第三章【秋季大会・地区大会編】
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ヒル魔の策略により、巨深アメフト部ご愛顧のキミドリスポーツの店員を装い、スパイクを届けるという名目で偵察を命じられたセナ。顔が割れていないことを利用した潜入だったが、セナが巨深へ潜入してから、既に予定の時間を大きく回っている。
悟はモン太と共に待機していた。先ほどセナへ入れたメールにも返信はない。
「ずいぶん時間が経つね。何かトラブルがあったと見るのが妥当だと思う。私、迎えに行くよ」
「迎えにって……、どうするつもりなんだ?」
観客席で咎められた一件の時とは違い、ここは巨深の敷地内だ。忍び込むような振る舞いをすれば、最悪の場合不法侵入でお縄となる。
とすれば今取るべき行動は――。
「正面突破。巨深アメフト部室に直接行ってみるよ。セナに何もなければ私が疎まれるだけだし」
「……お前はそれでいいのかよ?」
「一度観客席で盗み聞きしてるのバレて、落ちる好感度さえない筈だから、平気」
「寂しいこと言うなよな…。俺も行くぜ!」
「モン太くんには頼みたい事があるんだ。……30分経ってもセナや私からの音沙汰が無かったら、ヒル魔さんに連絡してもらえる?」
悟は一人、巨深の門をくぐった。緊張で身体が強張るが、「冷徹な参謀」の仮面を付け、彼女は巨深アメフト部部室の扉を叩く。
「失礼します。突然の訪問ご容赦ください。泥門高校アメフト部の金剛と申します」
悟が扉を開けると、部室内にいた巨深アメフト部の部長、小判鮫の声が響いた。
「また泥門!?」
(「また」……。やっぱりセナ、泥門だってバレたんだ)
セナの身元が割れてしまった事を確信した悟が、毅然と目的を告げる。
「うちの部員を迎えにきました」
悟に冷たい視線が集まる。その中で口を開いたのは、意外にも先日一悶着あった筧だった。
「……セナくんの事なら、既に部室から出たぞ」
「部室から出た……?帰してくれたんですか!?揉めたり……とか……」
「……?主務として律儀に挨拶に来てくれて、注文してたスパイクまで届けてもらって、感謝こそすれ揉める必要なんて皆目無いだろう」
(そういう事で落ち着いたんだ……)
「戻ってないとなるとまだ敷地内にいる可能性があるな。……そういえば見送りに付けた水町の姿をしばらく見かけない。となると屋外プールか」
筧は部室のドアを開け、悟を促した。
「小判鮫先輩、俺が責任持って付き添います」
「お、おー! 泥門が変なことしないように、見張りよろしく頼むな!」
無言で廊下を歩く二人。その張り詰めた空気と、筧の視線の圧に耐えきれず、悟は口を開いた。
「案内してくれて、ありがとうございます。……あの、観客席での事なら……、謝罪をするつもりはありませんし、言い訳もしません。勝つためにはどんな事でもするのが泥門流です」
「……ああ。何としてでも勝ちたいって気持ちは共感できる。むしろ、謝るべきは俺なのかもしれない」
「えっ?」
「ルールを破ってないってのは正論ではある。現に、今日は正々堂々部室を訪ねてきたんだ」
悟が部室に入ってきた時、凛とした表情と淡々とした口調に反して、彼女の指先が僅かに震えていた事を筧は見逃さなかった。筧は言葉を続ける。
「大の男に、それもこんなでけえ男に囲まれるのは怖かったんじゃないか。観客席での件は腹を立てたとはいえ、女性に対して凄むような真似をして申し訳なかった」
予想外の反応に悟は面を食らった。誠実で正直な筧の態度に、懸命に繕っていた仮面が剥がされる。悟は「生真面目」と彼を評したが、それは彼の魅力でもある。
「えっと、その、そもそも人として好ましくない事をしたのは事実というか、不快に思われて当然というか……」
突然しどろもどろになる悟を見て、筧がふっと表情を和らげる。
「さっきまでの威勢の良さはどうしたんだ。そっちが本性か?」
「……とにかく、私が言いたいのは。お互い真剣勝負、全力で向き合った結果だから…その、謝ってくれる必要は無いんです。でも……ありがとうございます」
「……フッ、なんで礼を言うんだよ」
筧がたまらず笑みを溢す。悟は照れ隠しに歩く速度を上げた。
筧の案内のもと、到着した屋外プール。
「ほら、いたろ」
彼が指差す先には、何故か水着の水町と、裾をまくりプールサイドを裸足で歩くセナの姿があった。
「やっぱり連れ回してたか。あいつ、懐っこくて誰とでも距離縮めんの早いんだよ。……オイ!水町!!!」
筧の呼び声に反応した水町の視線が、悟の姿を捉える。
「ンハッ!泥門の強気クールお姉さんじゃん!オーイ!!」
水町が無邪気に跳ねながら手を振った瞬間、その大きく振り上げられた腕が、意図せず隣にいたセナを打った。体格差のある一撃に、バランスを崩したセナが、プールサイドの縁でよろめいた。
筧が危ないと思ったその時、既に隣に悟の姿は無かった。「神速のインパルス」により誰よりも速く反応した悟が、プールに落ちるギリギリでセナの服をひっ掴み、自身の体重をかけて目一杯引き戻す。
