第三章【秋季大会・地区大会編】
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部室の壁に貼られた一枚のプリント。そこに記された「秋大会登録メンバー」のリストを前に、部室内の空気は凍りついた。つい先日まで、地獄のデス・マーチを共に潜り抜けた熱狂の中にいたはずの仲間たちの間に、冷酷な一線が引かれた瞬間だった。
「…読み上げるぞ」
アサルトライフルを机に置き、ヒル魔が淡々と声を出す。その声に、感傷や情けの入り込む隙は微塵もなかった。
「クォーターバック、俺。キッカー兼任な。ランニングバックは小早川セナ、金剛悟。タイトエンド、瀧夏彦。ワイドレシーバー、雷門太郎……それからバスケ部助っ人、佐竹と山岡を交代で使う」
さらりと、中途編入試験を突破した「バカ」こと瀧夏彦のタイトエンド選出が告げられ、着々と「戦うための布陣」が完成していく。だが、リストの最後まで「その」名はなかった。誰よりも練習に打ち込み、誰よりもデス・マーチでボロボロになりながら完走した男――雪光学。
悟は、自分の指先が微かに震えているのに気づいた。
彼女がこのリストに名を連ねている理由。それは、デス・マーチを走り抜いた「努力」だけではない。
セナには、誰も追いつけない「黄金の脚」がある。
ヒル魔には、戦場を支配する「超人的な頭脳」がある。
そして悟には、生まれ持った「神速のインパルス」というギフトがある。
努力は、その「才能」という名の通行証を磨くための砥石でしかなかったのではないか。
どれほど知略を巡らせても、どれほど心を燃やしても、アスリートとしての最低限のスペックという「壁」を越えられなければ、フィールドに立つことすら許されない。それがスポーツという世界の、あまりにも残酷な真実だ。
雪光の背中が、小さく震えているのが見えた。彼は何も言わず、ただ静かに部室を出て行った。
薄暗くなった部室裏。
機材の影から、押し殺したような、けれど隠しきれない嗚咽が聞こえてきた。
「……っ、……う……っ……!」
そこには、一人で膝を落とし泣く雪光がいた。
その背中を見つけたセナとモン太、そして悟は、足をとめた。
慰めの言葉は、喉の奥で詰まって出てこない。自分たちが何を言っても、それは選ばれなかった者への「傲慢」にしか聞こえないことを、彼らは理解していた。
「……セナ、モン太くん」
悟が、震える声で二人を振り返った。その瞳には、雪光と同じほどの痛みが浮かんでいる。
セナは静かに首を振った。今は、寄り添うことすら許されない。
三人は顔を見合わせ、頷いた。雪光に直接声をかける代わりに、彼に聞こえるような、張り裂けんばかりの大声で、自分たちの「決意」をぶつけるように叫び始めた。
「……俺は、キャッチじゃ誰にも負けねぇ! どんなボールだって、この手で掴み取って勝ち続けてやる!」
モン太が拳を握りしめて吠える。
「僕も……負けたくない。泥門デビルバッツが、全員揃う日まで!」
セナの叫びに、悟が呼応する。
「私たちが負けない限り、秋大会は続くんだから。皆でフィールドに立てる日を守るために。絶対、絶対に負けない!」
壁の向こうで、雪光の肩がさらに大きく跳ねた。
それは残酷な「格差」の再確認だったかもしれない。けれど、それが「選ばれた側」の彼らにできる、唯一の、そして最も重い責任の取り方だった。
少し離れた校舎の影。
一人の男がその光景を見つめていた。ヒル魔がフンと鼻を鳴らし、手にしていたメンバー表を丸めてポケットに突っ込んだ。
雪光の絶望も、三人の誓いも、すべてを飲み込んで「勝つための駒」を選び、動かす。それが司令塔の役割だ。
欠けたピースを胸に、泥門デビルバッツの本当の戦いが始まろうとしていた。
「…読み上げるぞ」
アサルトライフルを机に置き、ヒル魔が淡々と声を出す。その声に、感傷や情けの入り込む隙は微塵もなかった。
「クォーターバック、俺。キッカー兼任な。ランニングバックは小早川セナ、金剛悟。タイトエンド、瀧夏彦。ワイドレシーバー、雷門太郎……それからバスケ部助っ人、佐竹と山岡を交代で使う」
さらりと、中途編入試験を突破した「バカ」こと瀧夏彦のタイトエンド選出が告げられ、着々と「戦うための布陣」が完成していく。だが、リストの最後まで「その」名はなかった。誰よりも練習に打ち込み、誰よりもデス・マーチでボロボロになりながら完走した男――雪光学。
悟は、自分の指先が微かに震えているのに気づいた。
彼女がこのリストに名を連ねている理由。それは、デス・マーチを走り抜いた「努力」だけではない。
セナには、誰も追いつけない「黄金の脚」がある。
ヒル魔には、戦場を支配する「超人的な頭脳」がある。
そして悟には、生まれ持った「神速のインパルス」というギフトがある。
努力は、その「才能」という名の通行証を磨くための砥石でしかなかったのではないか。
どれほど知略を巡らせても、どれほど心を燃やしても、アスリートとしての最低限のスペックという「壁」を越えられなければ、フィールドに立つことすら許されない。それがスポーツという世界の、あまりにも残酷な真実だ。
雪光の背中が、小さく震えているのが見えた。彼は何も言わず、ただ静かに部室を出て行った。
薄暗くなった部室裏。
機材の影から、押し殺したような、けれど隠しきれない嗚咽が聞こえてきた。
「……っ、……う……っ……!」
そこには、一人で膝を落とし泣く雪光がいた。
その背中を見つけたセナとモン太、そして悟は、足をとめた。
慰めの言葉は、喉の奥で詰まって出てこない。自分たちが何を言っても、それは選ばれなかった者への「傲慢」にしか聞こえないことを、彼らは理解していた。
「……セナ、モン太くん」
悟が、震える声で二人を振り返った。その瞳には、雪光と同じほどの痛みが浮かんでいる。
セナは静かに首を振った。今は、寄り添うことすら許されない。
三人は顔を見合わせ、頷いた。雪光に直接声をかける代わりに、彼に聞こえるような、張り裂けんばかりの大声で、自分たちの「決意」をぶつけるように叫び始めた。
「……俺は、キャッチじゃ誰にも負けねぇ! どんなボールだって、この手で掴み取って勝ち続けてやる!」
モン太が拳を握りしめて吠える。
「僕も……負けたくない。泥門デビルバッツが、全員揃う日まで!」
セナの叫びに、悟が呼応する。
「私たちが負けない限り、秋大会は続くんだから。皆でフィールドに立てる日を守るために。絶対、絶対に負けない!」
壁の向こうで、雪光の肩がさらに大きく跳ねた。
それは残酷な「格差」の再確認だったかもしれない。けれど、それが「選ばれた側」の彼らにできる、唯一の、そして最も重い責任の取り方だった。
少し離れた校舎の影。
一人の男がその光景を見つめていた。ヒル魔がフンと鼻を鳴らし、手にしていたメンバー表を丸めてポケットに突っ込んだ。
雪光の絶望も、三人の誓いも、すべてを飲み込んで「勝つための駒」を選び、動かす。それが司令塔の役割だ。
欠けたピースを胸に、泥門デビルバッツの本当の戦いが始まろうとしていた。