第三章【秋季大会・地区大会編】
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放課後、1年A組の教室。
練習が始まる直前、その教室には異様な光景が広がっていた。悟、セナ、モン太、十文字、黒木、戸叶、小結の1年生組に加え、わざわざ呼び出された2年生の雪光やまもり、編入したばかりの夏彦、妹の鈴音、どぶろくまでもが教室の隅に置かれた「とある物」を囲んでいる。
それは、古いブラウン管テレビだった。
そこには、殴り書きされた力強い文字が残っている。
『絶対クリスマスボウル』
ヒル魔、栗田、そして今はいないムサシ。泥門デビルバッツを創設した3人が、まだ部員が自分たちしかいなかった頃に刻んだ、誓いの寄せ書きだ。
悟は、凛とした表情で古いテレビを指差した。
「……これ、あの3人だけの夢で終わらせたくないんです」
悟の声は、静かに、けれど教室の隅々まで響いた。
「デス・マーチを走り抜いて、私たちは本当のチームになったはず。ヒル魔さんに脅されてるわけじゃなくて、自分たちの意思で…。ここに、私たちの名前も刻みませんか? 泥門デビルバッツの皆でクリスマスボウルに行くんだって、その覚悟を証明するために」
最初に動いたのは、前日のメンバー発表で唯一名前を呼ばれなかった雪光だった。
「……僕に、その資格があるかな」
消え入りそうな声。自分の限界を知り、絶望の淵にいた男。悟は真っ直ぐに雪光を見つめた。
「あの2000kmを一緒に走り抜いたことが、何よりの資格じゃないですか。私なんかが言うことじゃないですけど…。雪光さんは確かに泥門デビルバッツのメンバーでしょう?」
「悟さん……」
雪光は震える手で、悟から手渡された油性マジックを握りしめた。
ギュッ、と音が鳴るほど強く、消えない覚悟を刻み込む。
『雪光学』
それを皮切りに、ダムが崩壊したように熱狂が伝播した。
「ケッ、仕方ねぇ。俺にも背負わせてもらおうじゃねェか!」
「キャッチじゃ絶対、誰にも負けねー!」
十文字が、モン太が、黒木が。次々と自分の名前を殴り書きしていく。瀧も「アハーハー! 華麗に名前を刻むよ!」と派手な筆致で加わった。
最後に、悟がペンを取る。
彼女は、ヒル魔の荒々しい署名のすぐ隣に、迷いのない筆致で自分の名前を記した。
(ヒル魔さん。あなた一人に、全部を背負わせたりしないから)
創設メンバー3人の文字を囲むように、今の泥門を支える全員の署名が並んだ。それはもはや、ただの落書きではない。一蓮托生の「契約書」へと変わっていた。
「……よし。行きましょう」
悟は全員に練習への合流を促すと、自分もグラウンドへ急いだ。
部室に到着した悟は、アサルトライフルを担ぎ今日の練習メニューをチェックしていたヒル魔の腕と、栗田の太い腕を、それぞれ強引に掴んだ。
「あン? 何のつもりだ」
「わわっ、悟ちゃん? どうしたの?」
「いいから、来てください!」
悟の、これまでにないほど強気で、それでいてどこか誇らしげな瞳に、ヒル魔は眉をひそめながらも足を動かした。
悟に連れられて1年A組の教室に入ってきたヒル魔と栗田は、教室の端にある「それ」を目にした。
「……ああッ!? これ……!」
栗田が、そのつぶらな瞳からボロボロと涙を溢れさせた。
自分とヒル魔、ムサシの名前しかなかったはずの古いテレビに、デス・マーチを戦い抜いた全員の名前がびっしりと書き連ねられている。
「勝手に書き足しちゃいました。クリスマスボウルは今や泥門デビルバッツ全員の夢ですから」
悟はニコりと笑うと、ヒル魔の顔を覗き込んだ。
ヒル魔は、自分の名前のすぐ隣にある「金剛悟」の文字を指でなぞると、その周囲を埋め尽くす皆々の名前を、しばしの間、無言で見つめていた。
「……ケケッ、勝手な真似しやがって」
吐き捨てた言葉とは裏腹に、ヒル魔はその口元に、いつもの凶悪な笑みとは少し違う、穏やかな笑みを浮かべた。
