第三章【秋季大会・地区大会編】
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秋晴れの空の下、東京大会準々決勝の幕が切って落とされようとしていた。
試合直前のフィールド。入念にアップをこなす巨深ポセイドンの水町が、泥門デビルバッツの陣営に悟の姿を見つけると、嬉しそうに駆け寄って声をかけた。
「悟っち! ……好きな子だからって手加減はできねーよ? ちゃちゃっと勝たせてもらうけど、嫌いにならないでな!」
いつもの人懐っこい笑顔。しかし、フィールドに立つ悟からは、普段の穏やかで控えめな雰囲気は微塵も感じられなかった。彼女は冷徹な戦士の空気を纏い、「ちゃちゃっと」という水町の言葉にスッと目を細め、不快さを滲ませる。
「……そんな軽口ばかり叩いて、負けてから吠え面かかないようにね」
「お、今日は強気お姉さんモード?」
水町が楽しげに笑うが、悟の思考はすでに勝負の世界へと切り替わっていた。
大会一の高層ディフェンスを誇る巨深ポセイドンに対し、泥門デビルバッツの最大の売りは破壊的な攻撃力。
試合開始直後、いきなりアイシールド21の走が炸裂し、一気に27ヤードもの前進を見せる。
ライン戦、悟の事前情報通り、小結とマッチアップした水町は、余裕綽々といった笑みを浮かべていた。だが、その油断を突くように、電光石火の如く小結がスタートダッシュ――特訓の成果である「立ち合い」を決めた。
実況『おっと小結くん、水町くんを吹っ飛ばした〜!!』
ドンッ!という鈍い音と共に水町の巨体が押し込まれ、巨深のラインに明確な「隙間」が生じる。その一瞬の綻びを見逃さず、ボールを持つ悟がその身体をねじ込み距離を稼ぐ。
対水町の「立ち合い」は通用するかに見えた。しかし、本気になった水町は元競泳選手という経歴からくる圧倒的なスタートダッシュの速さを持ち合わせていた。小結と同等、いやそれ以上の立ち合いを見せ、高身長ラインマンの必殺技「スイム」で小結をことごとく潰しにかかる。
だが、小結も黙ってはいない。水町のスイムに対し、低身長だからこそのテクニック「リップ」と純然たる「力」で応戦。試合は両者一歩も譲らぬ泥沼の持久戦へともつれ込んだ。
それでも、ディフェンスにおいては高さに勝る巨深が上回る。ジリジリと押し込まれた泥門は、先取点を巨深ポセイドンに奪われてしまった。
「小結くんはよく水町くんに食らいついてくれています。……でも、巨深のディフェンスは水町くんだけじゃない」
息を整えながら、悟は冷静にフィールドを見渡す。視線の先には、エース筧を初めとした大型選手たち。彼らが形成する「高波 」と呼ばれる圧倒的な「高さ」が、泥門の攻撃をことごとく阻んでいた。
日々の地道なビデオ研究と、擦り切れるほど読み込んだ戦術書から得た知識を総動員して、悟は打開策を探る。
「鳥になりゃ、高波にものまれねぇ……だろ?」
不意に、ヒル魔がニヤリと不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
その唐突な発言に泥門一同が首を傾げる中、悟の脳裏にはある一つのフォーメーションが浮かび上がった。
「鳥……。『鳥の叉骨 』………?」
「ケケケ、御名答!! さっさと位置 につきやがれ!!」
ヒル魔の鋭い号令のもと、泥門の陣形が大きく形を変える。
悟はクォーターバックであるヒル魔のすぐ後ろに位置取った。さらにその後方には、セナとモン太が並ぶ。本来レシーバーであるモン太までがバックフィールドに入ったその違和感に、巨深に緊張が走った。
「ンハッ、ボール持って走るランナーが3人……?」
水町が訝しげに呟いた直後、フィールドにヒル魔の声が響き渡る。
「SET! HUT、HUT!!」
コールと共にプレーが動く。
