第三章【秋季大会・地区大会編】
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「鳥の叉骨 」による泥門の快進撃は、長くは続かなかった。
巨深ポセイドンはすぐに対応策を講じてきた。セナ、悟、ヒル魔の3パターンの走に対し、あえてセナへのマークを薄くするという賭けに出たのだ。それは、巨深のエースラインバッカー・筧がセナとの一対一の勝負に持ち込むための布陣。
「一対一なら……!!」
セナは必殺の走法「デビルバットゴースト」を繰り出すも、筧の長身を活かした広いリーチの前に捕まり、無情にもフィールドに沈められてしまう。
さらには巨深のフィールドゴールが決まり、点差はさらに広がった。
スコアボードの数字が動く。
【泥門 6 - 10 巨深】
「『鳥の叉骨』の弱点をもろに突かれてますね……。モン太くんを走プレーに組み込んだ分、パスが薄くなるから……」
息を乱しながら、悟は冷静に戦況を分析する。本来のレシーバーであるモン太がバックフィールドにいる以上、ロングパスの脅威はないと巨深は完全に割り切っているのだ。
「チッ! それがわかってっから、走 止めにガンガン突っ込んできやがる」
悪態をついていたヒル魔の視線が、ふと泥門ベンチへと向けられ、怪訝な表情を浮かべた。
「あァ………?」
ベンチでは、マネージャーのまもりがこちらに向かって何やら奇妙な動きをしている。両手を大きく振ったり、クロスさせたりと、明らかに何かのアピールだ。
「何やってんだ、糞マネ」
「ハンドサイン……ですかね。何か伝えようとしてるんでしょうか」
「ンなもん、わかるわけ……」
鬱陶しそうに吐き捨てようとしたヒル魔だったが、ふいにハッとした表情を浮かべた後、悪魔のようにニヤリと口角を吊り上げた。
「ケケケ!おう、次もまた『鳥の叉骨』でいくぞ。悟、テメーはとにかく最短最速で前に出ろ。但しテメーのブロックも走も使わねェ。この意味わかっか?」
「とにかく前に……、ボールを持たずに、ですか」
走主体のフォーメーションである「鳥の叉骨」。その中で、ブロックもせず、ボールを持って走るわけでもない。
悟が思考を巡らせた時間は、僅かコンマ数秒だった。
「……!! 了解です!」
ヒル魔の言わんとしていることを完全に理解した悟の瞳に、力強い光が宿った。
ヒル魔が悟に求める選手像。それは、走だけでなく、レシーブ能力にも長けたランニングバック――「レシービングランニングバック」。
再びフィールドに敷かれた「鳥の叉骨」の陣形。
「馬鹿の一つ覚えみてぇに同じプレーかよ!」
水町が吠え、巨深のライン陣が走プレーを潰すべく猛烈なラッシュを仕掛けてくる。
だがその瞬間、悟はボールを受け取る素振りすら見せず、巨深のディフェンスから身を翻しながら一気に前線へと駆け進んだ。ただひたすらに、前へ。
筧が、ボールを無視してフィールドを駆け上がる悟の存在に気が付く。だが、時すでに遅し。悟は既にボールを受け取る態勢に移っていた。
「……!! アイシールドは罠だ!」
筧の悲痛な叫びが響く。同時に、ヒル魔の腕から放たれた鋭いパスが、空気を切り裂き悟の元へと一直線に飛んでいく。
見事なキャッチを決めた悟が、そのままディフェンスの追撃をスルリと避け、さらに距離を稼ぐ。
敵陣エンドゾーンまで残り7ヤード。タッチダウンは目前だ。
実況『パス成功〜!! 彼女の武器は走だけじゃないようだ〜!!!』
悟のパスプレーは、この秋季大会において初の試みだった。ヒル魔は「悟へのパス」という手札をあえて隠し持ち、ここぞという最も効果的なタイミングでそのカードを切ったのだ。
セナほどの圧倒的な破壊力の走はなくとも、モン太ほどのキャッチに特化した技術はなくとも。走とパスの両方を水準以上のレベルでこなせる「二刀流」であることこそが、彼女の強み。ディフェンス側は「この選手が走るか、パスを受けるか」を常に予測しなければならなくなるため、泥門の作戦の幅を格段に広げ、相手の守備陣を大きく混乱させることができる。
「ンハッ、キャッチもできんのかよ…!!」
水町が信じられないといった顔で目を見開く。
「クソ…! 彼女の春大会でのポジションはワイドレシーバーだ…!!」
筧は己の見落としを呪い、苦々しく顔を歪めた。
焦る巨深に、泥門の猛攻が襲いかかる。
次のプレー。悟の鮮やかなパスキャッチを見せつけられた巨深ディフェンスの意識は、どうしても「パス」への警戒へと引っ張られてしまう。
「だめだ、意識がパスに行っちまってる! 止まらねぇ…!!」
筧が焦燥の声を上げる中、今度は巨深の虚を突くように、セナの走プレーが炸裂した。
巨深の選手たちが反応しきれないまま、セナがエンドゾーンへと駆け込む。
『ピーッ!!』
得点を告げるホイッスルが、秋晴れのフィールドに高らかに響き渡る。