誰一人が欠けても成立しない。泥門デビルバッツ、全員がフィールドにそろう日まで。勝利を掴み続ける覚悟が、部内に共有された瞬間だった。
練習が始まる直前、その教室には異様な光景が広がっていた。悟、セナ、モン太、十文字、黒木、戸叶、小結の1年生組に加え、わざわざ呼び出された2年生の雪光やまもり、編入したばかりの夏彦、妹の鈴音、どぶろくまでもが教室の隅に置かれた「とある物」を囲んでいる。
それは、古いブラウン管テレビだった。
そこには、殴り書きされた力強い文字が残っている。
『絶対クリスマスボウル』
ヒル魔、栗田、そして今はいないムサシ。泥門デビルバッツを創設した3人が、まだ部員が自分たちしかいなかった頃に刻んだ、誓いの寄せ書きだ。
悟は、凛とした表情で古いテレビを指差した。
「……これ、あの3人だけの夢で終わらせたくないんです」
悟の声は、静かに、けれど教室の隅々まで響いた。
「デス・マーチを走り抜いて、私たちは本当のチームになったはず。ヒル魔さんに脅されてるわけじゃなくて、自分たちの意思で…。ここに、私たちの名前も刻みませんか? 泥門デビルバッツの皆でクリスマスボウルに行くんだって、その覚悟を証明するために」
最初に動いたのは、前日のメンバー発表で唯一名前を呼ばれなかった雪光だった。
「……僕に、その資格があるかな」
消え入りそうな声。自分の限界を知り、絶望の淵にいた男。悟は真っ直ぐに雪光を見つめた。
「あの2000kmを一緒に走り抜いたことが、何よりの資格じゃないですか。私なんかが言うことじゃないですけど…。雪光さんは確かに泥門デビルバッツのメンバーでしょう?」
「悟さん……」
雪光は震える手で、悟から手渡された油性マジックを握りしめた。
ギュッ、と音が鳴るほど強く、消えない覚悟を刻み込む。
『雪光学』
それを皮切りに、ダムが崩壊したように熱狂が伝播した。
「ケッ、仕方ねぇ。俺にも背負わせてもらおうじゃねェか!」
「キャッチじゃ絶対、誰にも負けねー!」
十文字が、モン太が、黒木が。次々と自分の名前を殴り書きしていく。瀧も「アハーハー! 華麗に名前を刻むよ!」と派手な筆致で加わった。
最後に、悟がペンを取る。
彼女は、ヒル魔の荒々しい署名のすぐ隣に、迷いのない筆致で自分の名前を記した。
(ヒル魔さん。あなた一人に、全部を背負わせたりしないから)
創設メンバー3人の文字を囲むように、今の泥門を支える全員の署名が並んだ。それはもはや、ただの落書きではない。一蓮托生の「契約書」へと変わっていた。
「……よし。行きましょう」
悟は全員に練習への合流を促すと、自分もグラウンドへ急いだ。
部室に到着した悟は、アサルトライフルを担ぎ今日の練習メニューをチェックしていたヒル魔の腕と、栗田の太い腕を、それぞれ強引に掴んだ。
「あン? 何のつもりだ」
「わわっ、悟ちゃん? どうしたの?」
「いいから、来てください!」
悟の、これまでにないほど強気で、それでいてどこか誇らしげな瞳に、ヒル魔は眉をひそめながらも足を動かした。
悟に連れられて1年A組の教室に入ってきたヒル魔と栗田は、教室の端にある「それ」を目にした。
「……ああッ!? これ……!」
栗田が、そのつぶらな瞳からボロボロと涙を溢れさせた。
自分とヒル魔、ムサシの名前しかなかったはずの古いテレビに、デス・マーチを戦い抜いた全員の名前がびっしりと書き連ねられている。
「勝手に書き足しちゃいました。クリスマスボウルは今や泥門デビルバッツ全員の夢ですから」
悟はニコりと笑うと、ヒル魔の顔を覗き込んだ。
ヒル魔は、自分の名前のすぐ隣にある「金剛悟」の文字を指でなぞると、その周囲を埋め尽くす皆々の名前を、しばしの間、無言で見つめていた。
「……ケケッ、勝手な真似しやがって」
吐き捨てた言葉とは裏腹に、ヒル魔はその口元に、いつもの凶悪な笑みとは少し違う、穏やかな笑みを浮かべた。
誰一人が欠けても成立しない。泥門デビルバッツ、全員がフィールドにそろう日まで。勝利を掴み続ける覚悟が、部内に共有された瞬間だった。