第三章【秋季大会・地区大会編】
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試合の興奮が冷めやらない夜。
悟は一人、黙々と走り続けていた。
試合の緊張感、胸の高鳴り、そして網乃サイボーグスを打ち破ったという高揚感。すべてを消化し、次のステージへ向かうための彼女なりの儀式だった。
「……はぁ、はぁ……」
デス・マーチで染み付いた習慣は、夜が更けても彼女の足を止めさせない。
「お、悟じゃん! 試合後に自主練かよ?」
声をかけてきたのは黒木、買い食いをしてつるんでいたハァハァ三兄弟だった。十文字が驚いたように悟を見つめる。
「試合後のソワソワが抜けなくて…」
「…こんな時間に外周はやめとけよ」
純粋に悟の身を案じ心配する十文字。
「デス・マーチで夜通し走ってたせいかな?なんだか物足りなくて……」
「ったく、ストイックっつーか……」
「……ドMっつーか」
十文字の後に続いた戸叶の言葉に、十文字がジロリと鋭い視線を投げつける。
「部室にまだヒル魔は残ってんだろ? 何か言われなかったのかよ?」
「? うん。あ、でもこれ持ち歩けって」
悟は、ポケットから携帯電話サイズの小型の機械を取り出した。
「コレ持ってると居場所がわかるんだって。何かあればこのボタンを押せって……防犯ブザーみたいなものかな?」
その小さな端末を見つめ、十文字の表情が硬くなる。GPSだ。それは、悟の安全を守るという目的はあるにしろ、ヒル魔による「束縛」の象徴だった。
「……悟、ランニングはあとどれくらい続けるつもりなんだ?」
「まだ始めたばかりだから、もう少し走るつもりだよ」
「そうか。……気をつけろよ、あまり人気のない所は走んなよ」
悟を見送った十文字は、不自然なほど黙り込んだ。そして、黒木と戸叶に向き直る。
「部室に用ができた。先に帰っててくれ」
「忘れ物か? 付き合うぜ?」
「……ちょっとな。すまんが、一人で行かせてくれ」
部室へ向かう十文字の背中を、黒木と戸叶が見送る。
「十文字の奴、悟の事でヒル魔に話つけに行くつもりなんじゃねぇの」
戸叶がはっとした様子で呟く。
「……マジ? あいつ、生きて帰ってこれっかな……」
「まぁ、GPSはちょっと引くしな。惚れた女が物みたいに管理されんのが許せねぇんだろ、十文字らしいぜ」
泥門高校アメフト部の部室。
ノートパソコンの明かりだけが、暗い室内でヒル魔の顔を青白く照らしていた。ドアを開け放った十文字に、ヒル魔は顔を上げず、キーボードを叩き続ける。
「何の用だ糞長男」
「……悟に首輪をつけるような真似は、やりすぎじゃねぇのか?」
怒気を含む十文字の言葉に、ヒル魔の指が止まる。
ヒル魔はゆっくりと振り返り、不敵な笑みを浮かべた。
「ケケッ、相も変わらず悟の騎士ヅラしやがって。自分の物 を管理してるだけだ。あいつの不用心さの一級品ぶりは、テメーも知ってるだろ」
「ヒル魔……さん。悟を見てれば、二人の空気感が変わった事には気付いてる。俺に入り込む隙なんてねェって事も…わかってんだ」
十文字は、言葉を噛みしめるように続けた。
「ただ、アイツを粗雑に扱うようなら……大切にしねェなら、無理やりにでも引き離す」
静寂が、部室を支配する。
ヒル魔の瞳が、獣のようにギラリと光った。彼はゆっくりと立ち上がり、十文字の目前まで歩み寄る。
「……やってみろよ」
その声は低く、そして冷酷なまでに静かだった。ヒル魔らしからぬ執着を滲ませる声音に、十文字は固唾を飲む。だが引くつもりは微塵もなく、決して視線は逸らさない。
自分への挑発を、ヒル魔は拒絶せず、宣戦布告として受け入れた。