バシャン――。
転落を免れサプールサイドに投げ出されたセナに届いたのは水飛沫と、水面に何かが落ちる音。
セナを庇い、悟が水の中へと消えていた。
悟はモン太と共に待機していた。先ほどセナへ入れたメールにも返信はない。
「ずいぶん時間が経つね。何かトラブルがあったと見るのが妥当だと思う。私、迎えに行くよ」
「迎えにって……、どうするつもりなんだ?」
観客席で咎められた一件の時とは違い、ここは巨深の敷地内だ。忍び込むような振る舞いをすれば、最悪の場合不法侵入でお縄となる。
とすれば今取るべき行動は――。
「正面突破。巨深アメフト部室に直接行ってみるよ。セナに何もなければ私が疎まれるだけだし」
「……お前はそれでいいのかよ?」
「一度観客席で盗み聞きしてるのバレて、落ちる好感度さえない筈だから、平気」
「寂しいこと言うなよな…。俺も行くぜ!」
「モン太くんには頼みたい事があるんだ。……30分経ってもセナや私からの音沙汰が無かったら、ヒル魔さんに連絡してもらえる?」
悟は一人、巨深の門をくぐった。緊張で身体が強張るが、「冷徹な参謀」の仮面を付け、彼女は巨深アメフト部部室の扉を叩く。
「失礼します。突然の訪問ご容赦ください。泥門高校アメフト部の金剛と申します」
悟が扉を開けると、部室内にいた巨深アメフト部の部長、小判鮫の声が響いた。
「また泥門!?」
(「また」……。やっぱりセナ、泥門だってバレたんだ)
セナの身元が割れてしまった事を確信した悟が、毅然と目的を告げる。
「うちの部員を迎えにきました」
悟に冷たい視線が集まる。その中で口を開いたのは、意外にも先日一悶着あった筧だった。
「……セナくんの事なら、既に部室から出たぞ」
「部室から出た……?帰してくれたんですか!?揉めたり……とか……」
「……?主務として律儀に挨拶に来てくれて、注文してたスパイクまで届けてもらって、感謝こそすれ揉める必要なんて皆目無いだろう」
(そういう事で落ち着いたんだ……)
「戻ってないとなるとまだ敷地内にいる可能性があるな。……そういえば見送りに付けた水町の姿をしばらく見かけない。となると屋外プールか」
筧は部室のドアを開け、悟を促した。
「小判鮫先輩、俺が責任持って付き添います」
「お、おー! 泥門が変なことしないように、見張りよろしく頼むな!」
無言で廊下を歩く二人。その張り詰めた空気と、筧の視線の圧に耐えきれず、悟は口を開いた。
「案内してくれて、ありがとうございます。……あの、観客席での事なら……、謝罪をするつもりはありませんし、言い訳もしません。勝つためにはどんな事でもするのが泥門流です」
「……ああ。何としてでも勝ちたいって気持ちは共感できる。むしろ、謝るべきは俺なのかもしれない」
「えっ?」
「ルールを破ってないってのは正論ではある。現に、今日は正々堂々部室を訪ねてきたんだ」
悟が部室に入ってきた時、凛とした表情と淡々とした口調に反して、彼女の指先が僅かに震えていた事を筧は見逃さなかった。筧は言葉を続ける。
「大の男に、それもこんなでけえ男に囲まれるのは怖かったんじゃないか。観客席での件は腹を立てたとはいえ、女性に対して凄むような真似をして申し訳なかった」
予想外の反応に悟は面を食らった。誠実で正直な筧の態度に、懸命に繕っていた仮面が剥がされる。悟は「生真面目」と彼を評したが、それは彼の魅力でもある。
「えっと、その、そもそも人として好ましくない事をしたのは事実というか、不快に思われて当然というか……」
突然しどろもどろになる悟を見て、筧がふっと表情を和らげる。
「さっきまでの威勢の良さはどうしたんだ。そっちが本性か?」
「……とにかく、私が言いたいのは。お互い真剣勝負、全力で向き合った結果だから…その、謝ってくれる必要は無いんです。でも……ありがとうございます」
「……フッ、なんで礼を言うんだよ」
筧がたまらず笑みを溢す。悟は照れ隠しに歩く速度を上げた。
筧の案内のもと、到着した屋外プール。
「ほら、いたろ」
彼が指差す先には、何故か水着の水町と、裾をまくりプールサイドを裸足で歩くセナの姿があった。
「やっぱり連れ回してたか。あいつ、懐っこくて誰とでも距離縮めんの早いんだよ。……オイ!水町!!!」
筧の呼び声に反応した水町の視線が、悟の姿を捉える。
「ンハッ!泥門の強気クールお姉さんじゃん!オーイ!!」
水町が無邪気に跳ねながら手を振った瞬間、その大きく振り上げられた腕が、意図せず隣にいたセナを打った。体格差のある一撃に、バランスを崩したセナが、プールサイドの縁でよろめいた。
筧が危ないと思ったその時、既に隣に悟の姿は無かった。「神速のインパルス」により誰よりも速く反応した悟が、プールに落ちるギリギリでセナの服をひっ掴み、自身の体重をかけて目一杯引き戻す。
バシャン――。
転落を免れサプールサイドに投げ出されたセナに届いたのは水飛沫と、水面に何かが落ちる音。
セナを庇い、悟が水の中へと消えていた。