第三章【秋季大会・地区大会編】
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後半戦開始を告げるホイッスルが、秋晴れのスタジアムに鋭く響き渡る。
ハーフタイムを終え、フィールドに戻ってきた泥門デビルバッツの陣営を見て、観客席からも、そして対戦相手である網乃サイボーグスからも、疑問の声が上がった。
エースランナーであるアイシールド21の姿が、未だにフィールドのどこにもないからだ。
泥門のバックフィールドに立つのは、前半戦にさした活躍をせず沈黙を続ける悟だ。
「彼女は春大会でレシーバーのポジションだった。おそらく何らかの理由でアイシールドくんを起用できないのだろう。苦し紛れに、女性選手を使ってこちらの心理的な動揺でも誘うおつもりかな?遠慮なく潰させてもらうよ」
網野サイボーグスの主将、胸肩が余裕たっぷりに呟く。
「前半でたっぷりお勉強した成果を見せてもらうとするか、ケケケ」
不敵に笑う地獄の司令塔――ヒル魔から、悟へボールがハンドオフされる。
ガチ、と脇腹にボールを抱え込んだ瞬間、悟の視界の景色が劇的に変貌した。
(――視える)
前半戦、脳内の全リソースを割いて網乃の動きを観察し続けた成果が、今、結実する。
眼前に迫る網乃のディフェンス陣。その足首の角度、大腿筋の強張り、視線の動き。相手が「次の一歩」をどこに踏み出すのか、スポーツ医学に基づいた彼らのマニュアルのような動きのすべてが、コンマ数秒先の未来の映像として悟の脳内に流れ込んでくる。
ドン、と悟は鋭く地面を蹴った。
「なっ――!?」
タックルを仕掛けようとした網乃の選手の手が、不自然なほど綺麗に空を切る。悟は相手が腕を伸ばすより早く、その軌道から自らの身体を完全にズラしていた。一人、また一人と、触れることすらできずに置き去りにされていく。
「バ、バカな!? あの女選手、春大会のデータと動きが全く一致しないぞ!」
「スピード自体は大した事無い…並の筈、なのに、触れられもしない…!まるでこちらの考えが筒抜けだとでもいうように…!」
網乃のベンチから、悲鳴に似た怒号が飛び交う。
悟の快進撃が止まらない状況に、ついに網乃の主将・胸肩が自ら前線へと名乗りを上げた。彼は力任せに悟を潰しにくるような真似はしない。
「ケケッ!お望みは一対一のタイマン勝負か。悟!ぶち殺してこい!」
ヒル魔がコールした作戦は、奇策ではなく、正面突破。
「――スイープ!!」
ヒル魔の声と同時に、泥門のライン陣が咆哮を上げる。
「オラァ! 悟に行かせろ! 道こじ開けろォ!!」
十文字が顔に青筋を立てて叫び、黒木、戸叶、そして栗田と小結が、文字通り肉体の盾となって網乃の精密なライン陣を強引に押し潰した。サイドに拓かれた一本道が作りあげられる。
駆け上がる悟の正面には彼女を潰さんと意気込む胸肩が待ち構えていた。悟と胸肩、二人が真っ向から激突した。
胸肩は悟と相対した瞬間、あえて自らの重心をわずかに右へと傾けた。
それは、緻密に計算された「罠」だった。
人間は、目の前の壁に僅かでも隙間があれば、無意識にそこへ進路を取る。胸肩はあえて進路を開けることで悟の走るコースを自ら誘導する計画だった。
(そこだ……!)
胸肩が勝利を確信し、悟の進路を塞ぐようにステップを踏み出そうとした、その刹那。
悟の『悪魔の予言』は、胸肩が重心をずらしたという事実そのものを、コンマ数秒前に完全に見切っていた。
誘導されたフェイクの進路を、嘲笑うかのように。空いたスペースへ踏み込むと見せかけた慣性を、悟は足首だけで強引にねじ伏せ、真逆の方向へと鋭いカットバックを炸裂させた。
「な……にっ……!?」
胸肩の計算が、完全に崩壊する。
スポーツ医学の粋を集めたはずの身体が、悟の切り返しに反応しきれず、完全に虚を突かれる形となった。
胸肩の手は、悟のユニフォームの裾に触れることすらできない。胸肩を鮮やかに置き去りにした悟は、そのまま誰もいないエンドゾーンへと悠々と駆け込み、ガッツポーズを決めた。
「やった……!!」
割れんばかりの歓声がスタジアムを揺るがす。
スコアボードの数字が、泥門の逆転を告げていた。
「ケケッ! 一気に畳みかけるぞ!!」
ヒル魔の号令のもと、泥門デビルバッツは容赦なく網乃を蹂躙し始めた。
「フンヌラバ!」
「まだまだ走れるぜオラァ!」
第4クォーターに入り、試合終了のホイッスルが近づいても、泥門メンバーの足は一切鈍らない。泥門はデス・マーチで培った規格外の根性と暴力的なパワーで、網乃を力ずくで叩き潰していく。
そして――。
『ピーーーッ! 試合終了!!』
スタジアムに鳴り響いた長いホイッスル。
電光掲示板に刻まれた最終スコアは、誰もが予想し得なかった現実を示していた。
【泥門デビルバッツ 38 - 8 網乃サイボーグス】
歓喜に沸き返るベンチ、そして観客席。
アイシールド21という絶対的なエースを欠いた中、完璧なまでの圧勝で飾ってみせたのだ。
泥門のユニフォームを纏い、激しい呼吸の中で誇らしげに胸を張る悟の元へ、モン太や栗田が「大金星だ!」と笑顔で駆け寄ってくる。