悟という存在を巡り、二人の男の間に火花が散る。泥門の恋模様は、危うい均衡の上で揺れ動いていた。
悟は一人、黙々と走り続けていた。
試合の緊張感、胸の高鳴り、そして網乃サイボーグスを打ち破ったという高揚感。すべてを消化し、次のステージへ向かうための彼女なりの儀式だった。
「……はぁ、はぁ……」
デス・マーチで染み付いた習慣は、夜が更けても彼女の足を止めさせない。
「お、悟じゃん! 試合後に自主練かよ?」
声をかけてきたのは黒木、買い食いをしてつるんでいたハァハァ三兄弟だった。十文字が驚いたように悟を見つめる。
「試合後のソワソワが抜けなくて…」
「…こんな時間に外周はやめとけよ」
純粋に悟の身を案じ心配する十文字。
「デス・マーチで夜通し走ってたせいかな?なんだか物足りなくて……」
「ったく、ストイックっつーか……」
「……ドMっつーか」
十文字の後に続いた戸叶の言葉に、十文字がジロリと鋭い視線を投げつける。
「部室にまだヒル魔は残ってんだろ? 何か言われなかったのかよ?」
「? うん。あ、でもこれ持ち歩けって」
悟は、ポケットから携帯電話サイズの小型の機械を取り出した。
「コレ持ってると居場所がわかるんだって。何かあればこのボタンを押せって……防犯ブザーみたいなものかな?」
その小さな端末を見つめ、十文字の表情が硬くなる。GPSだ。それは、悟の安全を守るという目的はあるにしろ、ヒル魔による「束縛」の象徴だった。
「……悟、ランニングはあとどれくらい続けるつもりなんだ?」
「まだ始めたばかりだから、もう少し走るつもりだよ」
「そうか。……気をつけろよ、あまり人気のない所は走んなよ」
悟を見送った十文字は、不自然なほど黙り込んだ。そして、黒木と戸叶に向き直る。
「部室に用ができた。先に帰っててくれ」
「忘れ物か? 付き合うぜ?」
「……ちょっとな。すまんが、一人で行かせてくれ」
部室へ向かう十文字の背中を、黒木と戸叶が見送る。
「十文字の奴、悟の事でヒル魔に話つけに行くつもりなんじゃねぇの」
戸叶がはっとした様子で呟く。
「……マジ? あいつ、生きて帰ってこれっかな……」
「まぁ、GPSはちょっと引くしな。惚れた女が物みたいに管理されんのが許せねぇんだろ、十文字らしいぜ」
泥門高校アメフト部の部室。
ノートパソコンの明かりだけが、暗い室内でヒル魔の顔を青白く照らしていた。ドアを開け放った十文字に、ヒル魔は顔を上げず、キーボードを叩き続ける。
「何の用だ糞長男」
「……悟に首輪をつけるような真似は、やりすぎじゃねぇのか?」
怒気を含む十文字の言葉に、ヒル魔の指が止まる。
ヒル魔はゆっくりと振り返り、不敵な笑みを浮かべた。
「ケケッ、相も変わらず悟の騎士ヅラしやがって。自分の
「ヒル魔……さん。悟を見てれば、二人の空気感が変わった事には気付いてる。俺に入り込む隙なんてねェって事も…わかってんだ」
十文字は、言葉を噛みしめるように続けた。
「ただ、アイツを粗雑に扱うようなら……大切にしねェなら、無理やりにでも引き離す」
静寂が、部室を支配する。
ヒル魔の瞳が、獣のようにギラリと光った。彼はゆっくりと立ち上がり、十文字の目前まで歩み寄る。
「……やってみろよ」
その声は低く、そして冷酷なまでに静かだった。ヒル魔らしからぬ執着を滲ませる声音に、十文字は固唾を飲む。だが引くつもりは微塵もなく、決して視線は逸らさない。
自分への挑発を、ヒル魔は拒絶せず、宣戦布告として受け入れた。
悟という存在を巡り、二人の男の間に火花が散る。泥門の恋模様は、危うい均衡の上で揺れ動いていた。