試合時間、残り7分。
【泥門 12 - 10 巨深】
背水の陣から放たれた一筋のパスが、ついに試合をひっくり返した。
巨深ポセイドンはすぐに対応策を講じてきた。セナ、悟、ヒル魔の3パターンの走に対し、あえてセナへのマークを薄くするという賭けに出たのだ。それは、巨深のエースラインバッカー・筧がセナとの一対一の勝負に持ち込むための布陣。
「一対一なら……!!」
セナは必殺の走法「デビルバットゴースト」を繰り出すも、筧の長身を活かした広いリーチの前に捕まり、無情にもフィールドに沈められてしまう。
さらには巨深のフィールドゴールが決まり、点差はさらに広がった。
スコアボードの数字が動く。
【泥門 6 - 10 巨深】
「『鳥の叉骨』の弱点をもろに突かれてますね……。モン太くんを走プレーに組み込んだ分、パスが薄くなるから……」
息を乱しながら、悟は冷静に戦況を分析する。本来のレシーバーであるモン太がバックフィールドにいる以上、ロングパスの脅威はないと巨深は完全に割り切っているのだ。
「チッ! それがわかってっから、
悪態をついていたヒル魔の視線が、ふと泥門ベンチへと向けられ、怪訝な表情を浮かべた。
「あァ………?」
ベンチでは、マネージャーのまもりがこちらに向かって何やら奇妙な動きをしている。両手を大きく振ったり、クロスさせたりと、明らかに何かのアピールだ。
「何やってんだ、糞マネ」
「ハンドサイン……ですかね。何か伝えようとしてるんでしょうか」
「ンなもん、わかるわけ……」
鬱陶しそうに吐き捨てようとしたヒル魔だったが、ふいにハッとした表情を浮かべた後、悪魔のようにニヤリと口角を吊り上げた。
「ケケケ!おう、次もまた『鳥の叉骨』でいくぞ。悟、テメーはとにかく最短最速で前に出ろ。但しテメーのブロックも走も使わねェ。この意味わかっか?」
「とにかく前に……、ボールを持たずに、ですか」
走主体のフォーメーションである「鳥の叉骨」。その中で、ブロックもせず、ボールを持って走るわけでもない。
悟が思考を巡らせた時間は、僅かコンマ数秒だった。
「……!! 了解です!」
ヒル魔の言わんとしていることを完全に理解した悟の瞳に、力強い光が宿った。
ヒル魔が悟に求める選手像。それは、走だけでなく、レシーブ能力にも長けたランニングバック――「レシービングランニングバック」。
再びフィールドに敷かれた「鳥の叉骨」の陣形。
「馬鹿の一つ覚えみてぇに同じプレーかよ!」
水町が吠え、巨深のライン陣が走プレーを潰すべく猛烈なラッシュを仕掛けてくる。
だがその瞬間、悟はボールを受け取る素振りすら見せず、巨深のディフェンスから身を翻しながら一気に前線へと駆け進んだ。ただひたすらに、前へ。
筧が、ボールを無視してフィールドを駆け上がる悟の存在に気が付く。だが、時すでに遅し。悟は既にボールを受け取る態勢に移っていた。
「……!! アイシールドは罠だ!」
筧の悲痛な叫びが響く。同時に、ヒル魔の腕から放たれた鋭いパスが、空気を切り裂き悟の元へと一直線に飛んでいく。
見事なキャッチを決めた悟が、そのままディフェンスの追撃をスルリと避け、さらに距離を稼ぐ。
敵陣エンドゾーンまで残り7ヤード。タッチダウンは目前だ。
実況『パス成功〜!! 彼女の武器は走だけじゃないようだ〜!!!』
悟のパスプレーは、この秋季大会において初の試みだった。ヒル魔は「悟へのパス」という手札をあえて隠し持ち、ここぞという最も効果的なタイミングでそのカードを切ったのだ。
セナほどの圧倒的な破壊力の走はなくとも、モン太ほどのキャッチに特化した技術はなくとも。走とパスの両方を水準以上のレベルでこなせる「二刀流」であることこそが、彼女の強み。ディフェンス側は「この選手が走るか、パスを受けるか」を常に予測しなければならなくなるため、泥門の作戦の幅を格段に広げ、相手の守備陣を大きく混乱させることができる。
「ンハッ、キャッチもできんのかよ…!!」
水町が信じられないといった顔で目を見開く。
「クソ…! 彼女の春大会でのポジションはワイドレシーバーだ…!!」
筧は己の見落としを呪い、苦々しく顔を歪めた。
焦る巨深に、泥門の猛攻が襲いかかる。
次のプレー。悟の鮮やかなパスキャッチを見せつけられた巨深ディフェンスの意識は、どうしても「パス」への警戒へと引っ張られてしまう。
「だめだ、意識がパスに行っちまってる! 止まらねぇ…!!」
筧が焦燥の声を上げる中、今度は巨深の虚を突くように、セナの走プレーが炸裂した。
巨深の選手たちが反応しきれないまま、セナがエンドゾーンへと駆け込む。
『ピーッ!!』
得点を告げるホイッスルが、秋晴れのフィールドに高らかに響き渡る。
試合時間、残り7分。
【泥門 12 - 10 巨深】
背水の陣から放たれた一筋のパスが、ついに試合をひっくり返した。