ヒル魔が背後の悟にボールをハンドオフする…かのように見せかけ、ボールを自らの懐に隠し持ったまま走り出した。
「ハンドオフフェイク! ボールはヒル魔だ!」
筧の鋭い指示が飛ぶ。同時に、水町が小結の壁を破り、ヒル魔へと猛烈なブリッツを仕掛ける。
だが、突っ込んでくる水町を前にして、ヒル魔はニヤリと笑った。直後、身を捩ったヒル魔が、ボールをサイドのセナへとピッチした。
ヒル魔はそのまま身体を投げ出し、水町をブロック。
実況『ボール持って突っ込むと見せかけて、ヒル魔くんが水町くんを、金剛くんが大平くんをブローック!!!』
そして悟が、巨深選手の巨体に臆することなくブロックに入り、セナが走り抜ける時間を稼いだ。
実況が熱を上げる中、ボールを受け取ったセナはモン太のフォローを受けながら、サイドの空間を駆け抜けていく。
審判『20ヤード前進!連続攻撃 !!』
「やー! セナとモンモンのコンビプレイー! 息ぴったし!!」
観客席で鈴音がピョンピョンと跳ね回り、歓声を上げる。
してやられた水町は、焦ったように頭を掻いた。
「やーべ! やっぱ泥門のエースはアイシールドっしょ、止めねーと……!!」
「ケケケ、泥門の走 はアイシールドだけじゃねェ……!!」
水町ら巨深ディフェンス陣の意識が、完全にセナの走 へと引っ張られる。その瞬間、悟へのマークが明確に薄くなった。
その僅かな隙を、ヒル魔と悟は見逃さない。
「悟! 舐められてんぞ、ぶちかませ!!」
「はい!」
ヒル魔からボールを託された悟の走 プレーが炸裂する。
『悪魔の予言 』――!!
ブロックに来た敵選手の死角へと身を翻しながら駆け抜けていく。
「ッ……!!! なんで、こっちの動き、わかって……!」
「くそ……! 止まらねぇ!!」
巨深の選手たちが次々と悟の動きに翻弄され、その手が空を切る。
2週間もの間積み上げてきたデータが、磨き上げてきた「悪魔の予言」が、圧倒的な「高さ」を誇るポセイドンの波をスルスルとすり抜けていく。
審判『タッチダーゥン!!!』
悟がエンドゾーンへと駆け込む。秋晴れの空の下、泥門の反撃を告げる歓声が、会場全体に割れんばかりに響き渡った。
試合直前のフィールド。入念にアップをこなす巨深ポセイドンの水町が、泥門デビルバッツの陣営に悟の姿を見つけると、嬉しそうに駆け寄って声をかけた。
「悟っち! ……好きな子だからって手加減はできねーよ? ちゃちゃっと勝たせてもらうけど、嫌いにならないでな!」
いつもの人懐っこい笑顔。しかし、フィールドに立つ悟からは、普段の穏やかで控えめな雰囲気は微塵も感じられなかった。彼女は冷徹な戦士の空気を纏い、「ちゃちゃっと」という水町の言葉にスッと目を細め、不快さを滲ませる。
「……そんな軽口ばかり叩いて、負けてから吠え面かかないようにね」
「お、今日は強気お姉さんモード?」
水町が楽しげに笑うが、悟の思考はすでに勝負の世界へと切り替わっていた。
大会一の高層ディフェンスを誇る巨深ポセイドンに対し、泥門デビルバッツの最大の売りは破壊的な攻撃力。
試合開始直後、いきなりアイシールド21の走が炸裂し、一気に27ヤードもの前進を見せる。
ライン戦、悟の事前情報通り、小結とマッチアップした水町は、余裕綽々といった笑みを浮かべていた。だが、その油断を突くように、電光石火の如く小結がスタートダッシュ――特訓の成果である「立ち合い」を決めた。
実況『おっと小結くん、水町くんを吹っ飛ばした〜!!』
ドンッ!という鈍い音と共に水町の巨体が押し込まれ、巨深のラインに明確な「隙間」が生じる。その一瞬の綻びを見逃さず、ボールを持つ悟がその身体をねじ込み距離を稼ぐ。