その様子を、ヒル魔が満足げに見つめていた。
泥門を勝利へと導いた新しい光。
この試合の主役は、間違いなく彼女――悟だった。
ハーフタイムを終え、フィールドに戻ってきた泥門デビルバッツの陣営を見て、観客席からも、そして対戦相手である網乃サイボーグスからも、疑問の声が上がった。
エースランナーであるアイシールド21の姿が、未だにフィールドのどこにもないからだ。
泥門のバックフィールドに立つのは、前半戦にさした活躍をせず沈黙を続ける悟だ。
「彼女は春大会でレシーバーのポジションだった。おそらく何らかの理由でアイシールドくんを起用できないのだろう。苦し紛れに、女性選手を使ってこちらの心理的な動揺でも誘うおつもりかな?遠慮なく潰させてもらうよ」
網野サイボーグスの主将、胸肩が余裕たっぷりに呟く。
「前半でたっぷりお勉強した成果を見せてもらうとするか、ケケケ」
不敵に笑う地獄の司令塔――ヒル魔から、悟へボールがハンドオフされる。
ガチ、と脇腹にボールを抱え込んだ瞬間、悟の視界の景色が劇的に変貌した。
(――視える)
前半戦、脳内の全リソースを割いて網乃の動きを観察し続けた成果が、今、結実する。
眼前に迫る網乃のディフェンス陣。その足首の角度、大腿筋の強張り、視線の動き。相手が「次の一歩」をどこに踏み出すのか、スポーツ医学に基づいた彼らのマニュアルのような動きのすべてが、コンマ数秒先の未来の映像として悟の脳内に流れ込んでくる。
ドン、と悟は鋭く地面を蹴った。
「なっ――!?」
タックルを仕掛けようとした網乃の選手の手が、不自然なほど綺麗に空を切る。悟は相手が腕を伸ばすより早く、その軌道から自らの身体を完全にズラしていた。一人、また一人と、触れることすらできずに置き去りにされていく。
「バ、バカな!? あの女選手、春大会のデータと動きが全く一致しないぞ!」
「スピード自体は大した事無い…並の筈、なのに、触れられもしない…!まるでこちらの考えが筒抜けだとでもいうように…!」
網乃のベンチから、悲鳴に似た怒号が飛び交う。
悟の快進撃が止まらない状況に、ついに網乃の主将・胸肩が自ら前線へと名乗りを上げた。彼は力任せに悟を潰しにくるような真似はしない。
「ケケッ!お望みは一対一のタイマン勝負か。悟!ぶち殺してこい!」
ヒル魔がコールした作戦は、奇策ではなく、正面突破。
「――スイープ!!」
ヒル魔の声と同時に、泥門のライン陣が咆哮を上げる。
「オラァ! 悟に行かせろ! 道こじ開けろォ!!」
十文字が顔に青筋を立てて叫び、黒木、戸叶、そして栗田と小結が、文字通り肉体の盾となって網乃の精密なライン陣を強引に押し潰した。サイドに拓かれた一本道が作りあげられる。
駆け上がる悟の正面には彼女を潰さんと意気込む胸肩が待ち構えていた。悟と胸肩、二人が真っ向から激突した。
胸肩は悟と相対した瞬間、あえて自らの重心をわずかに右へと傾けた。
それは、緻密に計算された「罠」だった。
人間は、目の前の壁に僅かでも隙間があれば、無意識にそこへ進路を取る。胸肩はあえて進路を開けることで悟の走るコースを自ら誘導する計画だった。
(そこだ……!)
胸肩が勝利を確信し、悟の進路を塞ぐようにステップを踏み出そうとした、その刹那。
悟の『悪魔の予言』は、胸肩が重心をずらしたという事実そのものを、コンマ数秒前に完全に見切っていた。
誘導されたフェイクの進路を、嘲笑うかのように。空いたスペースへ踏み込むと見せかけた慣性を、悟は足首だけで強引にねじ伏せ、真逆の方向へと鋭いカットバックを炸裂させた。
「な……にっ……!?」
胸肩の計算が、完全に崩壊する。
スポーツ医学の粋を集めたはずの身体が、悟の切り返しに反応しきれず、完全に虚を突かれる形となった。
胸肩の手は、悟のユニフォームの裾に触れることすらできない。胸肩を鮮やかに置き去りにした悟は、そのまま誰もいないエンドゾーンへと悠々と駆け込み、ガッツポーズを決めた。
「やった……!!」
割れんばかりの歓声がスタジアムを揺るがす。
スコアボードの数字が、泥門の逆転を告げていた。
「ケケッ! 一気に畳みかけるぞ!!」
ヒル魔の号令のもと、泥門デビルバッツは容赦なく網乃を蹂躙し始めた。
「フンヌラバ!」
「まだまだ走れるぜオラァ!」
第4クォーターに入り、試合終了のホイッスルが近づいても、泥門メンバーの足は一切鈍らない。泥門はデス・マーチで培った規格外の根性と暴力的なパワーで、網乃を力ずくで叩き潰していく。
そして――。
『ピーーーッ! 試合終了!!』
スタジアムに鳴り響いた長いホイッスル。
電光掲示板に刻まれた最終スコアは、誰もが予想し得なかった現実を示していた。
【泥門デビルバッツ 38 - 8 網乃サイボーグス】
歓喜に沸き返るベンチ、そして観客席。
アイシールド21という絶対的なエースを欠いた中、完璧なまでの圧勝で飾ってみせたのだ。
泥門のユニフォームを纏い、激しい呼吸の中で誇らしげに胸を張る悟の元へ、モン太や栗田が「大金星だ!」と笑顔で駆け寄ってくる。
その様子を、ヒル魔が満足げに見つめていた。
泥門を勝利へと導いた新しい光。
この試合の主役は、間違いなく彼女――悟だった。