第三章【秋季大会・地区大会編】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
プールへ投げ出された悟の視界は、空中で、スローモーションのように世界を捉えていた。
(やっ、ちゃったな……)
諦めて脱力した瞬間、身体が水に包まれる。仰向けに沈みながら、悟は自分でも不可思議な感覚に囚われていた。揺れる水面が太陽光を反射しキラキラと光っている。水の冷たさと水中特有の浮遊感。
(なんだろう、むしろ心地良いかも……)
呑気に考えていると、血相を変えた水町が水中に飛び込んできた。水町に抱えられ、水上に顔を出した悟が、水町の腕の中でプハッと息を吐き出した。
「助けてくれてありがとう。でも私、カナヅチじゃないから大丈夫だよ」
「じゃあ何ですぐ浮いてこないんだよ! 気でも失ってるのかと思ってこっちはヒヤヒヤしたんだって!」
いつも飄々としているマイペースな水町が、本気で焦っている。悟は罪悪感を覚え、小さく詫びた。
「ごめんなさい。自分でもよくわからないんだけど、プールの水の中って久しぶりで、なんだか気持ちが良くて。……水って、綺麗なんだって…何言ってるか意味わかんないよね…」
「……ンハッ、そんな事ないし!なんか、前会った時と雰囲気全然違うけど、やっぱ面白いよ! お姉さん」
水町は自身の腕の中の悟を、熱っぽい瞳でじっと見つめた。
「クールな感じも良かったけど……。むしろ今の感じ、前より好きかも。割とマジのやつね」
「っえ!?急にそんな事言われても……」
「ね、名前なんてーの?苗字は金剛だったよな? 俺は水町健吾、まぁ知ってるだろうけど」
「………金剛、悟。……あの、そろそろ手を離してもらって良い?」
水町の腕から離れた悟が、プールサイドで心配そうにしているセナを落ち着かせるように、柔らかに笑いかけた。
「セナ、手を貸してくれる?」
セナが悟の伸ばした手を掴み、水中から引き上げた。
「ごめんなさい、僕のせいで……」
「違うっしょ! 不注意で原因作ったのは俺! 2人ともごめんな」
「私も咄嗟に身体が動いちゃったから……謝る必要なんて無いよ」
なんだか今日は謝られてばかりいるな、と悟が考えていると、筧からタオルが差し出される。
「大丈夫か?」
悟の無事を確認したのち、すぐにタオルを用意してくれたようだ。
タオルを受け取った悟がポケットを探る。中に入れていた携帯とGPS発信機は完全に水没し、画面は暗転したまま微動だにしなかった。
「あ……。完全に壊れちゃったかな」
彼女はすぐさまセナの方を向き、縋るような視線を向けた。
「セナ、携帯貸してもらっても良い…? まもりさんに連絡して、着替えを持ってきてもらえないか聞いてみようかなって」
状況を察したセナがすぐに携帯を手渡す。悟は急いでまもりの番号を打ち込み、事の顛末を簡潔に伝えた。
「まもりさん、悟です。突然ごめんなさい……! 今、セナと巨深高校にいるんですが、プールに落ちて服が濡れちゃって。……ハイ、そうです、それで携帯も壊れてしまったのでセナに携帯を借りてます。詳細は後から説明するので、着替えを持ってきてもらいたくて………はい…その……下着まで完全に………迷惑かけてすみません、お願いします」
電話の向こうから聞こえるまもりの声に、悟は安堵の息を吐く。電話をしている間も、濡れた服から滴る水は止まらず、9月の秋風が容赦なく体温を奪っていった。
「筧〜、俺一目惚れしちったかも! 会うのは2度目だから二目惚れか!」
「……何バカなこと言ってるんだ。それより、彼女の服をなんとかしないとな。風邪引いちまうだろ」
「んー…、あ!俺閃いちゃった、ちょっと待ってて」
ものの数分で戻ってきた水町の手には、男物のTシャツとハーフパンツが握られていた。
「俺、プール に頻回に来るから、水泳部の更衣室に予備の着替え置かせてもらってんだよね! これ、着ていいよ。たぶん汚くないからさ」
「さすがに、そこまで甘えられないよ」
「遠慮すんなって!せめて着替えが届くまでの間だけでもさ。風邪引いて、週末の試合に響かせるわけにはいかないっしょ?」
「……それは、その通りだね。じゃあお言葉に甘えて」
始めは拒もうとするも、水町の説得に納得した悟は更衣室へ向かった。
着替えた悟の姿に、水町が目を輝かせる。
