第三章【秋季大会・地区大会編】
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3回戦、独播スコーピオンズ戦。
独播の主将・金串が選手の細かい癖を読み取り、作戦を読もうと試みるも、そのすべては空振りに終わる。相手が悪いのだ。読み合いや心理戦においてヒル魔に適う筈も無く、独播の戦術は完膚なきまでに破壊され、試合は一方的な展開となっていた。
そのフィールド、泥門のベンチにすら、本来いるはずの悟の姿はなかった。
――前日、泥門アメフト部の部室。
「独播との試合中、観客席にいる巨深の後ろ陣取って会話盗み聞きしてこい! 作戦やら重要な話溢したら儲けもんだ」
ヒル魔の無茶振りに、悟は心底嫌そうにその顔を歪めた。
「えぇ……、 もしバレたらどうするんですか、私の顔は割れてますよ」
「開き直りゃあいい! 敵さんの後ろで試合観戦しちゃいけねぇルールなんざ無いってな! ケケケ!!」
その言葉通り、悟は独播戦の試合の最中、観戦する巨深ポセイドンの背後、通路側の席に座っていた。
「なあ筧!泥門の試合、初めて生で見るけど、こりゃうちの敵じゃねーな!」
「…あのランニングバッグがいない。泥門は全力じゃねぇよ。……それにまずは賊学戦だ。水町、今日はフル出場でガンガンいくぞ」
心臓が口から飛び出しそうな緊張を押し殺し、悟はひたすら聞き耳を立てる。
「あれ、泥門の金剛悟じゃないか?」
周囲の観客のひそひそ話が、彼女の耳に届く。
女性選手というだけで目立つ上、優勝候補筆頭の神龍寺高校アメフト部のエース・金剛阿含の妹である悟。その話題性はアメフト誌で特集が組まれるほどであり、彼女も知らぬ内に界隈ではちょっとした有名人になっていた。彼女の存在に気が付いた観客のざわつきに、観戦していた巨深の選手たちが怪訝な表情で振り返る。
筧の鋭い眼光が、悟を真っ向から捉えた。
「……泥門?」
筧の言葉で、隣にいた水町も気が付く。
「ンハッ! 俺知ってる! 泥門の女選手! 」
水町を除く巨深の面々が悟を蔑むような視線を送る。筧が席を立ち、水町もそれに続くと、悟の横で立ち止まった。生真面目な筧にとって、こそこそと盗み聞きをしてまで情報を得ようとする泥門の振るまいは、不快極まりないものだった。
「そこの泥門!スパイみたいな真似して恥ずかしくないのか?」
(まずい……、えっと、 ヒル魔さんに言われた通りに…)
悟は震える指先を握りしめ、動揺を隠すための仮面として無表情を浮かべ、ヒル魔の口調を模した。
「……別チームの後ろで観戦しちゃいけないルールなんて、無いですから」
悟の言葉は、彼女が思うより冷たく、棘のある響きを持って彼らに突き刺さった。筧がその態度に不快感を露わにし、さらに険しい表情で睨みつける。
その重苦しい空気を乱したのは、変わらずマイペースな水町だった。
「お、言うね〜! おーもしれ! 強気でクールなお姉さん、俺結構タイプかも!」
「……水町、放っておけ。泥門が無様に足掻こうと、勝つのは巨深 だ」
筧は悟を鼻で笑うと、踵を返した。
彼らが背を向けて去っていく間、悟は呼吸すら忘れて座り続けた。巨深の背中が見えなくなった瞬間、悟はようやく大きく息を吐き出し、胸をなで下ろす。
「……こ、怖かった〜…」
悟は震える手で、彼らの会話や各々の性格、チーム内での立ち位置等をノートに書き留めた。
やれることはなんでもやる。猛烈な「勝利への渇望」が彼女の瞳に宿っていた。
独播の主将・金串が選手の細かい癖を読み取り、作戦を読もうと試みるも、そのすべては空振りに終わる。相手が悪いのだ。読み合いや心理戦においてヒル魔に適う筈も無く、独播の戦術は完膚なきまでに破壊され、試合は一方的な展開となっていた。
そのフィールド、泥門のベンチにすら、本来いるはずの悟の姿はなかった。
――前日、泥門アメフト部の部室。
「独播との試合中、観客席にいる巨深の後ろ陣取って会話盗み聞きしてこい! 作戦やら重要な話溢したら儲けもんだ」
ヒル魔の無茶振りに、悟は心底嫌そうにその顔を歪めた。
「えぇ……、 もしバレたらどうするんですか、私の顔は割れてますよ」
「開き直りゃあいい! 敵さんの後ろで試合観戦しちゃいけねぇルールなんざ無いってな! ケケケ!!」
その言葉通り、悟は独播戦の試合の最中、観戦する巨深ポセイドンの背後、通路側の席に座っていた。
「なあ筧!泥門の試合、初めて生で見るけど、こりゃうちの敵じゃねーな!」
「…あのランニングバッグがいない。泥門は全力じゃねぇよ。……それにまずは賊学戦だ。水町、今日はフル出場でガンガンいくぞ」
心臓が口から飛び出しそうな緊張を押し殺し、悟はひたすら聞き耳を立てる。
「あれ、泥門の金剛悟じゃないか?」
周囲の観客のひそひそ話が、彼女の耳に届く。
女性選手というだけで目立つ上、優勝候補筆頭の神龍寺高校アメフト部のエース・金剛阿含の妹である悟。その話題性はアメフト誌で特集が組まれるほどであり、彼女も知らぬ内に界隈ではちょっとした有名人になっていた。彼女の存在に気が付いた観客のざわつきに、観戦していた巨深の選手たちが怪訝な表情で振り返る。
筧の鋭い眼光が、悟を真っ向から捉えた。
「……泥門?」
筧の言葉で、隣にいた水町も気が付く。
「ンハッ! 俺知ってる! 泥門の女選手! 」
水町を除く巨深の面々が悟を蔑むような視線を送る。筧が席を立ち、水町もそれに続くと、悟の横で立ち止まった。生真面目な筧にとって、こそこそと盗み聞きをしてまで情報を得ようとする泥門の振るまいは、不快極まりないものだった。
「そこの泥門!スパイみたいな真似して恥ずかしくないのか?」
(まずい……、えっと、 ヒル魔さんに言われた通りに…)
悟は震える指先を握りしめ、動揺を隠すための仮面として無表情を浮かべ、ヒル魔の口調を模した。
「……別チームの後ろで観戦しちゃいけないルールなんて、無いですから」
悟の言葉は、彼女が思うより冷たく、棘のある響きを持って彼らに突き刺さった。筧がその態度に不快感を露わにし、さらに険しい表情で睨みつける。
その重苦しい空気を乱したのは、変わらずマイペースな水町だった。
「お、言うね〜! おーもしれ! 強気でクールなお姉さん、俺結構タイプかも!」
「……水町、放っておけ。泥門が無様に足掻こうと、勝つのは
筧は悟を鼻で笑うと、踵を返した。
彼らが背を向けて去っていく間、悟は呼吸すら忘れて座り続けた。巨深の背中が見えなくなった瞬間、悟はようやく大きく息を吐き出し、胸をなで下ろす。
「……こ、怖かった〜…」
悟は震える手で、彼らの会話や各々の性格、チーム内での立ち位置等をノートに書き留めた。
やれることはなんでもやる。猛烈な「勝利への渇望」が彼女の瞳に宿っていた。