赦なく削られていく。
「時計を、止めないと――!!」
悟が血の気を失い、悲鳴のように叫んだその瞬間。
「タイムアウトォォォ!!」
ヒル魔の鼓膜を破らんばかりの怒号が、フィールドに轟いた。