対水町の「立ち合い」は通用するかに見えた。しかし、本気になった水町は元競泳選手という経歴からくる圧倒的なスタートダッシュの速さを持ち合わせていた。小結と同等、いやそれ以上の立ち合いを見せ、高身長ラインマンの必殺技「スイム」で小結をことごとく潰しにかかる。
だが、小結も黙ってはいない。水町のスイムに対し、低身長だからこそのテクニック「リップ」と純然たる「力」で応戦。試合は両者一歩も譲らぬ泥沼の持久戦へともつれ込んだ。
それでも、ディフェンスにおいては高さに勝る巨深が上回る。ジリジリと押し込まれた泥門は、先取点を巨深ポセイドンに奪われてしまった。
「小結くんはよく水町くんに食らいついてくれています。……でも、巨深のディフェンスは水町くんだけじゃない」
息を整えながら、悟は冷静にフィールドを見渡す。視線の先には、エース筧を初めとした大型選手たち。彼らが形成する「
日々の地道なビデオ研究と、擦り切れるほど読み込んだ戦術書から得た知識を総動員して、悟は打開策を探る。
「鳥になりゃ、高波にものまれねぇ……だろ?」
不意に、ヒル魔がニヤリと不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
その唐突な発言に泥門一同が首を傾げる中、悟の脳裏にはある一つのフォーメーションが浮かび上がった。
「鳥……。『
「ケケケ、御名答!! さっさと
ヒル魔の鋭い号令のもと、泥門の陣形が大きく形を変える。
悟はクォーターバックであるヒル魔のすぐ後ろに位置取った。さらにその後方には、セナとモン太が並ぶ。本来レシーバーであるモン太までがバックフィールドに入ったその違和感に、巨深に緊張が走った。
「ンハッ、ボール持って走るランナーが3人……?」
水町が訝しげに呟いた直後、フィールドにヒル魔の声が響き渡る。
「SET! HUT、HUT!!」
コールと共にプレーが動く。
ヒル魔が背後の悟にボールをハンドオフする…かのように見せかけ、ボールを自らの懐に隠し持ったまま走り出した。
「ハンドオフフェイク! ボールはヒル魔だ!」
筧の鋭い指示が飛ぶ。同時に、水町が小結の壁を破り、ヒル魔へと猛烈なブリッツを仕掛ける。
だが、突っ込んでくる水町を前にして、ヒル魔はニヤリと笑った。直後、身を捩ったヒル魔が、ボールをサイドのセナへとピッチした。
ヒル魔はそのまま身体を投げ出し、水町をブロック。
実況『ボール持って突っ込むと見せかけて、ヒル魔くんが水町くんを、金剛くんが大平くんをブローック!!!』
そして悟が、巨深選手の巨体に臆することなくブロックに入り、セナが走り抜ける時間を稼いだ。
実況が熱を上げる中、ボールを受け取ったセナはモン太のフォローを受けながら、サイドの空間を駆け抜けていく。
審判『20ヤード前進!
「やー! セナとモンモンのコンビプレイー! 息ぴったし!!」
観客席で鈴音がピョンピョンと跳ね回り、歓声を上げる。
してやられた水町は、焦ったように頭を掻いた。
「やーべ! やっぱ泥門のエースはアイシールドっしょ、止めねーと……!!」
「ケケケ、泥門の
水町ら巨深ディフェンス陣の意識が、完全にセナの
その僅かな隙を、ヒル魔と悟は見逃さない。
「悟! 舐められてんぞ、ぶちかませ!!」
「はい!」
ヒル魔からボールを託された悟の
『
ブロックに来た敵選手の死角へと身を翻しながら駆け抜けていく。
「ッ……!!! なんで、こっちの動き、わかって……!」
「くそ……! 止まらねぇ!!」
巨深の選手たちが次々と悟の動きに翻弄され、その手が空を切る。
2週間もの間積み上げてきたデータが、磨き上げてきた「悪魔の予言」が、圧倒的な「高さ」を誇るポセイドンの波をスルスルとすり抜けていく。
審判『タッチダーゥン!!!』
悟がエンドゾーンへと駆け込む。秋晴れの空の下、泥門の反撃を告げる歓声が、会場全体に割れんばかりに響き渡った。