「ハーフパンツが全くハーフじゃないな!」
「予想はしてたけど、本当大きいね……」
自身の服を纏い、サイズが合わずダボつく悟の姿に、水町の攻勢は止まらない。
「ね、今彼氏いる? フリー? 仲良くなりたいんだけど!」
「……いる、よ」
言ってから、悟は後悔した。この場にはセナもいる。万一相手がヒル魔だとバレてしまった場合が問題だ。自身に関して秘密主義を貫くヒル魔。関係性を公にする事を良しとはしないだろう。彼の逆鱗に触れる可能性すらある。
「……『好きな人』がいるから! 気持ちはありがたいけど……」
「好きな人?てことは俺にもチャンスあるじゃん!」
自分が一方的に好意を持っている体 であれば問題ないだろうと、悟の咄嗟に入れたフォローが事態を悪化させる。
「なんでそうなるの……!! 本当、その人しか見えないというか、心変わりはあり得ないから」
「一途でめっちゃ良いじゃん! 俄然好きになっちゃうね」
埒が明かない状況を見かねて、筧が仲裁に入る。
「いい加減にしろよ、水町。彼女が困ってるの、わかるだろ」
「……ちぇー、わかったよ」
水町は自身のかばんからノートとペンを出し、ノートの一部をちぎり切れ端にすると、何やら書き留めた後悟に押し付けるようにして渡した。
「俺のケー番とアドレス!まずはお友達からってことで!絶対連絡くれよな!」
悟が苦々しい表情を浮かべたその時、聞き覚えのある声が響いた。
「セナ!悟!助けに来たぜマーックス!!!」
プールを囲うフェンス越しに、モン太が血相を変えて走ってくる姿が見える。その背後には、異様な威圧感を纏い、ゆっくりと歩を進めるヒル魔の姿があった。
巨深に乗り込む前、モン太に託した「30分の制限 」を彼は忠実に守ったようだった。
「ムキーッ!このフェンスが邪魔だ!どうやってそっちに行けばいいんだ?」
気分は完全に遅れてきたヒーローのモン太を他所に、ヒル魔は悟の姿を一瞥する。彼の視線は悟の湿り気を帯びた髪から、その身に纏った「明らかに男物とわかる巨大なTシャツ」へと移る。ヒル魔の目が、静かに、そして獲物を狩る直前の獣ように細められた。
水町が「あれ、もう迎えが来たのか、早くねぇ?」と首を傾げるのも無視し、ヒル魔はただ悟を視界に捉え続ける。
「どうしたらこんなクソみてぇな状況になるのか、後から『じっくり』聞かせてもらうとするか。大体予想はつくがなァ」
ニタリ、と口角をあげるヒル魔の瞳に、静かに嫉妬の炎が灯った。
(やっ、ちゃったな……)
諦めて脱力した瞬間、身体が水に包まれる。仰向けに沈みながら、悟は自分でも不可思議な感覚に囚われていた。揺れる水面が太陽光を反射しキラキラと光っている。水の冷たさと水中特有の浮遊感。
(なんだろう、むしろ心地良いかも……)
呑気に考えていると、血相を変えた水町が水中に飛び込んできた。水町に抱えられ、水上に顔を出した悟が、水町の腕の中でプハッと息を吐き出した。
「助けてくれてありがとう。でも私、カナヅチじゃないから大丈夫だよ」
「じゃあ何ですぐ浮いてこないんだよ! 気でも失ってるのかと思ってこっちはヒヤヒヤしたんだって!」
いつも飄々としているマイペースな水町が、本気で焦っている。悟は罪悪感を覚え、小さく詫びた。
「ごめんなさい。自分でもよくわからないんだけど、プールの水の中って久しぶりで、なんだか気持ちが良くて。……水って、綺麗なんだって…何言ってるか意味わかんないよね…」
「……ンハッ、そんな事ないし!なんか、前会った時と雰囲気全然違うけど、やっぱ面白いよ! お姉さん」
水町は自身の腕の中の悟を、熱っぽい瞳でじっと見つめた。
「クールな感じも良かったけど……。むしろ今の感じ、前より好きかも。割とマジのやつね」
「っえ!?急にそんな事言われても……」
「ね、名前なんてーの?苗字は金剛だったよな? 俺は水町健吾、まぁ知ってるだろうけど」
「………金剛、悟。……あの、そろそろ手を離してもらって良い?」
水町の腕から離れた悟が、プールサイドで心配そうにしているセナを落ち着かせるように、柔らかに笑いかけた。
「セナ、手を貸してくれる?」
セナが悟の伸ばした手を掴み、水中から引き上げた。
「ごめんなさい、僕のせいで……」
「違うっしょ! 不注意で原因作ったのは俺! 2人ともごめんな」
「私も咄嗟に身体が動いちゃったから……謝る必要なんて無いよ」
なんだか今日は謝られてばかりいるな、と悟が考えていると、筧からタオルが差し出される。
「大丈夫か?」
悟の無事を確認したのち、すぐにタオルを用意してくれたようだ。
タオルを受け取った悟がポケットを探る。中に入れていた携帯とGPS発信機は完全に水没し、画面は暗転したまま微動だにしなかった。
「あ……。完全に壊れちゃったかな」
彼女はすぐさまセナの方を向き、縋るような視線を向けた。
「セナ、携帯貸してもらっても良い…? まもりさんに連絡して、着替えを持ってきてもらえないか聞いてみようかなって」
状況を察したセナがすぐに携帯を手渡す。悟は急いでまもりの番号を打ち込み、事の顛末を簡潔に伝えた。
「まもりさん、悟です。突然ごめんなさい……! 今、セナと巨深高校にいるんですが、プールに落ちて服が濡れちゃって。……ハイ、そうです、それで携帯も壊れてしまったのでセナに携帯を借りてます。詳細は後から説明するので、着替えを持ってきてもらいたくて………はい…その……下着まで完全に………迷惑かけてすみません、お願いします」
電話の向こうから聞こえるまもりの声に、悟は安堵の息を吐く。電話をしている間も、濡れた服から滴る水は止まらず、9月の秋風が容赦なく体温を奪っていった。
「筧〜、俺一目惚れしちったかも! 会うのは2度目だから二目惚れか!」
「……何バカなこと言ってるんだ。それより、彼女の服をなんとかしないとな。風邪引いちまうだろ」
「んー…、あ!俺閃いちゃった、ちょっと待ってて」
ものの数分で戻ってきた水町の手には、男物のTシャツとハーフパンツが握られていた。
「俺、
「さすがに、そこまで甘えられないよ」
「遠慮すんなって!せめて着替えが届くまでの間だけでもさ。風邪引いて、週末の試合に響かせるわけにはいかないっしょ?」
「……それは、その通りだね。じゃあお言葉に甘えて」
始めは拒もうとするも、水町の説得に納得した悟は更衣室へ向かった。
着替えた悟の姿に、水町が目を輝かせる。
「ハーフパンツが全くハーフじゃないな!」
「予想はしてたけど、本当大きいね……」
自身の服を纏い、サイズが合わずダボつく悟の姿に、水町の攻勢は止まらない。
「ね、今彼氏いる? フリー? 仲良くなりたいんだけど!」
「……いる、よ」
言ってから、悟は後悔した。この場にはセナもいる。万一相手がヒル魔だとバレてしまった場合が問題だ。自身に関して秘密主義を貫くヒル魔。関係性を公にする事を良しとはしないだろう。彼の逆鱗に触れる可能性すらある。
「……『好きな人』がいるから! 気持ちはありがたいけど……」
「好きな人?てことは俺にもチャンスあるじゃん!」
自分が一方的に好意を持っている
「なんでそうなるの……!! 本当、その人しか見えないというか、心変わりはあり得ないから」
「一途でめっちゃ良いじゃん! 俄然好きになっちゃうね」
埒が明かない状況を見かねて、筧が仲裁に入る。
「いい加減にしろよ、水町。彼女が困ってるの、わかるだろ」
「……ちぇー、わかったよ」
水町は自身のかばんからノートとペンを出し、ノートの一部をちぎり切れ端にすると、何やら書き留めた後悟に押し付けるようにして渡した。
「俺のケー番とアドレス!まずはお友達からってことで!絶対連絡くれよな!」
悟が苦々しい表情を浮かべたその時、聞き覚えのある声が響いた。
「セナ!悟!助けに来たぜマーックス!!!」
プールを囲うフェンス越しに、モン太が血相を変えて走ってくる姿が見える。その背後には、異様な威圧感を纏い、ゆっくりと歩を進めるヒル魔の姿があった。
巨深に乗り込む前、モン太に託した「30分の
「ムキーッ!このフェンスが邪魔だ!どうやってそっちに行けばいいんだ?」
気分は完全に遅れてきたヒーローのモン太を他所に、ヒル魔は悟の姿を一瞥する。彼の視線は悟の湿り気を帯びた髪から、その身に纏った「明らかに男物とわかる巨大なTシャツ」へと移る。ヒル魔の目が、静かに、そして獲物を狩る直前の獣ように細められた。
水町が「あれ、もう迎えが来たのか、早くねぇ?」と首を傾げるのも無視し、ヒル魔はただ悟を視界に捉え続ける。
「どうしたらこんなクソみてぇな状況になるのか、後から『じっくり』聞かせてもらうとするか。大体予想はつくがなァ」
ニタリ、と口角をあげるヒル魔の瞳に、静かに嫉妬の炎が灯った。